アブラボテ Tanakia limbata
コイ科タナゴ亜科アブラボテ属

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アブラボテ

【生息場所】 河川の中流域、支流、用水路などに生息し、狭い小川などでも見られる。流水を好み、タナゴの仲間では比較的多く確認することができる。
【形態・生活】 日本固有種で全長は9cm程度。体は側扁し体高がある。比較的長い口ひげをもつ。 重油色と表現される褐色の体をしていて、薄かったり濃かったり、光の加減で紫色や緑色がかって見えることもある。 尻びれは先端が黒色に縁取られ、雄のそれは黒色とオレンジ色の2層×2段だ。 また、背びれと尻びれの基底に付着している鱗は2列あることが特徴で、その部分は肉が盛り上がっているように見える。 本種は未成魚の頃から褐色をしているので、他の在来タナゴ類と迷うことは少ないが、上述の2列の鱗は本種であることの決め手にもなる。 繁殖期は春。雄は体色やひれの色が濃くなり、吻の先端には白くブツブツした追い星の固まりが現れて、まるで口先にビールの泡を付けているようになる。 なわばり意識がさらに強くなり、侵入者を追い回す習性がいっそう強くなる。関西にすむタナゴ類の中では最も気性が激しいと思う。 マツカサガイなどの二枚貝に産卵し、仔魚はだいたい25日程度で浮出してくるそうだ。雑食性で、底生動物などを食している。
【捕る】 タモ網や釣りで捕ることができる。流れのある水草の脇、捨て石の陰、岸辺近くの草の下などを中心に隠れている。 他のタナゴ類がいても真っ先に食いついてくるので、比較的釣りやすい。エサは黄身練りやグルテン、アカムシなどを状況に合わせて使う。
【飼う】 丈夫で飼育は容易であるが、気性が荒いので少し難しい面がある。強い個体は水槽の隅などになわばりをつくり、目に入った他魚を追い散らす。 特に繁殖期では他魚を水槽の隅々までしつこく追いかけ回すため、大きな水槽でないと吻端をぶつけたりひれが割れたり、ケガをする魚が出てくる。 十分すぎるくらいの大きな水槽で飼う、あるいは水草や障害物などの隠れる場所をつくるなどの工夫が必要だ。
【その他情報】 体色や、尻びれの色および筋模様の入り方が地域によって異なるようだ。 また他のタナゴ種との交雑種がよく見られる。「ヤリタナゴ×アブラボテ」、「タイリクバラタナゴ×アブラボテ」 など。
※ヤリタナゴ×アブラボテ(いわゆる”ヤリボテ”)は こちら
【コメント】 本種は最も食いしん坊なタナゴ。在来のタナゴ類の中でも比較的釣りやすく、捕りやすい。 幼魚であっても体全体が褐色なので、区別は比較的容易だ。 しかし、ヤリタナゴとの交雑個体がたまに捕れ、そのときは交雑か本種なのかを悩むことがある。 見た目が微妙な個体は多く、「怪しいかも」と思いながら見ていると、はじめは本種だと思っていた個体まで、だんだん交雑個体に見えてくるから不思議だ。 私にはほぼ毎年訪れる川がある。そこは自然度が高く、生き物が豊富な川だ。 タモ網を片手に川に降り、水から引き上げた網の中に本種を確認すると、「あぁ、まだいい環境が残っている」と安心する。 本種を飼育観察していると、雄のシブイ風貌や気性の激しそうな行動はまるで「野武士」のようだ。 しかし、野武士といえど人為的な環境変化には極めて弱いタナゴの仲間、大切にしたい小魚のひとつだ。

春のはじめに捕まえた若い個体。 渋い重油色のボティで、広がった背びれや尻びれには オレンジ色のラインが入る。

中流に流れ込むコンクリ水路で捕まえた雄。 繁殖期はまだ少し先で、体色は明るく、吻端の追星もまだ控えめだ。

春のはじめに捕まえた雄。 全長6cmに満たないぐらい。中流河川の岸草の陰でタモ網に入った。派手な体色のタナゴの仲間にあって、落ち着いた色合いはなかなか良い。 ひれのオレンジのラインが映える。

春に釣りを楽しんだ。 繁殖期のピークなのだろう、濃くてしぶ~い婚姻色が出ている。これぞ雄のアブラボテ!

