エビの仲間
流程の短い川の上流部ではヤマトヌマエビやヒラテテナガエビを、川の中流付近ではミナミヌマエビやスジエビを見かけます。
下流域や河口域に行くと、テナガエビやシラタエビなどの汽水域にすむ多くの種類のエビを目にします。
外来種のアメリカザリガニは水田地帯を中心にほぼどこにでも生息していて、子供たちの良き遊び相手になっています。
・ヌマエビ
・ヒメヌマエビ
・ヤマトヌマエビ
・ミナミヌマエビ
・ミゾレヌマエビ
・スジエビ
・テナガエビ
・ミナミテナガエビ
・ヒラテテナガエビ
・スジエビモドキ
・ユビナガスジエビ
・シラタエビ
・ヨシエビ
・ウシエビ
・テッポウエビの仲間
・ヨコヤアナジャコ
・アメリカザリガニ(国外外来種)
ヌマエビ
河川の上流域から河口域まで幅広く生息する。
海につながる河川に生息する個体群と池や沼などの止水域に生息する個体群があり、大きさや色彩、生態などに違いがある。
前者は孵化した幼生は汽水域や海に下り、生育してから河川に遡上してくる。後者は淡水域だけで生育する。
体長は3~4cmで、雌の方が大きい。体色は透明であるが模様はバリエーション豊かで、黒褐色や黄白色の小斑点が散らばる。
頭胸部側面には赤褐色の模様があり、それが斜め下後方に向かう。また腹部中央付近には、明色と暗色がペアになった線が節に沿ってある。
今まで食べた経験はないが、地方によっては塩茹でして食べるところもあるらしい。
そういえばどこかで、ヌマエビのフライと書かれた袋詰めがお土産に売られていた。
その場合のヌマエビは、その他のヌマエビ類が混ざったものの可能性は高いけど。
ヒメヌマエビ
河川下流域から中流域に生息する。流れの緩やかなところにある草の下や落ち葉の間などで見られる。
体長は2.5cmほどと小型で、体色は赤褐色、褐色、暗褐色などと変異に富むが、全般的に赤っぽい印象だ。
背中に明色の縦帯をもつ写真のような個体も多く、腹部や頭胸部に明色の横縞をもつ個体も見られる。
額角は比較的長くて先端までギザギザ状の歯がある。
繁殖期は春から秋で、雌は腹部に小さな卵を抱え保護する。卵の数は多い場合で2,000個もあるそうだ。
両側回遊性で、孵化したゾエア幼生は直ちに海に下り、成長して川に戻ってくる。
体が赤っぽかったり、縞模様があるのは保護色なのかな。
体が透明な種類が多い中で、赤っぽくて小さくややずんぐりしたエビを見かけたら本種である可能性が高い。
ヤマトヌマエビ
海につながる河川の上流や渓流部分に生息する。本種はゾエア幼生期に海水を必要とするため、一生を淡水で過ごすことができない。
体は透明であるが、頭部から尾にかけて背中に1本の薄褐色線をもつ個体や、尾肢には左写真のように明瞭な青黒く丸い斑をもつ個体もあるが、
背中線がない個体や、尾の斑がわかりにくい個体もいる。
頭胸部側面から腹部側面にかけては赤褐色の細かい模様があり、雄雌の区別はその模様で行う。
点模様であれば雄、左写真のように波線模様であれば雌だ。本種も雌の方が大きく、体長は4cmを超える。
夜行性が強く、昼間は石の下などに隠れていて姿は見えないが、夜になると石の表面などに出てきて盛んに活動している様子が見られる。
雑食性で藻類や小動物の死骸など何でも食べるため、熱帯魚飼育などでは水槽のお掃除屋として販売され、飼育されることも多い。
混泳魚にちょっかいを出すことはないが、成長と共に雌は予想以上に大きくなり存在感も出てくるので、
メダカ水槽がいつの間にかエビ水槽になったこともある。
捕まえたとき、他のエビはタモ網の中でピチピチ跳ねて逃げようとするが、本種はのそのそと歩き出すことが特徴で面白い。
ミナミヌマエビ
生息域や個体数はかなり広く、河川の上流から下流まで、水路、湖沼などほぼ至るところに生息している陸封性のエビ。
流れが緩やかなところで、岸辺の植物が垂れ下がっているところや水草を探ると捕れる。
暗青色、赤褐色、濃褐色、薄褐色、透明度が高いものなど、様々な体色の個体がいて、
さらに背面に薄褐色の縦帯がはっきりと入っているもの、モザイク状の模様をもつものなど模様もバリエーション豊かだ。
体長は2~3cm程度で、よく似たヌマエビよりも小型でややずんぐりしている。主に水草や付着藻類などを食べている。
