ニシシマドジョウ Cobitis
sp. BIWAE type B
ドジョウ科シマドジョウ属
【生息場所】
近畿太平洋側では滋賀県や奈良県に生息し、河川の上流域から下流域まで広く分布する。
比較的水がきれいな砂底や砂礫底を好む。砂に潜っていることも多い。
【外観・生活】
日本固有種で全長は10cmを越える。6本の口ひげをもち、体色は薄黄褐色で、体側中央に黒い斑紋が縦に一列に並ぶ。
オオシマドジョウと酷似しているが、尾びれ基部にある2つの斑紋のうち下方がぼやけている傾向にある。
また、体側を縦に走る斑紋の形ははより丸くて、個々がより独立している場合が多く、体の模様はよりあっさりしている印象を受ける。
しかしイレギュラーな個体は多く、外観上の区別はかなり難しい。
同定には捕れた場所に加え、形態的な特徴も加味して総合的に判断する必要がある。
雄の胸びれにある骨質盤が鳥のくちばし状に尖っている点はオオシマドジョウと同じ。食性もオオシマドジョウに準じる。
【捕る】
比較的柔らかく積もった砂底、あるいは砂礫底を砂や礫ごと川底を削ぐようにタモ網ですくう。
タモ網に入った砂礫をワッサワッサとかき混ぜれば、ひょっこりと顔を出してくれる。
【飼う】
丈夫な種ではあるが、同じ水槽で飼育していても近縁のオオシマドジョウと比べると、痩せやすい傾向にあると思う。
エサを投入すると砂底からニョロリと出てきて周囲を探り出すが、その他の時間は砂底に潜っていることが多くてあまり姿を現さない。
たまに姿を現していても、私が横から覗き込んでいることに気づくとすぐに砂を巻き上げて潜ってしまう・・・、そんな恥ずかしがり屋さんだ。
【その他情報】
これまではシマドジョウ西日本集団2倍体型と呼ばれていたが、2012年4月25日、本種には「ニシシマドジョウ」という標準和名が与えられた。
本種は中部以西の本州に広く分布しているが、遺伝的に幾つかの集団に区別できるとされており、地域によって体の模様も異なっている。
系統的に新しいオオシマドジョウとは競合関係にある。
オオシマドジョウと同一水系に生息する場合もあるが、オオシマドジョウが分布しないところに分布しており、
新参者のオオシマドジョウに押されて生息域が縮小過程にあるとも考えられている。
【コメント】
本種を手にしたいと思ったのは、上述したシマドジョウ類の標準和名が定められたことがきっかけだ。
それまで、今で言うオオシマドジョウは淀川の支流などで数多く見ていたが、
少し前まで同種として扱われてた別の種が、いったいどれくらい違うか実物で確認したくなった。
最初に足を運んだ場所で比較的簡単に捕ることができ、外観上典型的な個体がたくさん見られたので、
「”シマ(ドジョウ)”だけど確かに違う」がしっかり感じられた。
下で紹介するA地域なのだが、「違う」がしっかりが感じられた場所に最初に足を運んだのは幸いだったかもしれない。
というのは、その後いろんな場所で本種を捕るのだが、見た目が紛らわしい個体に対して、
どちらの特徴があるとかないとかを感じる最初の基準をもてたからだ。
典型的な個体は確かにいるし、両者は交雑しないのでどちらかに区別できるはずなのだが、
地域によっては本当にオオシマドジョウとそっくりで、お手上げ状態なところもある。
これまでは4倍体型とか2倍体型とされつつも、種としてはシマドジョウと、ある意味まとめて扱われていた両者が別種とされ、
双方の個性がより明確にメッセージ化されることは意義があると思うが、見た目で区別できないってなると、素人的には悩ましい。