これも春の雄の成魚。 タナゴの仲間では真っ先に釣れてくる食いしん坊だ。ボディの色は薄めであるが、婚姻色に染まったひれがきれい。

でっぷりした感じにどこか貫禄がある。 吻端には泡のような追星が、口元には長いひげが確認できる。まさにアブラ色だ。

別地域で捕れたやや青みががった個体。

ひれが伸長し濃い体色の雄。 これはこれで大変美しい。小さな体だけど、この感じかっこええわ。

尻びれの二段模様がよくわかる。 お腹いっぱいという声が聞こえてきそう。

婚姻色が出た若魚。 尻びれのオレンジ色が鮮やかだ。やや細身で色も淡いこんな小型個体もたくさんいる。

春に捕まえた雄。 今年もたくさん出会ったけど、この川、産卵母貝となる二枚貝が減っているように思う。あちこちに見られた貝殻が見当たらない・・・。

春に用水路で捕った雄。 やや流れのある水草の脇で多く捕れた。

代掻きの濁った水が入り、水がカフェオレ色 になった農業水路でタモ網に 入った。全長5cmほどの雄だ。

婚姻色を帯びた春の雄。 尻びれのオレンジの帯が美しい。

GWに水路の落ち込みでタモ網に入った雌。 全長7.5cmほど。田植えの水が流れ込み水路の水はカフェオレ色で体色が明るい。産卵管が長く伸びている。

上と同時にタモ網に入った雌。 お腹はぷっくりで卵がいっぱいだろう。この個体は産卵管が短い。周期的に長くなったり短くなったりする。

ゴールデンウィークに捕まえた雄。 水田の脇を流れる水路でタモ網に入った。繁殖期を迎え、濃い重油色に染まり、吻端には白い追星が見られる。 全長は8cmに満たないぐらいだった。尻びれのオレンジ色のラインは不明瞭で、この地域に生息する個体の特徴と思われる。

田植えが終わった水田地帯を流れる水路で タモ網に入った。黒くてでかい。こんなのが何匹も一度に入ってちょっとびっくり。

春の終わりの水路で、 大きくて真っ黒な個体が捕れた。 全長8cm、どうよ、この存在感!体高のある立派な雄だ。吻の追星がまるでビールの泡のよう。眼の上にも追星が見られる。

上と同所で捕まえた雄。 この個体も立派な体格をしていて全長は8cmほど。このエリアの雄はいずれも尻びれや尾びれが全体的に黒っぽく、オレンジ色の帯が目立たない。

田植えの頃に捕まえた雄。 この個体はとても大きくて全長9cmあった。見てっ!この立派な背びれ、尻びれ!

上と同時に捕った雄。全長約8cm。 水路の水が落ち込んだ巻き込みをすくうと、一度にたくさんの個体がタモ網に入った。

春の終わりに捕まえた雄。 全長6cmに満たないぐらい。尻びれはオレンジのラインがあまり目立たずにほぼ黒色。中流河川の岸際の草の陰や転石の陰などでポツポツ入った。

夏、水田の脇を流れる水路で捕まえた雌。 流れが板で仕切られ、水が少なくなったところに取り残されていた。手づかみで簡単にキャッチ。 水がこぼれ落ちるところにタモロコやヤリタナゴやヒガイやシマドジョウ、ヨシノボリなども数多く集まっていた。 昔見た水路を思い起こさせる。

盛夏に捕れた雄。 実際に手に取るともう少し色濃いが、体色、背びれや尻びれの模様はピーク時に比べると薄い。

盛夏の別個体。 長い口ひげが良くわかる。

上と同日、同所で捕った別個体。 中にはこのように体色の濃い雄もいるし、産卵管の伸びた雌もいる。繁殖は8月でも続くのだろうか?