釣り餌やアクアリウム観賞用などとして、本種に近縁である中国、韓国、台湾原産の外来のカワリヌマエビ亜種群が国内に侵入しており、
各地で放逐された個体が在来の本亜種個体と交雑したり置き換わったりして、個体数を減らしつつある。
写真の個体は捕れた場所の移入状況、形態的な特徴から高い確率で本種だと思う。
ミゾレヌマエビ
河川中流から下流域の流れの緩やかなところを好み、水草や抽水植物の間などに生息している。白色の微少な斑点が体に散らばるため「ミゾレ」の名がある。
体の透明感が高く、腹部には波の形をした暗色斑が目立つ個体が多い。背部にクリーム色のラインが入る個体もいるが、体の模様は変異に富む。
体長は2.5~3.5cmで雌の方が大きく、夏の繁殖期には写真のような抱卵個体がよく捕れる。
卵は多い個体だと5,000個ほどもあるそうで、雌は孵化するまで腹脚に抱えて保護する。
孵化したゾエア幼生は流れに沿って海に下り、約1ヶ月程度のプランクトン生活をした後、稚エビとなって川を遡上してくるそうだ。
同所にみられるヌマエビの中には、本種のように白色の微少斑点を体にもつ個体がいて紛らわしいが、
本種は眼上棘と呼ばれる小さなトゲを目の上方にもたないことで区別できるとされる。
しかしこの眼上棘なるものはかなり小さく、手の上の個体からその有無を見出すのは至難の業だ・・・。
スジエビ
河川の中、下流域に生息する。透き通った体に目立つ黒横縞があって、それが名前の由来。頭胸部側面に逆さになった「ハ」の字があることが特徴だ。
上から見ると目がやや外に飛び出していて、よく似た小さい頃のテナガエビ類と区別できる。
ため池にいる個体は3cm程度の小型のものが多く、河川ではより大きな5cm程度のものが捕れる。別種類なんだろうかと疑うほどサイズが違う。
体が透明なので、飼育しているとキンギョのエサなどの色付きのエサが消化器官の中を進んでいく様子が丸見えになる。
ジャンプ好きでジャンプ力もあるため、容器に入れた後はしっかりとフタをしておかないと自ら飛び出して乾燥エビになってしまう。
雑食性であるが、小魚と一緒に入れておくと何かとちょっかいを出す困り者でもある。翌朝には襲って食べてしまっていることもあった。
エビ類は飼育しているウナギのエサとすることもあるのだが、このサイトで紹介している淡水エビ類をそんな観点から比較すると、
本種はほぼ最後まで食べられずに残るエビだ。まずいと言うことではないと思うので、何か食べられない秘密があるんだと思う。
テナガエビ
河川の中下流域や河口域に生息し、テトラポッドの隙間、流れの緩やかなワンド内の障害物の隙間やその周囲にいる。体長は6cm程度になる。
いわゆるハサミ(第二胸脚)が著しく長く、特に雄は長くなり体長の約1.5倍もあるから驚きだ。煩わしくないのだろうかと思ってしまう。
夏前の梅雨時期から初夏にかけてが繁殖期の始まりで、その頃に活発に活動することから、釣りの対象として楽しまれ食される。
確かに素揚げにして塩をふりかけて食べるとかなり美味い。
写真のような成体はハサミが極端に長いのですぐに見分けが付くが、子エビだとヌマエビやスジエビなどとの違いがわかりにくい。
しかし、頭胸部側面には「m」模様があり、ハサミが比較的長くてヌマエビほどきゃしゃではなく、
スジエビのように筋模様がはっきりしないという特徴がある。
また同じテナガエビの仲間でよく似たミナミテナガエビと比べると、
額角が直線状で長くで立派であること、指節(いわゆる脚の先端の節)が長いことなどからも区別ができる。
さらに雄の立派なハサミの部分には細かい毛がたくさん生えていることも違いのひとつだ。
雑食性であり、水草も食べるが小魚と同居させると補食してしまうので注意が必要だ。
家で飼育しているウナギを観察していると、テナガエビ類はウナギの大好物のようで、
淡水エビ類の中では比較的大きい個体であってもまず最初に食べられ水槽からいなくなる。それだけ美味いということだろうか。
ミナミテナガエビ
河川の上流から下流域まで広い範囲に生息する。分布は本州中部以南で琉球列島に多いことからミナミと名が付いているそうだ。
