ハス Opsariichthys
uncirostris uncirostris
コイ科クセノキプリス亜科ハス属
【生息場所】
自然分布は琵琶湖、淀川水系、三方湖。河川では琵琶湖流入河川や淀川本流のみならず、その支流河川や用水路にも侵入する。
【外観・生活】
全長は30cm程度で雄の方が大きくなる。日本産コイ科魚類で唯一の肉食魚だ。
体は細長く側扁し、背面は緑褐色で、体側は光の加減で薄い青緑色や銀白色に見える。
オイカワと似ているが「へ」の字型をしている大きな口が特徴。
鋭い歯はもたないが、この口の形状がアユなどの小魚を捕らえて逃がさないための強力な武器になっている。
繁殖期は6~8月で、繁殖期の雄は頭部や各ひれを薄い赤紫色と橙色に染め、頭部や尻びれに多数の追い星が現れる。
仔魚や稚魚の間はミジンコなどを補食しており、1年を経過したあたりから魚食を始めるそうだ。
成長し魚食性が強くなるにつれて、口の「へ」の字のゆがみが大きくなっていく。琵琶湖では繁殖期には群をなして流入河川に遡上し、浅い砂礫底で産卵する。
泳ぎはとても速く、よくジャンプする。夏は水面近くにいて行動は非常に活発だ。
【捕る】
群れで遡上する産卵期であれば、近づくとボサの中に隠れる個体もいるし、こちらに向かってスッ飛んでくる個体もいるので、
粘ればタモ網で捕ることができる。動くものをよく追う性質があるため、一般にはルアー釣りが楽しいと思う。
若魚ならアカムシをエサにした釣りでも捕ることができる。モロコ釣りをしていて仕掛けを引き上げている時に、食い付いてくることもある。
【その他情報】
本種は琵琶湖淀川水系と三方湖のみが自然分布。
琵琶湖と三方湖の個体は鱗数などに違いがあるようだが、三方湖では近年確認されておらず、絶命した可能性が高いとされている。
また、自然分布のハス属はそれらを除いて日本には生息せず、大陸にしか分布していない。
過去は広く分布していたがその後の地殻変動により他の地域から姿を消した、ということらしい。
現在は人の手による琵琶湖産コアユの放流にともなって全国に生息域を広げている。
本種はオイカワとは異なり夏が旬とされる。小骨が多いのが難点だが、淡白な白身で塩焼き、天ぷら、フライなどで食べられる。
婚姻色が出た雄の塩焼きが最も美味いと聞いていたが、
琵琶湖流入河川で投網を投げている方に聞くと、雄はいまいちで、卵をもつ雌を甘辛く煮て食べると美味いとのことだった。
同じ湖国でも地方によって食べ方や好みが違うのだろうか。
【コメント】
琵琶湖・淀川の夏を思い起こさせる魚。7月にもなってこの魚を見ていないと、何か忘れているような、残しているようなそんな感覚になる。
特徴的な形をした口をもつ大型の魚で、見た目のインパクトは強く、特に婚姻色を帯びた雄は独特の美しさをもつ。
初夏の雨の翌日などに行われる繁殖行動もすごい。成魚が群れをなして浅瀬のあちこちで産卵する様子はダイナミックで見応え十分だ。
こんなにいるんだから・・・と、ついつい捕まえたくなってバシャバシャと歩いて近づくが、
それに気付いた成魚たちは、散らばりながら、たまに水面からジャンプしながら、ものすごいスピードで足元近くをすり抜けて逃げていく。
「タモ網で捕ろうなんて甘い!」と言わんがばかりだ。本種は魚食性で、日本淡水魚では食物連鎖の頂点に立つ魚のひとつ。
ナマズのように夜に寝ている小魚の隙を突くわけでもなく、カマキリ(アユカケ)のように石に化けて待ち伏せて食べるわけでもなく、
正々堂々と昼間から餌の小魚を活発に追い回すあたりが、本種らしくて良い。
生息域を広げているそうだが、魚食性であるが故に拡散地の生態系に与える影響が心配だ。
5月下旬に琵琶湖流入河川で捕まえた雄。