一方で、本種は地域ごとに遺伝的、外観的特徴があるとされる。本種の真の姿はどれなんやろう?もうわからんです、はい。
ここでは滋賀県内で捕まえた個体を紹介する。
それぞれ離れた下記3地域の集団について示すが、体側に並ぶ斑紋列の模様など、狭い同じ県内でも異なる傾向が見られる。
A地域:滋賀県南東部(1)
初夏に捕まえた個体。
全長約7cm。この地域の個体は体色が明るく、斑紋列を結ぶ縦筋が細く、体側の黒い斑紋がはっきりしている。
また、尾びれにある黒点の密度が低いなどの特徴がある。
夏の河川で捕った個体。
全長約10cm。底砂ごとタモ網でごっそりとすくうと姿を現してくれた。肌色の体色に濃斑紋がはっきりと目立つ。
明るい砂底だったので、
明るい透明感のある体色をしている。この個体の全長は7cmほどだった。
かなりスリムな夏の個体。
オオシマドジョウとの区別に使われる尾びれ基部の下の斑紋はかなり色が薄く、痕跡くらいしかない。全長は9cmに満たないくらい。
全長10cmオーバーの雌。
湧き水が豊富な河川で秋に捕った。(*)
全長6cm程度の個体。
薄い褐色のボディに体側の斑紋が美しい。オオシマドジョウと比べると斑紋はよりはっきりしていて、つながらない傾向にあるようだ。(*)
冬に捕った個体。
全長約8cm。本種の特徴は、尾びれ基部にある2つの斑紋のうち下方がぼやけていることとされるが、この個体は捕った直後もその後も明瞭だ。
あくまでも傾向として理解すべきだろう。越冬中のせいか特にやせていた。
砂底をごっそりすくうと
姿を現した幼魚。全体的に頭部が大きくてずんぐりしている。全長は4cmに満たないくらい。
初夏に捕まえた雌を上から。
スジシマドジョウ類も瀬に斑紋をもつが、比べると斑紋の間隔が広い。
この個体の背の斑紋は
角が取れていない四角い形状。背中線は見られない。ちなみにこの個体は秋のはじめに捕まえた雌。
正面から。
ドジョウと比べると鼻面が長い。口ひげは6本だ。ほほがちょっと膨らんでいるように見えてリスみたい。
B地域:滋賀県南東部(その2)・東部
春のはじめに捕まえた雌。
白波が立つ瀬と瀬の間にある、流れが緩やかな砂泥底でタモ網に入った。岸辺に
草が生えて少し深くなっている根元付近で、いろんなサイズの個体がたくさん捕れた。
上と同じ場所で捕まえた
全長8cm程度の雄。この川の個体は、体側に並ぶ斑紋ひとつひとつが比較的大きくて独立している傾向にある。
春の雌。
ふんわりと砂が堆積したところの深みで捕まえた。この個体は体側中央に並ぶ暗色斑が細長い。全長は9cm程度だった。
春に河川中流で捕まえた全長
10cmほどの雌。本流から離れた浅い淀みの砂底でタモ網に入った。この個体は、体側中央に並ぶ暗色斑が小さくて個数が多い。
体の模様は個体差多いね。
上の個体と同所で捕まえた雌。
体側に並ぶ斑紋はひとつひとつが丸く小さく、密に並んでいる。
尾びれ基部にある下側の斑紋は明瞭で、この部分はオオシマドジョウと区別がつかない。
春、琵琶湖に流れ込む河川中流
部でタモ網に入った。この個
体は本流から水が流れ込む浅い場所にいた。砂底や砂泥底だった。
初夏に捕まえた雄。
琵琶湖流入河川下流部の砂泥底の淀みでゼゼラと一緒に捕まえた。
外観からはオオシマドジョウにも見えるが、採取地から本種で良いと思う・・・。
夏、中流の砂底で捕まえた。
全長9cmほどのよく肥えた雌。背がグンッと盛り上がった猫背の体形をしている。
流れが淀むような場所よりはやや流れがある砂底、砂礫底を好むようだ。
上の個体と同時に捕まえた。
