チチブ Tridentiger
obscurus
ハゼ科チチブ属
【生息場所】
河川下流域や河口域の砂泥底に生息しており、人工的なテトラポッドなどの障害物や転石の周囲を好む。
水質にも強く、都市部でも多く見られる。
【外観・生活】
全長は10cm程度。頭部は丸く大きく、太短い円筒体形をしており、体色は濃褐色から薄褐色で、頭の側面には不規則な白色斑が密に点在する。
体側には数本の暗色縦条があり、胸びれ基部が帯状に黄褐色である。第1背びれの鰭条先端は糸状に伸び、特に繁殖期の雄は著しい。
繁殖期は4月から始まるようだ。石の下や空き缶などに産卵室をつくり、雌が天井に卵を産み付ける。
やがて雌は死ぬそうだが、卵は雄が孵化まで守る。
孵化した仔魚は流されて海に出る。海で成長して春に川へ入った幼魚は群れをなして川をちょんちょんと遡ってくる。
成魚は群れることなく、むしろ住みかである石などを中心として縄張りをもち、侵入者を激しく攻撃する。
雑食性で小動物や藻類、小魚など何でも食べる。
【捕る】
タモ網や釣りで捕る。砂泥底の転石の陰や障害物の陰を足を動かしてタモ網に追い込む。汽水ではハゼ釣りの外道として釣れることも多い。
【その他情報】
よく似た種類にヌマチチブがある。
本種は、頭側の白色斑が密に存在するし、胸びれ基部の帯状黄褐色部には不規則な橙赤色の腺がなく(繁殖期の雄除く)、
尾柄が高く、よりずんぐりした様に見えるが、個体差もあり結構難しい。
わかりやすい区別のポイントは、第1背びれの前縁に4個の小さい黒点があることなんだそうだ。
【コメント】
簡単に捕れて、簡単に釣れる、ごく普通に見られる汽水のハゼ。
食いしん坊で何でも食らいつくせいか、黒っぽくてボテッとしている体のせいか、
大きな口に離れた眼、点々模様が散らばる不細工な顔をしているせいか、どうも良い風には語られない。
「ダボハゼ」とも呼ばれ、卑しいとか汚いなどの例えとして使われることもあるかわいそうな魚だ。
そんなチチブは、ゴクラクハゼに次いで私が汽水で2番目に捕まえた魚だ。
大阪湾に注ぐ河川、引き潮で水はさらさらと流れ、空き缶やビニールなどのゴミが所々に引っかかっているようなところで多く捕れた。
ウナギを捕るために仕掛けた塩ビパイプや竹筒に本種が入っていることもしばしばあるので、
人間の廃棄物を上手に住処として活用できるたくましい種と言えるかもしれない。
佃煮などにして食用にされると聞くが、私が出会う場所はだいたい都市河川下流部。
近年、水質はかなり良くなっていることはわかるのだが、都会の味がしそうで口にする勇気はない。
桜が咲く数日前に捕まえた個体。
潮が引いたたまりでタモ網に入った。ずんぐりした体形で、赤黒い体をしている。
トップ写真と同じ個体。
全長は7.5cmくらい。はじめての汽水で出会った個体のひとつだ。
桜咲く頃に捕れた
7cmほどの雄。第1背びれが糸状に大きく伸びていることがわかる。繁殖期の雄は特に伸張する。
春の個体。
淀川下流汽水域の石の下にいた。全長は8cm程度あり、体色がかなり濃かった。
春に捕った個体。
全長は7cm程度。汽水の大きな石の下の隙間に隠れていた。ケフサイソガニも同時にたくさんタモ網に入った。
春の汽水域で捕った個体。
卵をもっていると思われ、お腹がぷくっと膨れていた。もしかしたら何か大物を腹にしまったところかもしれないけど・・・。
これも春の個体。
本種は短時間で体色を変えることができる。明るい場所に入れているとこんな風に黄色くなる。
本種は個体数も多く、
石の脇に隠れていることが多い。転石がある汽水域ではほぼ100%出会う。
春に捕まえた個体。
捕まえたときは周囲の環境かずいぶん黒っぽかったが、明るいバケツに入れておくと体色が薄れ、黄褐色になってしまった。
繁殖期を迎え、第1背びれの鰭条先端が糸状に伸びている。
GWに捕まえた個体。
体は黒っぽく胸びれの色も紫色。上の個体とえらい違い。吻は丸くて、避けた口が、どこかウミガメの頭に似てる。全長10cmほどだった。
どこか悪そうな姿をしているなあ。
背びれ前縁下部に点々があるのが本種の特徴。ヌマチチブと似てるけどチチブだよ。
春、海に流れ込む小河川の下流部で捕まえた。
全長11cmを超える大きな個体だった。
初夏の汽水で捕った個体。
ヌマチチブも同所で捕ることができた。
流れのあるところの障害物の陰でも見られたが、流れが緩やかなワンドのようになっているところでもたくさん捕ることができた。
この個体では本種の特徴とされ、
ヌマチチブとの相違点とされる頭部の白色斑はほとんど見られない。こんな個体もいるので白色斑による区別には「?」。
夏に汽水で捕った個体。
汽水の流木の枝の隙間に隠れていたのだが、上からみて体に輪っか模様が見えたような気がしたので、最初はアカオビシマハゼが捕れたと思っていた。
第1背びれが糸状に伸びている。
真夏の汽水、
川の水が勢いよくあたる石の陰でタモ網に入った。大きく伸びた立派なひれをもつ全長9cmほどの雄だ。
黒っぽい体に胸びれ基部の黄色帯がよく目立つ。
秋の汽水で捕った個体。
流れのある小河川の干潮時でほぼ淡水であったが、すぐ下流側でカキ殻が見られる淀みでは大きなボラやクロダイなどが泳いでいる姿を近くで確認できた。
秋に捕まえた個体。
汽水の転石があるところでは必ず本種と出会う。第2背びれの縁が黄色く染まっている。
全長6cmほどの個体。
暗色のバケツに入れていた時は黒っぽかったのに、観察ケースに入れた途端、写真のような薄褐色に変化した。
体色はよく変化する。
どことなく顔がオタマジャクシに
見えるのは私だけ?
暗褐色の3cmほどの個体。
比較的流れのあるところのゴミ袋の中に隠れていた。
全長2cmを少し超える程度の幼魚。
体は一様に真っ黒だったので、最初はゴミかと思った。
上から見ると胸びれの根元の黄色が目立つ。
胸びれはハゼの仲間らしく吸盤状だ。
真上からみるとこんな感じ。
頭部は左右に膨れ、全長の1/3ほどもある。改めてとても大きい。
頭部拡大。
吻は丸くほほは膨れる。唇は分厚い。ほほには水玉模様がいっぱい。やや水色っぽい色が混じる。
春の雄の頭部。
胸びれ基部の横帯が鮮やかな黄色でその中に細かな橙赤色の線が見られる。
すぐ下流側では
よく似たヌマチチブも捕れた。第1背びれの模様から本種であるとわかる。
正面から。
この個体は頭側の白色斑が密に散在するが、個体差が大きい。ヌマチチブとの相違点としては、あくまで傾向として捉えるべきだな。
created:2012/4/2