遡上のピークはまだ先だが、すでに産卵している様子が見られた。
梅雨時期の雄の成魚。
全長は30cm程度ある。波打つ瀬でバシャバシャと産卵行動を繰り返していた。
近寄るとススーッと逃げるが、
中には岸の草むらの中に隠れる個体もいてタモ網でも捕ることができる。捕まえると案外大人しくなり、すぐに弱ってしまう。
オイカワに似た婚姻色を帯びるが、
色はより薄い。やや地味に感じてしまう。
梅雨の雨で少し増水した河川で捕まえた立派な雄。
体色は薄い緑青色。頭部は薄い赤紫色や橙色で、尻びれ前縁は黄色い。この個性好きやわ~。
夏に捕った大きくよく肥えた立派な雄。
川の浅瀬の周辺を群れで泳いでいる。好む場所は決まっているようで、私の姿を見付けてサーッと逃げてもしばらくすると戻ってくる。
橋の上からは、
何度もコアユの群れに突っ込む姿が見られた。さすが肉食魚、厳つい顔だ。
雨でやや増水した河川で。
ザブザブと浅い瀬に近づくとビュンビュン飛ぶように泳ぎ去る。初夏の琵琶湖の風景だ。
梅雨の中休みに捕まえた。
琵琶湖からは数多くの個体が遡上していて、群れになって流れの中で定位していた。
地元が方がたまに覗きにやってきて、投網をうつタイミングをうかがっているようだった。
この個体はでかかった。全長30cmはゆうに超える。
いい体色をしている。
琵琶湖に初夏が来たことを感じさせてくれる魚だ。
よき遊び相手になってもらった。ザブザブ追いかけて一度散ってもそのうちまた集まってくるので、それの繰り返し。
あんなに素早く泳ぐのに捕まえると、手元であまり暴れない。
撮影しやすいんだけど、すぐにクタ~ッてなるからASAPでリリースしてあげなアカン。
全長30cmほどの雄、美しい魚だね。
体色もスタイルも。
水草に隠れた個体を捕まえた。
きれいな水に揺らめく水草、婚姻色に染まった本種によく似合う。初夏を感じる。
尻びれが一回り小さい、やや小型の雄。
食料として捕る大人、大物狙いで遊ぶ子供などで川は賑わっていた。川に魚が出現することで賑わいのある川になる。その風景はとても良い。
ややスマートな個体。
川をザバザバ歩くと水面からとびはねながらものすごいスピードで逃げ回るので、こちらに向かってすっとんで来たところをタモ網を構えてキャッチ!
捕れたときは我ながらびっくりした。私がすごいのか、それともこの個体がボンクラなのか・・・。
水が引いて浅くなったタマリに取り残されていた。
浅場に追い詰め&足元をすり抜けられを何度かした後、粘ってタモ網に入れた。ええ遊び相手になってくれた。
梅雨明け間近の7月中旬、
暑く晴れた日に捕まえた雄。婚姻色を帯びた体に太陽光があたり銀色に輝く。かっこええし、ほんま美しいわ。
真夏の琵琶湖流入河川。
この青緑色がハスの雄だ。美しいね。ハスを見ると夏って感じがして、逆に見ないと何かもの足りないというか、
何か忘れているというか、どこか落ち着かない。
この個体は雌だろうか。銀白色でスマートだ。
上と同じく捕れた雌の成魚。
体は一様に銀白色で口のへの字がなければオイカワと間違えそうだ。20cm近いこんな大きなオイカワはいないけれど・・・。
雄と雌を並べてみた。雄の方がふたまわりほど大きい。
捕まえた個体を並べてみた。一番下の個体は雌だ。
この日は前々日に大雨が降ったせいで水が濁り水量がいつもより多かった。雨と遡上は大きく関係するようで、ウジャウジャいた。
遡上してきた群れは、雄がかなり多く雌は少ない。
繁殖期の雄の体。
体側にはオイカワのような青緑色した横模様がある。
繁殖期の雄の尻びれ。
尻びれは伸長しブツブツした追い星が出ている。
繁殖期の雄の頭部。
頭部が薄い紫色と黄色に染まり、小さな追い星がたくさん出ている。眼は上方にあり、頬が広くて独特の顔をしている。