別河川で盛夏に捕った雄。 尻びれは先端部分が黒いのみで、婚姻色はほぼ消失している。この個体の体色はオリーブ色が強い。

夏に川の止水域で釣った個体。 本種はまず最初に釣れてくる種類だけど釣れたのはこの1匹のみ。やはり流れのある所の方が好きのようだ。

夏の河川で捕まえた。 全長5cmぐらいの雄。本種らしい丸みがないというか、キリッとスマートな体形をしている。 ヤリタナゴも同所で捕まえたが、もしかしたら・・・両者交雑の 「ヤリボテ」?

秋の雄。 バケツに入れているうちに体色が薄れた。エラの後方にある暗色斑が余計に目立つ。

秋に釣った雄。 全身は黒っぽくて鱗模様がはっきりしている。独特の雰囲気をもっている。

秋でもちゃんと黒い。

秋に捕った全長6cmの雄。 なかなか渋い体色だ。本種は流れのある水通しのよいところが好きで、タモ網でも比較的簡単に捕ることができる。

秋に捕った雌。 体色が薄くて背びれや尻びれの模様もはっきりしない。

紅葉の頃に捕った捕った若い個体。

秋に釣った個体。 本種はタナゴ類の仲間では食いしん坊No.1で、黄身練を落とすとどんどん釣れる。楽しい一日を過ごすことができた。

冬の個体。 サラサラ流れる水草の脇で春の訪れを待っていたようだ。

冬に捕った全長5.5cm程度の雄。 背びれや尻びれにはっきりした模様が出始めている。

上と同日、同所で捕った ほぼ同サイズの雌。雌の尻びれはオレンジ色で先端が黒く縁取られている。雄の模様とは異なる。産卵管は黒っぽい。

冬に捕った全長4.5cmの雌。 尻びれ前に小さな産卵管が見える。

全長5.5cm程度の冬の雄。 体が丸くてコロコロしている印象を受ける。

冬に捕まえた雄。水草の中に隠れていた。

短い産卵管が見えるので雌。 岸のえぐれたところを足で探るとタモ網に入った。日中でも暗く陰になったところなので、どの個体も体が黒かった。

冬に捕まえた全長約4cmの幼魚。 この個体はうろこ模様がくっきり。

タモ網ですくった幼魚。 体長は約2.5cm程度。体色は全体的に薄褐色でタナゴの仲間でも区別しやすい。目が大きくてとてもかわいい。

鱗が細かくキラキラする銀鱗の個体。 見る角度によっては、薄紫っぽく光る。

春の雄。 大きな体を見せつけるような姿だ。繁殖期、 卵を産み付ける二枚貝をめぐって雄同士が争う際、二匹はひれを全開し、体の大きさを見せあうように並んで泳ぐ。

背びれ付け根の拡大。 背びれ付け根に付着している鱗は2列あることが特徴的で、肉が盛り上がっている様に見える。本種の同定に使うことができる。

成魚を真上から。 薄っぺらいこと以外、特にこれといった特徴はなさそうだ。

秋に捕った若い個体を正面から。 左は雄。下向きであるがつぶらな黒い目がかわいい。左は雌。何かを話しかけているひげのおじさんみたい。

春のはじめに捕まえた雌雄。 体が大きく黒っぽい方が雄のようだが、実はその反対。左の個体には吻に追星があるから雄、右はそれがないから雌だよ。

繁殖期を迎えた雄。 吻の追星は骨のように真っ白。額部分にもたくさんの追星が。ここまで出るのはすごい!

春に捕った個体。 光の加減や角度によっては青紫色に見える。

春のゴマゴマ個体。 高橋吸虫によって犯された一部の鱗が銀鱗になっている。同所には銀鱗のヤリタナゴも確認できた。

繁殖期を迎えた雄。 田んぼの脇を流れる水路でタモ網に入った。デロ~ンとでかい。

春、水路の落ち込みの下で 渦が巻いているところでひとすくい。生息に適した環境が整っているところではこんなもんだ。 ほんとたくさん捕れる。田植えの泥水が入ったので体色はかなり明るい。

last modified:2023/7/20
created:2012/1/7

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