カワムツ Candidia
temminckii
コイ科クセノキプリス亜科カワムツ属
【生息場所】
河川の上中流域に広く生息している。オイカワも同所で見られるが、淵や淀みなど流れが緩やかな場所に多い。
生息域が広く個体数も多く、ごく普通にみられる種。
【外観・生活】
全長は18cm程度。横からの体形はオイカワに似るが、やや丸みを帯び、体幅も厚い。
背部は褐色で腹部は白く、体側には一本の明瞭な深藍色の縦帯が走る。
各ひれは黄色で、背びれ前縁が赤い。産卵期は5月~8月で、雄は特にひれの黄色が濃くなり、背びれ前端の赤みが強くなる。
また、あごから腹にかけての部分をオレンジ色に染めて、体色は随分派手になる。
頭部には雄、雌ともに追星が現れるが、雄の方がより大きくゴツゴツしている。主に淵や平瀬の岸辺で産卵し、孵化した仔稚魚は淵の川岸に群れる。
稚魚の頃はオイカワと区別しにくいが、全体的にずんぐりしていて頭も大きく、数cmにもなると縦方向に明瞭な暗色の帯が現れ、区別できるようになる。
オイカワ以上によく似た種にヌマムツがあるが、本種は鱗がより粗く、吻が丸く、尻鰭分枝軟条数が多い(本種は10本、ヌマムツは9本)
といった違いがある。稚魚の区別は慣れないと難しい。水生昆虫や落下昆虫を中心とした雑食性である。
【捕る】
釣りやタモ網で捕る。釣りは川釣りのオーソドックスな仕掛けで簡単に釣れる。
オイカワのように瀬を泳ぎ回るタイプではないし、人の気配を感じると岸から覆い被さった植物の陰や石の間に逃げ込むので、タモ網でも捕りやすい。
冬場はアタリの場所だとタモ網ひとすくいで数匹から数十匹が捕れる。
【飼う】
オイカワよりもおとなしく、人工飼料にもよく慣れ、飼育は容易。
ただし、水槽の中上層で素早く泳ぎ回りながらエサを口いっぱいになるまでとるため、混泳している魚に十分にエサが回らず、痩せていく個体が出てくる。
他魚を突っついたりかじったり、直接いたずらをするわけではないが、混泳魚種の選択には注意が必要だと思う。
【その他情報】
本種は2003年にカワムツB型改め、カワムツと命名された。
鈴鹿山脈を境に遺伝的に東西2つの集団に分けられるそうだ。いずれ亜種に分けられるのだろうか。
本来の自然分布は静岡県・富山県以西の本州、四国、九州であるが、人為的な行為により、関東や東北地方にも生息域が広がっている。
オイカワのように食用にはされない。食べた経験はないが、油っこくて不味いらしい。
【コメント】
河川中流域に行けば必ず出会う馴染みの魚。体側中央に深藍色の太い縦帯をもつ、あまり個性のない体色をしているが、繁殖期の雄はすごく派手になる。
でも似ているオイカワと比べると、婚姻色がギラギラしており大柄で雑っぽい印象だ。
吻や眼の周りに出る追星は白く大きく硬くて、手で握ったときに頭を振られるとゴツゴツと痛い。
川の中上流域では「カワムツばっかり」とか「カワムツとカワヨシ(ノボリ)ばっかり」の川が結構ある。
どんな魚と出会えるか期待しながら川に入って、捕れるのはそんな常連さんだけだとついがっかりしてしまうのだが、
逆に言えばなんと適応力が高い、たくましい種なのだろうか。
「やっぱりカワムツか」、「またカワムツか」、「ほんまカワムツばっかりやな」とブツブツ言いながら、タモ網をひっくり返すことも多いけど、
カワムツ君、君は悪くないんだよ、こんな扱いしてしまうことが多くてごめんね。
田植えの準備が進み、
泥で濁った水が流れる農業水路でタモ網に入った。
全長14cmぐらい。水が温んできて、ぼちぼち婚姻色に染まりつつあるようだ。
春にコンクリート水路でタモ網に入った。
全長約14cm。平坦で比較的浅く単調に流れるが、土が溜まり草が生えている所や、上から草木が覆い被さっている所がある。
そんな身を隠すことができる場所には魚が集まっている。
GWに水路で捕まえた。
がっちりした体をしている。
春の終わり、
田植えが終わった水田の脇を勢いよく流れる小さな水路のマスにタモ網を入れて捕まえた。全長14cmほどの雄で、繁殖期を迎えて婚姻色が出始めている。
タモ網やバケツから取り出すとき、追星をもつ頭部が手の中で左右に動き、そのゴツゴツした感じが伝わってくる。
5月末に捕まえた雄。
コンクリート水路の堰の落ち込みに大中小の個体が溜まっていた。黄色く色づいたひれ、体側中央の深藍色の太い縦帯、本種らしい。
用水路のボサで大きな雄が捕れた。
全長は17.5cm程度だった。4月中旬でもう頭部には追星が現れ、婚姻色を帯びている。君、色気づくのが少し早くないかい?
