ビワマス Oncorhynchus
sp.
サケ科サケ亜科サケ属
【生息場所】
成魚は琵琶湖内の水温の低い中層付近に生息している。秋には産卵のため琵琶湖流入河川に遡上し、春には河川の流れが緩やかなところで稚魚が見られる。
【概観・生活】
全長40cm以上になる琵琶湖固有亜種。
河川で生活している稚魚・幼魚の間は、体側にパーマークや朱色点をもち、ひれの模様も含めてアマゴのそれと大変よく似ていている。
吻がより丸くて顔がやや寸詰まりしている感じがするが、わかりづらい。琵琶湖に下る頃になると体側の模様は消失して体は銀白色になっていく。
琵琶湖で成長・成熟した個体は、繁殖期の9月~11月になると、雨が降って増水した河川に遡上してくる。
そのときの体色は濃いオリーブ色に薄赤紫色で不定形な雲状斑があるものになり、雄の顔はサケと同じように鼻曲がりとなって厳つい感じになる。
産卵は河口から中流の間で行われ、間もなくその一生を終える。
河川で生まれた稚魚は2月~3月に浮上して成長し、5月~6月に体長8~10cmとなって母なる琵琶湖に下る。
降湖した個体は深みに移り、沖合の水温の低い中層を生活圏として3~5年間生活する。
湖中の未成魚はヨコエビなどの甲殻類を、成魚はアユやイサザなどの魚類とヨコエビを主に食べるそうだ。
1年で20cm、2年で30cm、3年で40cm程度に成長する。
【捕る】
滋賀県の漁業調整規則では全長30cm以下の個体は採捕が禁止されている。
もしそのサイズが偶然にもタモ網に入ってしまったり、釣れてしまったりした場合は、直ちにやさしく川に戻そう。
加えて、10月~11月は産卵のために河川に遡上・産卵する期間にあたり採捕禁止とされている。
【その他情報】
一般にサケ科の魚は一度海に下り、産卵のためにまた川に遡上する習性をもつが、ビワマスは湖と川の間を往復する。
降湖せずに河川に留まり成長を続ける河川残留型や、初夏の頃に河川に遡上してくる早期遡上群の存在があることが明らかにされている。
河川残留型はそのほとんどが雄で、生まれて1年で小型ながら成熟し、秋に遡上してくる個体群の産卵に参加するそうだ。
本種はかつてアマゴの降海型が琵琶湖を海に見立てて習性が変化した湖沼型といわれていたが、今は別亜種と考えられている。
6月~9月の間、湖内で小糸網で漁獲される重要な漁獲対象魚。
炊き込みご飯、焼き物、鍋、フライ、ムニエルなどで食べられるが、個人的には刺身が好き。脂がのって美味い。
栃木県中禅寺湖、長野県木崎湖などにも移植されており、中禅寺湖では別亜種のサクラマス・ヤマメと交雑している。
【コメント】
12月に入ったばかりの週末、河原に降りて2m程度先にある橋梁の根元を見ると、鼻をひん曲げた大きな雄が真横を向けて定位していた。
すぐにパシャリと音を立てて少し向こうのヨシ原の根元に移動し、その後川を上っていったが、
それは私が自然個体に出会った初めての瞬間であり、その凛々しい姿は強く目に焼きついている。
その翌年秋に改めて見に行くと、背を出しながら小さな堰を乗り越えていく個体、川の真ん中に定位している個体、
尾びれを水底に叩きつけて産卵床を掘っている雌とその周囲で近づく個体を追い払う雄など、あちこちで本種が見られた。
川岸の所々にはサギ類がいて、力尽き流れ着いた個体をついばんでいた。
産卵期のマス類を中心としたそんな光景は四角いテレビ画面を通して何度も見たことがある。
しかし、その場の空気感は、その場ににいないと絶対にわからない。その場に身を置いて体感すること、やっぱり、それが大事やね。
禁漁期間を過ぎた
12/1に河川で捕まえた個体。全長55cmほどの大型の雄だ。婚姻色で体全体が黒ずみ、体側に赤紫色の雲状斑が表れている。
ひれなど所々にカビが生えており満身創痍な感じだが、それがなんともかっこいい。
子孫を残し一生を終えるまであと少し、頑張れ!
