ビワヨシノボリ Rhinogobius
biwaensis
ハゼ科ヨシノボリ属
【生息場所】
琵琶湖および、内湖や琵琶湖流入河川河口部を生活の場にしている。
【外観・生活】
琵琶湖固有種で、全長は約5cm程度。ヨシノボリの仲間では小型の部類だ。
鼻先は短く口がやや上を向いていて、寸詰まりな印象を受けるのは近縁のシマヒレヨシノボリと同様。
えらの下部は橙色をしており、尻びれ基部も橙色、第2背びれや尾びれには縞模様が見られる。雄であっても第1背びれは伸長しない。
繁殖期は初夏で、雄は第2背びれや尻びれを大きく伸長させ、体やひれをオリーブ色をベースとした色に変える。
第1背びれの前上部を青白色に、背びれや尾びれの端部を黄白色に、尻びれおよび尾びれ下部の端部を青白色に縁どる。
多くの個体は普段は琵琶湖の沖合の低層または中層を回遊し、初夏に産卵のため接岸する。他のヨシノボリと比べると、ひれを広げてよく泳ぐ。
【捕る】
繁殖期が始まる6月頃から接岸するので、琵琶湖岸の石の間をタモ網で捕る。箱メガネなどを使って水中を見ながら追い込むと捕らえやすい。
河川にいる個体は、岸辺のボサや石などの障害物の周囲を探る。
【その他情報】
琵琶湖およびその周辺河川にはトウヨシノボリが生息しているが、本種は吻がより短く口が上を向くこと、頬に斑点はないこと、
目から吻先にかけての線模様が赤色ではなくより黒っぽいことなどから区別できる。
さらに腹びれの吸盤が縦に長くひれ膜が薄い、第1背びれの前方にウロコが無いなどの違いもある。
成魚の雄であれば、第1背びれが伸びないこと、尾びれの付け根に橙色斑がないことが最もわかりやすい。
なお、近縁でよく似たシマヒレヨシノボリは琵琶湖水系には分布しないとされている。
琵琶湖岸で同じく繁殖するイサザやトウヨシノボリと時期的なすみ分けが行われており、夏の繁殖期以外、接岸や流入河川への遡上はないとされているが、
日本淡水魚類愛護会で
琵琶湖流入河川に通年生息している集団があることが指摘されている。
ちなみに以下の写真の中には、繁殖期ではない3月上旬から4月上旬に琵琶湖に流入する浅い用水路でタモ網採取した個体のものがある。
河川定着している個体群かな。
【コメント】
琵琶湖という特殊な環境に適応進化したヨシノボリ。
水底にいて石や壁に引っ付きながらピョンピョンと移動する印象が強いヨシノボリにあって、
広大で深い琵琶湖の沖合を回遊する生活はなかなかイメージできない。
しかし、水槽に入れて観察してみると、ツーン、ツーンとした泳ぎ方で中層辺りを泳ぐことがあり、
同じく琵琶湖に生息するトウヨシノボリやその他のヨシノボリとは随分違う印象をもつ。
本種を見ることができるのは繁殖期の初夏、琵琶湖に接岸する時期だ。石がゴロゴロしているところに大集団でやってくる。
その時期の雄はヨシノボリの中でも特に特徴的で、その変貌ぶりがスゴイ。
第2背びれや尻びれなんかはヒラヒラしてまるで振袖のようだし、アクセントのあるシックな婚姻色だし、とても良い。
小型であることも逆に良くって、とてもかっこいいヨシノボリだと思う。
琵琶湖流入河川に定着している個体群が指摘されるなど、まだ全容は解明されていないようだ。
いったいどんなヨシノボリなのか研究の進展が楽しみだ。
初夏に捕まえた
琵琶湖流入河川下流部の雄。普段、本種は見られないので、琵琶湖から入り込んだようだ。第一背びれの青白色、のど元や尻びれ根元の橙色が美しい。
初夏に内湖につながる水路で捕まえた雄。
第1背びれは伸長せずに、円い形をしている。大きくても全長5cmくらいで、ずんぐりした体形だが、なかなかかっこいいぞ。
初夏の水路で捕まえた雄。
ほとんど流れのない泥底でタモ網に入った。第2背びれ、尻びれが大きく伸長している。体色はかなり黒かった。
梅雨の合間、
琵琶湖につながる川の河口部で捕った。赤ムシに食らいついていた。婚姻色はまだまだこれから。
梅雨明け間近の琵琶湖流入河川で
タモ網に入った雄。河口から数百m上流の岸に近い淀みにいた。第1背びれの鮮やかな青が素晴らしい!