若魚の頭部。
横から見ると食いしばっているような形をしている。
体が一回り小さい若魚の頭部。
上の個体と比較すると、口のゆがみの程度も小さい。
全長5cm程度の若魚の頭部。
口のゆがみはよく見ないとわからない程度だ。
全長17,8cmほどの個体も婚姻色を帯びる。
無理矢理15cm幅の観察ケースに入れてみたが、やっぱり狭いようだ。
全長16cmほどの個体。
体が薄く色づき、尻びれも長いので雄と思われる。
成魚に混じって捕れた。これくらいのサイズの個体は成魚よりスマートやね。
初夏に捕まえた全長約18cmの個体。
体は銀白色で模様は見られなかったし、尻びれも発達していないので雌と思われる。
このサイズだけど、繁殖に参加するために琵琶湖から遡上してきたのかな・・・。
銀色の美しい体をしている。
顔は厳ついけど、この個体も雌かな。素早く泳ぐ魚たちを追いかけ、川の水のしぶきを浴びながらの川遊びは楽しいわ~。
成魚たちの群れに混じって捕れた。
成魚と群れていた若い個体。
全長15cmぐらい。雄かな。体は銀白色だが、青空が体に反射して体が青く光る。これだけで別の魚に見える。
春に釣った個体。
全長10cmほどで、頭部やひれの感じから雌かな。
ぶっこみでモロコ釣りをしていて、巻き上げている間に餌のアカムシに食らいついてきた。久しぶりだけど、これ、たまにある。
秋に捕まえた全長約8cmの個体。
たくさんのオイカワに混じっていた。オイカワとよく似るが体はよりスマートで、口がわずかにへの字型。
秋に水路で捕まえた個体。
全長13cmほど。頭部が大きく、吻先は橙色で体は銀一色。
淀川から取水する用水路で冬に捕った個体。
全長13cm。成魚と比べるとより随分スマートだ。
淀川から取水する用水路で冬に捕った個体。
全長は6.5cm。同じようなサイズのオイカワに混ざって数匹が捕れた。よく見ないと違いがわからない。
早春に捕った全長5cm程度の個体。
一様に銀白色をしている。手にすると「細長くより扁平なオイカワ」という感じ。よくよく見ると口がわずかにへの字に曲がっている。
12cmのオイカワとの比較。
上がハスの若魚で下がオイカワ。銀白色で細長い体形はよく似ているが、口が大きく頭部全体もより大きい。
全長15cmほどの若い雄の背面。
雄を真上から。
猛スピードで泳ぎ回るだけあって体は側扁してスマート。ニゴイを細長くしたようにも見える。本種は一旦大人しくなると、こんな風にしても逃げない。
上から見たところ。
群れがあっても雄はこのように色付いているために、雄雌の区別ができる。
この個体はずいぶん体色が濃かった。
顔は黄金色。
上の個体より大きな雄。
口の周囲やほほの辺りには追星と呼ばれる白く小さななブツブツが現れている。
正面から若魚の口。
獲物をがっしりとくわえるためにこのような口をしている。神様は歯をもたないコイの仲間に、このようなユニークな口を与えた。
全長13cmほどの個体を正面から。
吻先がオイカワみたいに濃い橙色をしている。口が曲がっているから間違わないけどね。
下あごが大きくて、何とも言えない面白い表情だ。
下あごが大きく張り出した感じや白いぶつぶつした追星の感じは、ヒゲクジラを思い起こさせる。
口はこんなに大きい。小魚を追いかけてパクリ。
雌の頭部。
首を絞めているんじゃないよ。そんなかわいそうなことはしません(念のため)。
今回捕まえたハスたち。
周囲の人たちに分けたり、逃がしたりして、残りを持ち帰って食べました。
やっぱり面白い、いい顔をしている!
改めていい魚だな。
琵琶湖の近くの川魚コーナーで売られていたハス焼き。
一匹280円。湖国ならではの食材だ。
created:2012/1/23