川を読む

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川  以前、同じ水系の中流域の幾つかの川の説明と写真から、生息している魚の種類や数が最も多いと思うものはどれかを、一般の方々に訊ねたことがあります。 わかりやすい例を並べたつもりだったのですが、正解を言い当てた人は意外と少なかったです。 誰しも子供の頃ぐらいは魚捕りで何度も遊んだ経験があり、間違うはずはないとまで思っていたので、ちょっとしたカルチャーショックを受けました。 でもそんな思い込みは、水田に囲まれた環境で生まれ育ち、いつも生き物と遊んでいた私の経験からであって、 「魚捕りが大好きです/でしたとか、しょっちゅういろんな川に遊びに行ってます/ました」なんて人は案外少数派だすれば、 そんなものなのかも知れません。
川  物の姿や様子を表す漢字に「相」があります。人の顔つきや容貌を人相というので、川の姿や見た目は川相といったところでしょうか。 人柄や性格などの内面はその人相に表れるそうですが、 同様に、川の内面、例えばそこに生息する生き物の豊富さなどは、川相に表れると言えるかもしれません。 実際、ある程度の魚捕り経験があると、はじめて訪れた水辺であっても、魚が多そうか、少なそうか、 もっと言えば、どんな魚が生息しているかまで言い当てることができます。 現場のピンポイント・ショットだけでは難しいかもしれませんが、もう少し広い視野でその川を見たり、感じたりすることができれば、 「この用水路には小鮒に混ざってタナゴの仲間がいそうだ」とか 「この感じだとカワムツとカワヨシノボリだけだろうな」などと想像でき、だいたい正解できます。 私などは習慣付いていて、車窓から川が見えるときなどは、必死にその川を読もうとしている自分に気づくことがあります。 水田を縫うような細い水路ひとつひとつにも必死に目を凝らして、あの魚、この魚、あんな感じ、こんな感じと、思いをめぐらせ、 窓の外から視線を逸らすことができません。普通の人から見ると、ほとんど病気でしょうね。
 川が読めるのは、魚を捕った経験、つまり魚の存在とそれが捕れた場所の状況(川の幅や深さ、形態、流れの強さや変化、底質、水草、転石など)が 事例として頭に蓄積されていて、いわゆる勘が働くようになるからです。従って、一般には経験を積めば積むほどその精度は向上します。 逆に経験が少ないと川を読むことはできず、私の場合は、上流域や汽水域が不得手です。 これは海にも山にも遠い、盆地のど真ん中で遊んでいた幼少時代が影響しているのかもしれません。
 ただし、川が読める、わかると言っても、それは「だいたい」わかるに過ぎません。 河川環境は様々な要因が複雑に関連し合って常に変化し続けているし、水系全体のつながりや、地域による個性、季節的な変動もあるので、 常に全部言い当てることはできないのです。実際に魚捕りをすると、その読みが裏切られることも多々あります。 残念な裏切りの方が多いのですが、その逆の嬉しい裏切りもたまにあって、 例えば見つけたいなあと思っていた生き物と、予想外の場所で出会ったりすると、その日はとてもハッピーな気分になります。 一筋縄でいかないというか、奥深いというか、今もなお教えられるところがあるというか、読みが当たらないところがまた面白い。
「さて次はどこへ行こうか。先日電車から見たあのあたり、なんか良さそうだったから行ってみようかな」。

created:2016/2/6

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