夏、石がゴロゴロした琵琶湖沿岸で捕った雄。
繁殖期である夏、雄は体を濃いオリーブ色に染めひれを伸ばす。チチブや小さなトウヨシノボリに混じって、本種が岸近くにわんさかといた。
トップ写真と同個体。
同じく夏に琵琶湖で捕った雄。
第二背びれや尻びれはまだ伸びる。
やや痩せた個体。
水中メガネで覗きながらタモ網に追い込んで捕った。年によって生息密度が異なるのだろうか、例えば去年と比べるとやや個体数は少なかった。
繁殖期で争ったからだろうか、
この写真のようにひれが切れている個体も多く捕れる。
夏に捕まえた雄。
第1背びれ前部の青色が鮮やかだ。尾びれはかじられたのか、それとも個体数推定調査のために切り取られたのか。
夏の雄。
変身途中の個体だろうか。体の斑紋が目立たなくなり始めており、尻びれ端部が青白くなるなど、ひれも繁殖期特有の色に変わり始めている。
あるいはその逆で、繁殖期の派手な体からもとの体に戻り始めているのかも。または、そもそもあまり婚姻色を帯びない個体なのかも。
夏、琵琶湖岸で捕った個体。
繁殖期はとっくにはじまっていると思われる8月初旬であっても、ひれの伸長度合いや体色の濃さなど、いろんな個体がいた。
繁殖のピークは過ぎていると思いながら、
波が高い琵琶湖岸でなんとか1匹。立秋にもなるとあんなにいた本種も湖岸からほとんど姿を消してしまう。
盛夏の琵琶湖で捕った。
この個体は捕った中で最も体色が濃かった。ひれを全開すれば青色、橙色が美しい。
上の個体を真上から。
濃いボディ色に背びれや尾びれ端の薄黄色や薄青色が目立つ。
初夏、琵琶湖流入河川下流部で釣れた個体。
反転しようとした瞬間。
雄の第2背びれと尻びれは繁殖期に伸長し、きれいに色づく。
同じ個体を真下から。
胸びれも大きくなっているようだ。それにしても、のど部の何とも言えない深い青色がきれいだ。
おそらく本種の雌と思われる個体。
全長は2.5cmくらいで雄と比べるととても小さい。顔が寸詰まりで頬に赤色斑点も見られないため、琵琶湖に生息するオウミヨシノボリではないと思う。
夏に捕まえた雄を正面から。
えら下は黄色、のど部は薄青紫色に色づく。美しい。
眼は上部にあり、
ほほが膨らみ、大きな口にたらこ唇。ヨシノボリ共有の顔をしているな。
本種はよく泳ぐ。
泳いでいる時はひれを広げるのでひれの鮮やかさが目立つ。とてもきれいだ。
真上から。
初夏になると石がゴロゴロしている琵琶湖岸にたくさんの個体が接岸する。
3月上旬に琵琶湖周辺の河川で捕った個体。
繁殖期の雄以外はシマヒレヨシノボリに似ているが、よく見るとひれの模様や色が違う。
この個体の全長は約4cm程度だった。
体色が濃く体側の斑模様が目立った個体。
第二背びれや尾びれには縞模様があり、尻びれ基部が朱色をしている。
3月上旬、
短時間の間にかなりの数が確認できた。本種はヨシノボリの中でも比較的よく泳ぐ。
桜咲く頃に琵琶湖周辺の河川で捕った雄。
頬を膨らませたところが可愛い。
GWに捕まえた雄。ほとんど
流れのない泥底の水路でタモ網に入った。のどや尻びれ基部の橙色がよく目立つ。
初夏に河川で捕まえた雄。
体色が薄く、明るい体色だと体側の斑模様がわかる。尻びれ基部は橙色、ほほやのどは明るい黄色だ。大きな眼がくりっとしてかわいい。
上と同所同時に捕まえた雌。
本種の繁殖期は初夏とされるが、この個体は卵でもうお腹が大きい。
繁殖においてイサザやトウヨシノボリと時期的なすみ分けをする必要がないからか、琵琶湖の集団と違う生活サイクルなのかもしれない。
のどの橙色がきれいだ。
吻は短く口が上を向く。目から吻先の線模様はこげ茶色のような色をしている。ちなみにこの個体の胸びれ条数は19本ある。
3月下旬に
琵琶湖近くの用水路で捕った個体。タモ網でたくさん捕ることができたが、大きい個体で全長4cmくらいだった。
初夏までにあと二周りほど大きくなって、本種独特のシブイ婚姻色をまとうことだろう。
「♪ワワワワーッ」って合唱。
春、ホンモロコを狙って釣っていると
たまに釣れる。
春の個体を下面から。
下あごは青黒く、のどや尻びれの橙色はこんな感じだ。
桜咲く頃に捕った個体。
相変わらずたくさん生息している。3月上旬の個体と比べると、体が一回り大きく、ひれのオレンジ色がやや濃くなっている。
正面から。
雄の顔をアップで。
見れば見るほど味がある。
腹びれが吸盤状になっている
ことが良くわかる。
全長2cmを越える程度の小さな個体。
河川定着していると思われる琵琶湖周辺の河川で秋に捕った。難しいところだが、本種だと思いますっ。
created:2013/3/6