春の終わりに捕まえた雌。
全長9cmほどで丸っこい体形をしている。
河川中流域で捕まえた雄。
繁殖期を迎えると、頭部に追星が出て、体色が濃くなる。
初夏に捕れた個体。
頭部にはうっすらと追星が出ていた。体側中央を走る縦帯がよくわかる。雌は雄ほど尻びれが伸びない。
初夏に捕れた別個体。
濃い婚姻色は出ていないが、頭部には追星が出ている。各ひれの黄色が鮮やかだ。
初夏に捕まえた雄。
全長13cm程度とやや小型であるが、派手な婚姻色を帯びていた。
水から引き上げたとき目に入った、赤い体色、ひれの鮮やかな黄色、頭部の白い追星がとても印象的だった。
初夏の河川で捕った雌。
婚姻色を帯びた大型の雄達と淵に群れていた。よく肥えていてひれはまっ黄色。
初夏の個体。
お腹が大きいので卵をもっているようだ。ひれは雄ほど強く色づかない。
梅雨時期に捕まえた個体。
全長11cmほど。体色は銀色が強く暗色横帯が目立つ。各ひれは黄色でえらぶたは黄金色。
梅雨の中休みに捕まえた個体。
観察ケースに入れると、ほ~っと脱力した感じで水中を漂い、水面近くに上がっていくことがある。
夏に捕った雄。
全長は16cm程度あった。婚姻色もピーク期にはこれほどになる。顔の周りの追星と並んで、顎から腹にかけての鮮やかなオレンジ色もスゴイ。
これ、大阪府内で捕った個体やけど、やたらに黒い・・・。
夏に捕まえた全長13cm程度の雄。
鮮やかな婚姻色が美しい。水が冷たい上流部での魚捕りは気持ちいいし、良いことづくめ。
夏に捕まえた個体。
適度に冷たい水が流れる川で、ひれを黄色く染めた本種がタモ網に入ると、川遊びをしていると実感する。
全長7cmほどの個体。
川の淀みで泳いでいた。この個体は背びれに黒いシミのような模様がある。
夏の終わりの河川で捕まえた。
全長約14cmの雄。強い流れのある瀬の岸近く、草で覆われているところでタモ網に入った。
お盆が過ぎても、オレンジ、黄色、バリバリのきれいな婚姻色を帯びていた。手で捕まえると追星が痛い、痛い。
10.5cm程度の個体。
三面護岸の人工河川、ツルヨシが生えているところの根元で捕まえた。体は銀色が強く、比較的スマートな体形をしていた。
夏の上流域でタモ網に入った。
全長は5cmを超えるくらい。
タカハヤやオオシマドジョウも捕れたけど、大きな石がごろごろした場所は、泳いでいる魚が見えても捕れないね~。
秋の初め、和歌山県の河川で捕まえた個体。
全長8cmぐらい。大阪周辺で見られる個体とはちょっと違う雰囲気を感じた。
眼が大きくて、背面のうころが妙にキラキラしている。やや派手な南国チックな雰囲気。
上と同所で捕まえた個体をもうひとつ。
これも全長8cmぐらい。眼が大きいよね・・・。吻もちょっと尖がっていてヌマムツみたい。
秋に捕った全長10cm程度の個体。
流れの早い岸よりのボサの中に隠れていた。
秋に河川上流の淵で捕まえた個体。
繁殖期ほどではないが、このくらいの色を出している個体もいる。
秋に捕った全長6cmの個体。
まだギトギトした感じはない。
秋も終わりに近づいてきた頃に捕った個体。
水温もずいぶんと下がってきたが、ギトギト感がまだ出ている。
中流部で捕まえた雄。
少しえぐれた岸でタカハヤとともにタモ網に入った。
いるところには群れているようで一度に何匹もタモに入る。光の加減で側線が白く光っている。
秋の終わりに捕まえた個体。
全長10cmぐらいのスマートな雄だ。
瀬から流れ込む淀みにタモを入れると色鮮やかな落ち葉や枯草と一緒に、大小いろんなサイズの個体がタモ網に入った。
写真のようにひれがやや色づいた個体も混じる。
秋に捕まえたとても大きな雄。
観察ケースに入れてみたが、全長が18cmほどあったのでとても収まらない。ひれが大きく張り出し、よく肥えていてとても立派!