琵琶湖流入河川、
禁漁期間が過ぎた12/2に捕まえた雄の成魚。全長は40cmを超えるくらい。鼻はひん曲がり、繁殖期特有の厳つい顔つきをしている。
同時に泳いでいた他の個体と比べ、ひときわ美しいピンク色の婚姻色を帯びていた。
12月に入った。
少し深い場所で捕まえた全長50cmほどの雄。口がかぎ状に曲がっていて、勇ましい顔をしている。
秋に台風の通過がなく、琵琶湖の水位が記録的に低下しているが、例年ほどの遡上が見られるようだ。
禁漁期間が終わったので、
川に行ってみたら大きな雌が捕れた。雄ほど派手ではないが、薄いピンク色の婚姻色が出ている。お腹には卵をもっていた。
別の雌。
このサイズなのでタモ網に入ると、ガツン!と衝撃が走る。堰の隅に上手く追い込めばタモ網でも捕れる。
この雌の
全長は40cmに満たないぐらい。繫殖期で河川を遡上していたにも関わらず、体は一様に銀色で、ほのかなピンクを帯びる程度だった。
雌も雄のような婚姻色が表れるはずなんだけど・・・。
雄の成魚の頭部。
この大きさが伝わるだろうか。口はひん曲がり、鋭い歯はむき出しで、これでライバルに噛みつくのだろう。
繁殖期の成熟したマスはめちゃイケメン!
雌成魚の頭部。
やや厳つくなっているが雄ほど口がひん曲がっている訳ではない。
雌の頭部。
雄ほど「鼻曲がり」にはならない。それにしても、顔の寸詰まり感がすごない?
雌は自らつくったと思われる
産卵床付近にいることが多かったが、雄はうろうろと広く泳いでいる姿をよく見かけた。
それを追いかけると勢いよく逃げるのだが、たまにボサにシュッと隠れることがあった。
「頭隠して尻隠さず」な時もあって、こんな厳つい顔をしていても、意外と間抜けなことをする・・・。
上の個体を真上から。
幼魚の頃に見られたパーマークは無いが、黒斑は健在している。
やや瘦せた印象を受けたが、逃がすと力強くバシャバシャーッと泳いで行った。
繁殖期に遡上してきた個体。
流れに頭を向けてこの位置にぴったりと定位していた。
周囲には雌に寄り添う雄、尾びれを水底に叩きつけて産卵床を掘る雌、近づく個体を追い払う雄など、あちこちで本種が見られた。
私の姿に驚いて草の陰に隠れたところ。
携帯電話を水中に突っ込んで水中から撮影してみた。
春、意図せずタモ網に入った
全長約8cmの個体。
体側には楕円状のパーマークをもち、側線周辺に朱色点が見られる。吻は丸く、顔は寸詰まりの印象を受ける。
もちろんすぐに優しく川に戻したが、捕まえてしまったことがどこか申し訳ない。
小さくごく浅い用水路で。
アマゴかと思ったが、吻が寸詰まった感じなどからしても本種で良いと思う。
捕っちゃってごめんなさい。
すぐ上流にはアマゴが生息する河川から取水する
水路でタモに入った。
全長8cmに満たないくらい。アマゴかもしれないが、本種が遡上する範囲なので、ビワマスかなあ。
体がやや銀色っぽくなっている感じがあるので、ビワマスだとすると、時期的にもサイズ的にもぼちぼち降湖しするころかな。
全長6cmほどの個体。
成長した個体に見られる朱色斑が薄っすらと現れている。勇ましい顔がかっこいいね。
全長約4cm程度の個体。
こんな小さい個体はとっても可愛くて嬉しいんだけど、さらに悪いことをしてしまったような気になる。
この個体はやや丸っこい体形をしている。
たくさん食べて大きくなあれ!
さらに小さな個体。
同所同時に捕れても、成長の度合いにけっこう差がある。
背はモスグリーンで、散在する黒斑が目立つ。
大きな口にギョロッとした目、
いたずらしそうな顔だ。
川岸に鳥が群がっていたので近づいてみると、
写真の個体があった。身はついばまれて、頭と皮だけになっていた。口の形から雄だとわかる。繁殖を終え力尽きたのだろう。
本種の押し寿司。
あるイベントで出向いた醒井養鱒場で頂きました。美味しかったです。
ビワマスのフライ。
これもとあるイベントで食べる機会がありました。大変美味しゅうございました。
ビワマスのイクラ。
普通もっと赤っぽいが、この個体のものは黄色かった。サケのイクラと比べると膜がぶ厚くてゴムのように弾力がある。
皿の上でポンポン跳ねるくらい。味はやや薄いけどイクラの味!ちなみに大きな個体ほど粒が大きい。
※成魚はいずれも採捕禁止期間外に捕まえたものです。 また採捕禁止サイズの全ての生体はその場での写真撮影後、直ちに丁寧に戻しました。
created:2019/2/16