コイ Cyprinus
carpio
コイ科コイ亜科コイ属
【生息場所】
河川の中流から下流部、緩やかな流れの淵、池、湖沼を中心に様々な環境に生息している。汚染の進んだ都市河川にも多い。
【外観・生活】
全長は一般に60cmほどであるが、大河川や湖では1mを越えるような個体も確認される。
本種の特徴としてよくイメージされるのは口ひげ。口ひげがある種は少なくはないが、口ひげがないフナと比較されるせいか、本種は特にその傾向が強い。
1対2本と思われていることが多いが、長い口ひげの上にもう1対あって、正しくは2対4本。
背びれ基底が長く、尻びれ基底が短い特徴などは、フナにも共通している点であるが、
口ひげがあること、体がやや細長いこと、鱗が黒っぽく縁取られて網目模様に見えることなどがフナと違う。
見慣れれば顔つきも全然違って、コイの方が吻が尖りシュッとした顔をしている。
若魚はトップ写真のように、尾びれや尻びれがやや赤みを帯びる個体も多いようだ。
「錦鯉」は観賞用として品種改良されてきたものであるが、天然にはこのような体色のものはほとんどなく、黒灰色か暗黄金色を帯びたものばかり。
彼らの生息場所における自然選択の圧力(目立つものは捕食者に見つかりやすい)が、そのような地味な色を選ぶ方向にあるためだろう。
産卵期は春で、特に雨後で水位が上がったときに行われる。タイミングを見計らって川に行けば、背中が水面に出るほどの浅い水辺で、
バシャバシャと激しく音を立てながら水に浸かった岸辺の草に産卵する姿を見ることができる。
中にはビニール袋などのゴミにも卵が付着していることがあり、対象は草でなくても良いようだ。
コイ科の魚は歯をもたないが、その代わりに食道の前の咽頭歯がよく発達している。タニシなどの貝類を吸い込み、この咽頭歯でバリバリと砕くことができる。
底生生物を主に食べる雑食性で、タニシやカワニナ、シジミなどの貝類、ミミズや付着藻類、水草などを食している。
【捕る】
池、ワンド、ゆるく流れる農業水路の水草の脇などで幼魚や若い個体がタモ網に入る。たまに成魚がガツン!と入ってびっくりすることも。
成魚は体が大きく引きが強いことから釣りの対象として人気が高い。天候は晴れよりも曇り、雨の降る前が経験的に良い。
エサは底付けになるようにウキ下を調節する。
コイは吸ったり吐いたりしながら食べる習性があり、最初は小さなアタリが続くが、しらばらく後にくる大きなアタリで合わせる。
一気に食べてくれないという駆け引き、力強い大型のコイとの綱引きがとても楽しい。
【飼う】
性格はおとなしく混泳も可能で飼育は容易。ただし、すぐに大きくなるので室内水槽での飼育はいずれ限界がくる。
【その他情報】
コイはフナと同様に日本人にとって最も親しみのある淡水魚のひとつだ。
最も大きくなる川魚の長として、マダイの大位(タイ)に対して、コイを高位(コイ)として古くから扱われる貫禄十分な風格ある魚である。
池に泳ぐ鮮やかな錦鯉、端午の節句に空高くひるがえる鯉のぼり、また「鯉の滝のぼり」や「まないたの上の鯉」といった諺も日常会話で使われる。
食材としても重要で、鯉こくやあらいなどで食される。暗緑色の胆嚢は特にニガブクロとか苦玉といって、おそろしく苦いことも有名だ。
コイは長生きすることが知られており、野外で20年以上生きるものは稀だが、飼育環境下では50年くらい生きるそうだ。
コイ科に発達した咽頭歯にはいろいろな形のものがあり、種類の特徴が現れていることから分類上重要な形質とされている。
ところで近年、コイには2種類いることが指摘されている。
人に養殖・放流され体高が高く体が側扁しているユーラシア大陸由来の「飼育型」と、
琵琶湖北部の深部などに多く見られ体高が低く体が細長い円筒形をしている日本古来の「在来型」2つ。
前者はヤマトゴイ、イロゴイ、ヒゴイなど、後者はノゴイ、マゴイなどと呼ばれる。
シーボルトのように古くから違いを指摘していた学者もいたようだが、コイは長らく一種であるとされてきた。
ところが2000年代に入り流行したコイヘルペスを機に遺伝子解析され、2006年に種レベルに相当する遺伝子の差があることがわかったそうだ。
飼育型は人に慣れ、一年中浅場で生息して動きもゆっくりなのに対し、在来型は警戒心が強く、産卵期以外は深みで生息し動きが素早いなど、
生態的、性質的にも大きな差がある。しかし、飼育型の養殖や放流に伴い既に両者は交雑(遺伝子汚染)がかなり進み、在来型は絶滅寸前と言われている。
遺伝子的に異なる2種がわかったときには既に片方である日本古来のタイプが絶滅寸前とは・・・何とも皮肉なことではないだろうか。