全長7.5cmぐらい。比較的明るい体色で、背面と体側中央の縞模様がはっきりしている。
尾をちょこっと上げているポーズが大変よろしい。同じくらいのサイズの個体が砂底をすくう度にタモ網に入った。
秋に捕まえた雄。
大きな岩に水がぶつかり、周囲が深くなっている場所の礫底をすくうとタモに入った。
水がきれいな河川の砂礫底で
捕まえた全長7.5cm程度の個体。同じ河川でアジメドジョウも捕ることができた。
アジメドジョウが流れの早い瀬で捕れる一方で、本種は水が淀んだ砂底で捕ることができる。
河川中流で捕まえた雌。
この個体はでかかった。全長11cmを超える。ふわっとした砂底にもぐっていた。
秋に捕まえた雄。
全長約8cmくらいだった。長い胸びれはこんなにも長い。
秋に捕った個体。
河川上流の流れの緩やかな砂底にいた。よく似たオオシマドジョウと比べると本種は比較的スリムな個体が多いように思う。
オオシマほどムッチリ・ムチムチした大きな個体はあまり見かけない。
冬のはじめ、
湖東で捕まえた雌。西日を浴び、体側の斑紋に重なるようにして、帯状にキラキラしている。細かい金粉を散らしたよう。
全長は10.5cm程度だった。
上と同所で捕まえた別の雌。
全長11cmほど。同じく体側が帯状にキラキラ。この個体の体側の斑紋は、2つの斑がセットでくっついたように縦長形状だ。
冬の初めに湖東で捕まえた雌。体はでっぷりしていて、全長10.5cmほどと最大長に近い。体側の斑紋が比較的大きい。
全長約8cmの個体。体側の斑紋が大きめでその間隔も広い。
冬に捕まえた
全長7cmほどの雄。
冬でも淀んでいるところより、流れがあるところにいる。
5.5cmほどの雌。
尾びれ基部の2つの斑紋は濃くてつながる。大人のミニチュア版って感じでかわいいね。
秋に捕まえた幼魚。
全長約5cm。
雄の胸びれ。
根元に鳥のくちばし状と比喩される骨質盤がある。オオシマドジョウのそれと比べるとより細くて長い。
春に捕まえた雌。
背の斑紋は薄く背中線がくっきり。
この個体も春の雌。
背には斑紋が見られる。
秋のはじめに捕まえた雄。
背に並ぶ斑紋は明瞭。この個体、斑紋と斑紋の間隔がスジシマドジョウ類のように狭い。
別の雄。
背中線が背の斑紋を貫いている。いずれの個体も背に斑紋をもつが、
斑紋だけだったり、背中線がったり、または斑紋がより小さい丸だったり、色が薄かったりなど、幾つかのバリエーションがある。
冬のはじめに捕まえた雌。
斑紋がよくわかる。斑紋と斑紋の間隔は広く、その距離は斑紋の大きさとほぼ同じ。
雌の頭部を横から。
吻から眼にかけて
暗斜帯がある。雄の特徴である胸びれの付け根の骨質盤がわかるだろうか。
雄を真正面から。
胸びれが大きいから雄。クリンと巻いて可愛い感じ。
雌を正面から。
雄とは胸びれの形が違う。
C地域:滋賀県北西部
滋賀県北西部に生息する
本種は、外観がオオシマドジョウによく似ているものが多い。
写真は早春に捕まえた雄。尾びれ基部の2つの斑紋はオオシマドジョウのように共に濃くてつながっている。外観はオオシマにしか見えない。
春のはじめに捕まえた雄。
生息しているところにはたくさん生息していて、砂底をすくえば大量だ。滋賀県北西部では、琵琶湖がすぐそこっていうところでも確認できる。
全長約7cmの雄。
水路の水がずいぶん少なくて泥っぽくなっていたが、 砂がやわらかく積もったところをタモ網でザーッとすくうと複数匹が入った。
泥底にはドジョウがいた。
冷たい水が流れる用水路で