体長は8cm程度で、いわゆるハサミ(第二胸脚)が長く雄は体長の2倍程度になる。雌はそれが短い。
テナガエビに似ているが、頭胸部側面の「m」模様がより太くはっきりしていること、額角が細長い木の葉の様な形でテナガエビより短いこと、
より上流に遡上するために指節が短いことなどから判別は可能だ。
写真は石がゴロゴロしている河川上流域で捕った個体。いわゆるハサミが大きいので雄だ。
テナガエビが琵琶湖や池などの海と隔離された環境でも繁殖できるのに対して、本種は海とつながったところでないと子孫を残すことができない。
それは孵化したゾエア幼生が汽水域から海でないと成長できないからだ。
繁殖期は初夏から秋にかけてで、孵化したゾエア幼生は海へ下る。
成長し稚エビになると川に遡上してくるが、本種が捕れたいろんなところの環境を考えると、遡上力はかなりのものだと思う。
ヒラテテナガエビ
ぶっといハサミ(第二胸脚)が特徴的なテナガエビの仲間。ハサミ(”手”)が平たく見えるからヒラテなのかな。
体は茶褐色をしていて体長は8cm程度。雄のハサミは体長の1.5倍程度になる。
テナガエビやミナミテナガエビとの違いは、頭胸部側面に「m」模様がなく、若い個体では後方に向かう二本の線があること、額角は最も短いこと、
それから腰の一番出っ張った部分に暗色の太い帯があることで、本種の区別は比較的容易だと思う。
河川の中流から上流域の石がゴロゴロしているような流れの速いところを好んで生息している。
ミナミテナガエビも同所的に見られるが、本種のほうがより上流まで生息している感じだ。
指節はミナミテナガエビよりも短く、それは上流域の速い流れに適応するためだ。
他のテナガエビ同様に夜行性で、夜になるとエサを求めて活発に動き出す。
繁殖期は初夏から夏にかけてで、孵化した幼生は流れに乗って汽水域や海に下り、稚エビに変態した後に再び河川へと遡上する。
写真はまだ若い雄。マッチョなハサミがとってもイイ感じ。
スジエビモドキ
河口付近に生息する体長4cm程度のエビ。個体数は多く、汽水域の大きな石の周囲などで捕ることができるが、潮溜まりなどにも多いそうだ。
体はほぼ透明で腹部に黒褐色の筋模様がある。額角は上縁が直線状で、ギザギザはよく似たスジエビよりも多い。
テナガエビほどではないがやや長いハサミをもち、脚には黄色い点々がある。
アユモドキ、クルマバッタモドキなど「モドキ」と名のつく生物はいろいろいるが、何となく偽物っぽい印象でかわいそう。
本種だって立派なひとつの種なのに・・・。ありふれた種は「な~んだ、○○か」的な扱いをされることが多いが、
「モドキ」もそれと同じでそれだけ身近で馴染みのある生物であるということかな。
ユビナガスジエビ
河口や干潟に生息する全長4cm程度のエビ。個体数は多く、汽水で遊んでいると普通に目にする。
体はほぼ透明で薄褐色の個体が多いが、黒っぽいものなどバリエーションがあるようだ。額角はゆる~く反っているがほぼ直線状。
やや長いハサミをもっていて、小型のテナガエビに似ている。さらにそっくりなのが、上で紹介しているスジエビモドキ。
同じ環境に生息していて同時に捕れることも多いが、本種は全身に黒色の点々が散在し、腹部に目立った縞模様をもたないことなどで区別が可能だ。
写真の個体は転石がゴロゴロしている春の汽水域で捕まえた。スジエビモドキの他、ケフサイソガニ類も同時にたくさん捕れた。
シラタエビ
汽水域でよく見かけるエビのひとつ。汽水の砂泥底をタモ網で引きずって捕ることができる。体長は7cm程度になり、体は驚くほど無色透明。
額角が鶏のトサカのように円く盛り上がっていてること、大きな個体では触角が青色をしていることが特徴とされる。
ちなみに、左写真の個体はまだ小さいために触角は色付いていない。エビは通常熱を通すと赤くなるが、本種はシラスのような白色になる。
ヨシエビ
汽水で捕れるエビをさらに紹介。体長は15cm程度になる美味しいエビでクルマエビに次ぐ商品価値があるエビ。
写真のような稚エビの頃は名の通りヨシ原のあるような下流・河口域の砂泥底で捕ることができる。
暗色点が体中に散らばっており、うっすら透明な体をしている。夜行性で昼は砂泥に潜り夜に活動するそうだ。