【コメント】
力強くて貫禄十分、淡水魚の王様である。コイ科は二千種以上を含み、淡水魚では最大の科を形成する。
コイとの思い出と言えば、小学生の頃に親父によく連れていってもらった釣堀りでの釣りだ。
スレ針に緑色の練り餌を上下に付け、ヘラウキの動きを見つめ続けた。
決して大柄ではない私とコイとの綱引きはとてもスリリングで、釣り上げたコイのズシリとした重みやグネグネ動く力強さは今でも鮮明に記憶に残っている。
少年時代、私を釣りキチにしたのはまさにコイなのだ。間違った自然保護のもとにコイは各地で放流され続けてきた。
大きな個体のみが、不自然な人工河川で悠々と泳ぐ姿をたまに見かけるが、そのたびに違和感を覚える。放流による影響は決して小さいものではなく、
コイが蛍の幼虫のエサであるカワニナなどの貝類や水草等を食べ尽くしてその地の生態系を破壊したり、
大陸由来の飼育型が日本古来の在来型を遺伝子汚染により絶滅の危機に追いやったりしている。
軽率な放流行為がいかに愚かで間違った行為であるかを早く悟って欲しいものだ。
ちなみにコイは、日本で問題となっているオオクチバスやブルーギルと同じく、世界の侵略的外来種ワースト100に選ばれている。
アメリカなどでは在来の淡水生態系に大きな影響を与える種として問題になっている。
啓蟄の頃に捕まえた幼魚。
ほぼ流れのない泥底の浅い池でタモに入った。同時にフナ類も捕れたが、金色がかったボディ、二対の口ひげをもつから本種とすぐにわかる。
春に捕れた雌。
卵でお腹がパンパンだ。
このくらいの大きさになるともうフナとは間違わないだろう。体をつかむと想像以上に柔軟性があってかなり力強い。
上の個体を上から。
背は濃褐色をしている。
深くなっているところで、
ガツンとタモ網に入った。濁っていて姿は見えないがコイの群れがいるようで、たまにゴツゴツと足に当たる。
この個体の全長は60cmぐらい。お腹が卵でパンパンのようだった。
淀みで捕まえた。
全長60cmぐらいかな。細長い体で、体色はこげ茶色。腹部は薄色になる。鱗が黒く縁取られており、網目模様が見られる。
春、淀川の支流で大きな個体がタモ網に入った。
全長は70cmほどで黄金色に輝いて大変きれいだった。雄でお腹を押すと精子が出てきた。
6月、
琵琶湖すぐ近くの農業水路で捕まえた個体。
普段こんな大きなコイは泳いでいないので、産卵のために琵琶湖から遡上してきたものと思われる。
体形が細長く、腹部が直行形状、うろこの輪郭が薄い。この時期に遡上してきているので在来型かも。または在来型の血が混じっているかも。
6月中旬、琵琶湖に近い水路で捕まえた遡上個体。
体高が低く、うろこの輪郭が薄くて、体の金色がとても鮮やかだった。この個体も捕った時期や体形から在来型かも。または血が混じってるかも。
産卵後で痩せていて、体はちょっと薄っぺらいけどねー。
夏に捕った個体。
岸よりの草かげに60cmを越える個体が隠れていた。タモ網に入るとすごい衝撃だ。のどのあたりから胸びれ、腹部にかけて白色が強い。
体形はいかにも飼育型とされるもの。
夏の個体。全長は70cmを超える。
水を減らした用水路で背びれを少し出して浅場をウロウロしていた。何度か逃げられたが、2本のタモ網で挟み込んで捕まえた。
体高が盛り上がり、
尻びれのあたりで尾柄がキュッと細くなるところは、飼育型の「ヤマトゴイ」の感じだ。
夏に用水路で捕った全長10cm程度の個体。
水田地帯の水門の下でタモロコやフナ達と一緒に捕れた。
同じく夏に捕ったやや小さめの個体。
全長7cm程度。ひれを全開したところ。
夏に捕まえた全長11cm程度の若い個体。
水草の陰に隠れていた。驚いてタモ網にまっすぐ突っ込んだようで、小さな個体にもかかわらず何かがぶち当たる感じがした。
この写真、いかにもコイって感じの雰囲気がいい。コイだから当たり前なんだけどね。
夏、冷たい水が流れる砂泥底の水路で捕まえた。
体は黄銅色で、背が盛り上がってかなり体高がある。
夏に捕った全長10cmほどの若魚。
シルバー褐色の体に黄色い模様が見られた。尻びれや尾びれは赤みを帯びている。
夏の終わりの用水路で。
流れになびく水草の下にタモ網を構え追い込んだ。黒っぽい体に尻びれと尾びれ下部の朱色が妙に目立った。
全長は18cm程度。狭いところに入れてごめんなさい。
秋の用水路で捕った10cm程度の若魚。
稚魚は1年でこれくらいまで成長する。これくらいのサイズはフナに似ていて紛らわしいが、口ひげがあることなどから区別できる。
秋に捕った全長14cm程度のきれいな個体。