春に捕った個体。全長は約9cmくらい。体側の斑紋はやや横長で独立している。体を弓なりに緩く曲げているので頭部と尾びれがやや大きく見える。
全長10cmを超える雌。
これくらいのサイズは手に持つとかなり存在感がある。大柄の斑紋をもち全体的に白っぽい体色をしている。
こんな外観のオオシマがいる。
紛らわしい個体だ。この辺りはどうもそんなのが多い。外観上の違いはいろいろ言われているが、あくまでも傾向に過ぎない。
春に捕まえた雌。
背が盛り上がり、春の雌らしい体形ででっぷりとしていた。全長は10cmに満たない程度。尾びれ基部の下の斑紋は離れていて不明瞭。
ここの個体としては逆に珍しい。
体側の斑紋列が
縦条になっている個体。
尾びれも放射状に線が並ぶ模様で、尾びれ基底の上下斑は太く濃く繋がっていてひとつの細長い斑みたい。
たまにこういう色彩変異の個体が捕れる。
農業水路でデカイ雌が捕れた。
全長14cmもある。ここまで大きい個体を手にしたのは初めて。ほんとデカイ。
吻が長くて顔つきも異なるように見える。このサイズ、本種のイメージが大きく変わってしまう・・・。
またデカイのが捕れた。
この雌は全長16cmほど。とかくデカイ。ここで捕れるドジョウもデカイんだよね、何かあるんかな?
琵琶湖に流入する川の河口で
捕まえた。奇麗な水が流れ込む川であったが底質は砂泥で、黒っぽく腐敗した落ち葉などが堆積していた。
琵琶湖はすぐそこ。シマドジョウ類のイメージが変わる。
春の終わりに捕った個体。
全長は約7.5cmくらい。水草が多いところで捕ったから体が緑っぽいのかなあ。
捕った瞬間はオオシマドジョウと迷ったが、場所を考えても本種で良いと思う。
初夏に捕まえた雌。
川岸にある水草の脇を追い込むとタモに入った。体がずいぶん黒っぽかった。
稲刈りが近い
秋の水路で捕まえた。全体的にほっそりしていて、痩せている。体側に縦に並ぶ大きな斑紋がよくわかる。
初冬、
琵琶湖に流入する小川で捕った全長約8.5cmの個体。
尾びれ基部の斑は下方のものも濃くて酷似するオオシマにも見えるが、体側の斑紋の感じ、捕れた場所から本種で良いと思う。
上と同時に捕れた個体。
きれいな水が流れる砂底をかき混ぜると何匹もタモ網に入った。
冬に捕った雄。
クリッと反り返った長~い胸びれが印象的だった。
全長4cm程度の個体。
浅いボサの下で成魚に混ざって捕ることができた。
冬に捕った個体。
全長5cm程度。立派な体格をしている成魚に混じってタモ網に何匹か入ったが、やせすぎ?
方向転換をしようと
体をひねったところをパリチ。ひれを広げ口を大きく開けている。
真上から。
背の斑紋を串刺すように背中線が見られる。
この個体の背の斑紋は丸い。
体側の斑紋が見られるが、左右で違うことがわかる。
春の終わりに捕まえた雄。
背中線が明瞭で背の斑紋はぼやけた感じだ。雌は斑紋がはっきりしている個体もいた。
模様は個体差を越えて、捕れる場所や季節、雌雄による差があるのかなあ?
雄の頭部拡大。
雄は胸びれの根元に骨質盤をもち、大きく伸びている。
春の雌の頭部拡大。
雌は胸びれの根元に骨質盤をもたず、胸びれが全体的にちいさい。この写真だけだと、オオシマドジョウと区別でけへんな・・・。
真正面からだとこんな感じだ。
オオシマドジョウとの違いは・・・どうかな。
口を平らに広げた感じが、
アジメドジョウっぽい???
3匹が並んでくれた。
電車が並んでいるみたいだ。
※(*)個体の同定及びオオシマドジョウとの区別ポイントは 日本淡水魚類愛護会の西村さんにご協力頂きました。感謝です。
created:2012/9/22