キチヌ Acanthopagrus
latus
タイ科クロダイ属
【生息場所】
内湾の浅海に生息するが、河口付近や汽水域にもよく入り込み、純淡水域でも見られることがある。
【外観・生活】
全長は50cm程度。体高が高く側偏していて、いわゆるタイ(鯛)の形をしている。
クロダイによく似ているが、体色はより白っぽく銀灰色で、腹びれ、尻びれ、尾びれの下方が明るい黄色をしていることから区別に迷わない。
加えて、側線上方横列鱗数は4枚、側線鱗数は46(43~48)枚なので、ザクッと言うと本種の方が鱗が粗い。
さらに本種は秋産卵なのでクロダイと産卵期が違っている。産卵は、外洋に面した内湾の磯場に集まって夕刻から夜半にかけて行われるそうだ。
1年で約10cmに成長するという。肉食性で貝類、ゴカイ類、甲殻類などを食べている。
【捕る】
クロダイ同様に釣りが良く、タモ網での採取は一般には難しい。
しかし、幼魚は入り組んだ浅いところにも入り込むので、干潮時に残されるちょっとした深みなどではタモ網でも捕ることができる。
【その他情報】
クロダイ同様に性転換する。体長9cmまでは性的未分化で、15~27cmの頃は両性巣の時期で、精巣が熟し雄として産卵に加わる。
27cm以上で性が分化して雄または雌になるが、多くは雌になり産卵するそうだ。
塩焼き、刺身、吸い物、煮付けなどにして食べられる高級魚。肉は白身で弾力があり美味しいという。
【コメント】
ひれが黄色いクロダイ(チヌ)だからキチヌ。見た目そのまま「キビレ」とも呼ばれる。
体はより明るい銀灰色で、鮮やかな黄色のひれがアクセントになって、とてもきれいな魚だ。
淀川ではクロダイよりも本種の方が多く捕れる感じ。本種は性転換する魚として知られるが、この性転換ってのが不思議。
本種の場合、はじめは雄で大型になると雌???
それも最後の性分化では周囲の環境をみながら、どちらになった方が有利か選んでいるという。
魚の世界ではよくある話で「体長有利性説」という理屈を聞けばなるほどと思うんだけど、性を自力で意図的に(?)変えられるなんて完全に別世界だ。
子孫を残すという大目的のためにできたシステム・・・いやあ、生物の世界はすごいわっ。
淀川の汽水には本種が多い。
秋に捕った全長13cmの個体。クロダイによく似ているが、体はややより明るいシルバーで、腹びれや尻びれなどの鮮やかな黄色がよく目立つ。
この個体は全長12cm程度だ。
体形はタイに似ている。
潮が引いた干潟のたまりでタモ網に入った。
茶褐色で円筒状の体形をした小さなハゼ類がたくさん捕れる中で、たまにこんな体形の個体が入ると、妙に嬉しい。銀白色に輝く体がいいね。
淀川のヨシ原にある水路で捕った個体。
本流からはかなり奥まったところにまで入ってくる。ボラやマハゼも見られた。
初秋に捕った淀川の個体。
干潮時にたまりに残されたようだ。ひれの明るい黄色がよく目立つので、判別は容易。
秋に捕った全長20cm程度の個体。
体高が高くて横から見ると随分丸っこい。体はより白っぽくて、シャキーンと輝く背びれの鰭条がカッコイイ~!
純淡水域で捕った個体。
全長は10cm程度でまだ雄でも雌でもない。よく似たクロダイよりも白っぽい。
春の干潟で捕まえた全長4cmほどの個体。
湧き水が豊富なたまりで8匹ほど捕ることができた。 ひれはまだ黄色くないが、側線上方の鱗の列数が4程度なので本種。
春の汽水で捕まえた個体。全長3cmくらい。
初夏の干潟で捕まえた全長約4cmの個体。
第1背びれの先端は黒く縁取られ、銀緑褐色の体に暗色横帯が7つほど並んでいる。眼が大きくてかわいいね。
秋の終わりに捕まえた幼魚。
1.5~2cmくらい。クロダイの幼魚と紛らわしいところだが、時期とサイズなんかを考えても本種で良いと思う。尻びれも薄っすら黄色い。
上から見るとこんな感じ。
長い胸びれをいつもヒラヒラさせている。
細長い顔だ。
黄色いひれが見えなければクロダイとの区別は難しいと思う。
どちらがキチヌでどちらがクロダイかわかる?
正解は写真右がキチヌで、左がクロダイ。
クロダイは幼魚の頃、ひれが黄色っぽいこともあるので間違えそうだが、側線より上側にある鱗の列数(側線上方横列鱗数)を数えればすぐにわかる。
右のキチヌは4枚、左のクロダイは6枚ほどある。そう思って観ると、キチヌの方が鱗が粗っぽいのがわかる。
created:2014/9/11