ゆっくり流れる水路の水草の下でフナと一緒にタモ網に入った。水から上げるとバシャバシャバシャ~って感じで、水しぶきが飛び散る。
観察ケース内では落ち着かず動き回るが、濁った水底にいることが多い本種は周囲が丸見えというのが気に入らないらしい。
秋の河川で捕まえた全長12cm程度の個体。
流れが淀んでいてやや濁った水の底にいることが多いので、明るい観察ケースに入れると落ち着きなく動き回る。
この個体、ちょっと顔が違う。
堰の下で大きな群れをつくり泳いでいた。
狭くなったところをすり抜けるときタモですくうと入ってくれた。
この個体、背がぐんと高くなりずいぶんとずんぐりした体形だ。ひれは黄色っぽい。
秋の河川で捕まえた若魚。
岸から張り出す草の陰に隠れていた。
秋に捕った全長15cm程度の若魚。
若魚の中には尾びれや尻びれがやや赤い個体も多い。
稲刈りが終わった田んぼを流れる水路で捕まえた個体。
全長12cmぐらい。深いところにいるのかと思ったが、浅い水草の中に隠れていた。
ギンブナの群れに混ざっていても、コイだってわかるよー。
秋の河川で捕まえた未成魚。
手前がコイで奥がフナ類(ギンブナ)。同所で捕れることも多く、見た目もよく似ているとして比較されることも多い。
似てるかな?並べると違いがわかるでしょ。
この個体は黄色っぽくて、よく見るとまだら模様がある。
冬に捕れた個体。
体高があり腹がふくれた雌も同時に捕れたが、それと比較するとずいぶんと細長い印象を受ける。
冬に用水路で捕った個体。
ひれが大きく、どこか金魚みたいで、違和感を感じる体つきをしている。コイフナ(コイとフナの交雑種)かと思ったが、コイで良いと思う。
初夏の池で捕まえた全長約5cmの個体。
初夏にワンドで捕れた若魚。
全長は5cmオーバー。ワンドで在来魚が捕れるとホッとする感じが気に食わない。
初夏に捕れた全長5cm程度の個体。
岸よりの浅い草の中にたくさん群れていた。
全長6cmの個体。
全長4~6cmほどの稚魚がフナ類やナマズの稚魚に混ざってたくさん捕れた。
秋の終わりに捕まえた。
ギンブナやドジョウ、モツゴなどと一緒に小さなワンドでタモ網に入った。頭が大きくていかにも幼魚って感じ。かわいいね。
捕れた時期を考えるとかなり小さい。小さなワンドにいたから十分に成長できてないのかな・・・。
同じく初夏に捕れた全長3cm程度の個体。
未成魚の間は特に頭部が大きい。同時に今年生まれと思われる3cm~5cm程度の個体がたくさん捕れたが、結構サイズにばらつきがある。
全長7cm程度の個体を真上から。
フナに似ていて、成魚の姿と比べると本種らしさはまだない。
コイの横顔。
口は下向きに大きく伸び、パクパクしながら底の餌を吸い込んで食べる。トレードマークの口ひげが片側に2本あることがわかるだろうか。
若いコイの顔。
コイは水から出すと眼を下方に向ける。ほほの辺りなどは透明フィルムをラミネートしたような感じがあって、テカッとしている。
コイの顔だね。
口ひげがあるし、額はより平面的で広く、口はより下についている。
正面から。
口ひげは2対4本あることがよくわかる。
どこか優しい印象を受けるのは、私にとって、フナと並んで子供の頃から馴染みにのある魚だからかな。
別個体。
この口で何でも食べちゃうぞ~。まるで何かを話しかけているようにも見える。
口は下向きに円く大きく開く。
公園の池などの水面近くで口をパクパクさせ、餌をねだる姿は誰もが見たことがあるだろう。
雑食性で何でも食べるので、本種の放流は生態系を破壊するリスクがある。
水草の脇で捕まえた若い個体。
本種は止水域や流れがとても緩やかな場所にいる印象があるが、比較的流れのある川でも出合うことができる。この場所でも久しぶりに見かけた。
桜の咲く頃、
岸辺に産み付けられたコイの卵。朝方に草の茂る岸辺でバシャバシャしていたので、取り出してみた。
写真の奥の水に沈んだ枯れ草には、多数の卵が産み付けられていた。
孵化したばかり仔魚。
粘着性のあるものを口から出しているのか、水槽の壁にくっついていた。多少の水流では流されない。
とある河川の淀みに群れていた大きなコイたち。
橋の上からのぞき込むと、わ~っと真下に集まってきた。誰かがここから餌でもあげているんだろうか。
人になつくのは、大陸由来の「飼育型」の特徴とされる。
写真からもわかるように、川底は砂漠のようで水草は見られず、他魚は大きなフナが少数確認できるくらい。
この淀みの「砂漠感」は異様だった。
錦鯉が泳ぐ池。
我々日本人には見慣れた光景であるが、海外でも人気が高く、輸出されているそうだ。ちなみに黒い陰は巨大なソウギョだ。
created:2012/1/7