全長16cmの雄。
冬に河川合流部の深みで捕れた。
上流域で捕った冬の若い個体。
全長は11cm程度で、美しい体をしていた。冬になると体側の縦帯が不明瞭な個体が捕れる。
真冬の雄の成魚。
橋脚下のえぐれている部分で複数個体が一度にタモ網に入った。深みで越冬していたようだ。体色はあっさりしているが、背びれの前方の赤が目立つ。
これがヌマムツと見分けるポイントのひとつだ。
真冬の雌の成魚。
冬になると体側の縦縞模様が薄くなる。この個体の顔の雰囲気はが何となくヌマチチブっぽく見えるのは私だけ?
冬の終わりに捕った
全長13cm程度の個体。流れのある岸のえぐれたところに足を入れてごそごそするとタモ網に入った。
早春に捕まえた全長約8cmの個体。
全長4cm程度の幼魚。
小さい個体は特にヌマムツとの区別が難しい。この個体もウロコの感じがわかりにくくて悩ましい。
しかし、尻鰭分枝軟条数が10本であることから本種とわかる。
吻が丸いこと、目が比較的大きいこと、胸びれや腹びれの前縁が色づかず、背びれ前縁が薄っすらと赤い傾向からもわかる。
春に捕まえた幼魚。
全長4cmを超える程度の幼魚。この個体も尻鰭分枝軟条数10本だ。広げた尻びれに
ピントが合った写真で数えられるから同定できるけど、現場でぱっと見ただけだと悩ましいな。同じムツでもヌマかカワか?
春の終わりに捕まえた
幼魚。全長5cmを超えるぐらい。尻鰭分枝軟条数は10本で、背びれ前縁が赤い。だいぶカワムツの雰囲気が出てきている。
夏に捕まえた幼魚。
河川中流ではごくごく普通に見られる。 眼が大きくて吻が円い。
頭部の金色が妙に目立った個体。
冬、全長12cm。
繁殖期の雄。
ボディの赤っぽい暗色とひれの鮮やかな黄色のコントラストが美しい。むっちりしたボディを見せつけている。
婚姻色に染まった雄の背を拡大。
鱗は一枚一枚に模様があって筋がまるで銀杏の葉を想像させる。画像を拡大して「おお、こんなんになってんねんやあ・・・」と初めて気づいた。
いわゆる"shark skin"と同じ理屈なのかな?とも思うが、体表は粘液で覆われているし、違うか。
背びれ前方には薄褐色の紡錘形の斑をもつ。
群れている魚を川の上から見るとき、この斑があればカワムツかヌマムツのどちらかであるとわかる。
薄褐色の斑はヌマムツよりもスーッとしていて長い形をしている。
しかしこんな風に、
背びれ前方の薄褐色斑が目立たない場合もある。
さらにはこんな風に
紡錘形の斑が緑色ってことも。この個体は春に捕まえたもの。よく肥えた体をしているね。
夏の個体を水面から。
背びれの前にある薄褐色斑、頭部の追星がよく目立っていた。
こんな姿はオイカワやヌマムツとよく似ている。しかし、背びれ前の薄褐色斑があることでオイカワとは違う、
背びれ前縁が鮮やかに赤くてチラチラ見えるひれが黄色っぽいことからヌマムツとも違うことがわかる。
若い個体を正面から。
大きな目に大きな口だ。
オイカワと比べると横幅がある。
大きな目をしている。ちなみにこれは冬に撮影したもの。
青空の下、新緑を背景にしたカワムツ。
よく肥えたいい体つきで、なかなかいい表情だ。繁殖期ピークのギトギトした感じはまだない。
繁殖期の雄。
成長した追星はこんな感じ。円錐状で触るととても硬くて痛い。雌の獲得に向けた武装だ。
繁殖期の雄を正面から。
この個体はものすごい追星をもっていた。雄は体の下半分を鮮やかなオレンジ色に染めるが、口の中までオレンジ色なのね。
夏の終わりに捕まえた雄を正面から。
追星が出た個体を並べてみると、顔の周りの追星の出方が違うことがわかる。
例えばこの個体は、口から目の前上にかけて、緩やかな弧を描くように追星が並んでいるが、上の個体にはない。
個体によって違うのかな?体長による?それとも地域集団で傾向はあるのかな・・・?
夏にとった雄の頭部拡大。
顔の周辺に小さな追星がある。ヌマムツよりも吻が丸く、目が相対的に大きいように思う。
追い星はこんなに成長する。
そう言えば、こんな雰囲気の顔をもつ恐竜のイラストをどこかで見たことがあるぞ。
尻鰭分枝軟条数は10本。
繁殖期を迎えるとひれは黄色く染まる。
繁殖期の雄の尻びれは
鮮やかな黄色に色づき、白いブツブツ状の追星が現れる。
山間部の田んぼ脇の水路でひとすくい。
冬は深みに群れていることが多く、上から覗くと人影に驚く黒い魚影が右往左往していた。カワムツに交じってオイカワやタモロコも捕れた。
created:2012/1/7