写真の個体は8月に淀川下流部で捕れた4cm程度の稚エビ。シジミを捕ろうとタモ網で水底を漁っていると一緒に捕ることができた。
ウシエビ
クルマエビの仲間で、いわゆる「ブラックタイガー」と呼ばれるエビ。
食用として各地で利用されており、東南アジアなどで養殖されたものが、日本へ輸入されている。
浅い海の砂泥底に生息し、成体の体長は30cmにもなるほどの大きなエビであるが、汽水域で見られるのは写真のような小型の個体だ。
呼称名にあるように全身は黒っぽく、腹節や歩脚・腹脚に黄色の縞模様が入る。写真の個体はヨシの根元近くで枝ゴミが水面を覆う砂泥底でタモ網に入った。
秋に出会うことが多い。
テッポウエビの仲間
河口部にある干潟や内湾の砂泥底に生息する。
良好な環境が保たれている干潟で潮が引いたときによく「パチパチ」という音が聞かれるが、その音はテッポウエビの仲間が発生させたものだ。
体長5cmぐらいで、第一歩脚の片方にポパイの腕のようなぶっとい大きなハサミをもつ。
このハサミを開いてかち合わせて「パチン!」という破裂音を出す。
これは敵を威嚇したり獲物を気絶させたりするときに使うものだが、4400℃のプラズマ閃光がきらめく衝撃波というからスゴイ。
まともに食らうと一発ノックアウトだろう。巣穴を掘って生活し、藻類や小動物を捕食する。ハゼ類などと共生することも多い。
干潟では砂泥底を掘るようにタモ網を入れると比較的容易に捕まえることができる。
写真はおそらくイソテッポウエビの仲間。腹部に縞模様をもつ。
ヨコヤアナジャコ
河口域にある干潟の泥底に生息するアナジャコの仲間。日本固有種。
体は柔らかく、不完全なハサミ脚をもち、腹部下にはひれ状の附属脚をもつ。
体長は5cmぐらいでアナジャコよりも小型。ハサミ脚の稼働指内側には数個の歯状突起があることでアナジャコと区別できる。
本種が生息する底質はある程度の幅があり、より淡水の影響の大きいところ、小さな礫が混じるような場所でも見られる。
泥の中に50cmほどの分岐した巣穴を掘って生活する。腹の下にある附属脚を使って水流を起こし、プランクトンやデトリタスをこしとって食べる。
巣穴はヒモハゼなどの小型ハゼ類、エビ・カニ類などの多くの生物が活用し、また干潟の表面積が増えるため、干潟の浄化能力を高めている。
写真の個体は潮が引き、干潟のたまりから川に向けて水が流れているところを歩いていたので捕まえた。
ちなみに見た目は似ているが、「シャコ」とは別の生物だ。
アメリカザリガニ(国外外来種)
私の田舎では「エビガニ」と呼んでいた。本来日本には生息していなかったアメリカ原産の国外外来種だ。
田んぼ、用水路、ため池、河川の中下流域など、今や至る所に生息しており、水質の悪化にも強く、都市のコンクリート河川でも見られる。
日本へは1930年にウシガエル用のエサとして、アメリカから移植された。
ウシガエルの養殖は頓挫し、ウシガエル、本種とも野外に捨てられ、徐々に日本全国に広がった。
田んぼの畦に穴を開けるなどお百姓さんには嫌われる存在であるが、今でも子供たちの人気者である。
成体は深紅色の体に大きなハサミをもち、格好が良い。
容姿、サイズ、見つけやすさ、動きのスピード、捕りやすさなどの点から、子供が最初に追い求め遊ぶ相手となる入門的な水辺の生き物で、
誤解を恐れずに言えば、子供たちが水辺の生き物に興味をもつきっかけとなる種とも言える。
私も小学生の頃はザリガニ釣りをよくやった。駄菓子屋で味付けのスルメを購入し、それをタコ糸に結びつけ、ザリガニのいそうな池や用水路に垂らす。
食いしん坊な本種は、両方のハサミでガッチリとスルメをつかんで水面から上がってきても放さないのだ。
しかし、スレていることが多いのでそうは簡単に釣れず、我々の姿を確認するとスーッと水中へ戻っていくことも多かった。
虫取り網も一緒に使ってみるなど、子供なりに工夫してあ~だこ~だと知恵比べをしたことを思い出す。
全長は15cm程度で雄の方がハサミが大きく格好いい。
雑食性で水草から小魚まで何でも食べるので、在来の生態系に与える影響は大きく、
環境省は外来生物法に基づく「特定外来生物」に指定する方向で検討し、野外での繁殖に歯止めをかけようとしている。
created:2012/1/13