ヌマムツ Nipponocypris
sieboldii
コイ科クセノキプリス亜科ヌマムツ属
【生息場所】
河川の中下流域の淵などに生息している。岩陰や草が多く茂ったところを好み、カワムツよりもさらに流れの緩やかな場所にいる。ワンドにいることも多い。
【外観・生活】
日本固有種で全長は25cmほどになるそうだが、通常捕れるのは大きくても15cmくらいなことが多い。
背部は褐色で腹部は白く、体側中央に深藍色の縦帯があり、胸びれや腹びれの前縁が朱色をしている。
産卵期の春から夏には雄はあごから腹にかけての部分を朱色に染める。顔には雄、雌ともに追い星があるが、雄のそれはより大きくなる。
よく似たカワムツと比べると、本種は鱗がより細かく、吻がとがり、尻鰭分枝軟条数が少ない(本種は9本、カワムツは10本)。
両者は混棲することも多く同時に捕れることもある。
見慣れると吻の形や鱗の細かさ、ひれの色などで判別できるようになるが、稚魚や幼魚などの小さな個体はかなり難しい。
雑食性で、付着藻類や底生生物などを食べる。
【捕る】
川の淵などで、オイカワなどに混じって釣れることがある。 草の陰や岸辺の深みなどにタモ網を構えて捕ることも容易だ。
【その他情報】
本種は外観がカワムツとよく似ていることから、カワムツと同種として扱われ、カワムツA型として区分されていた。
2003年にカワムツA型改め、ヌマムツと命名された。
静岡県以西の本州、瀬戸内海地方、九州北部に自然分布するが、人為的な行為により関東地方にも分布を広げている。
開発を受けやすい場所に生息するため、カワムツよりも個体数の減少が進んでいる。
【コメント】
タモ網に入ることが多いのは、幅広く生息しているカワムツの方で、本種は生息範囲がやや限られ、出会う機会は比較的少ない方だ。
カワムツと違って「ヌマムツばっかり」の場所は少ない。
本種は流れが緩やかな場所に多いのだが、川の水がまっすぐにサーッと速く流れる三面コンクリート護岸水路のような場所でも、
ちょっとした転石や障害物の陰などで捕れることがある。そんな場所は流れを好むカワムツも当然生息していて、両者が同時に捕れるからややこしい。
両者の区別は見慣れるとそんなに難しくはないが、過去はカワムツと同種とされていただけあって、
特に小さな個体はワンテンポいるというか、しっかり見ないと判別できないことがある。
鱗がより細かいとか、吻がやや尖るとか、胸びれや腹びれが朱色などの違いはあるが、
特にたくさん捕れたときなどは「う~ん、ムツ」とまとめて雑に扱っていることも多い。
ヌマムツとカワムツは違うよ、でもよく似てるんだよー!ごめんねー!
春に捕まえた個体。
見た目はカワムツによく似ているが、吻が尖り、顔はキリッとしているというか、やや鋭い表情に見える。全長は8.5cm程度。
菜の花香る春の陽気に水路でタモ網に入っ
た。
全長14cmぐらい。胸びれや腹びれの前縁が朱色で、カワムツより鱗が細かい。
顔に追星と呼ばれる小さな白いブツブツが見られるが、発達しておらず、体色も地味~な感じなので、まだ繁殖期前だ。
同所で捕まえた全長11cmほどの個体。
体はスマートで顔つきもシャープ。よく似たカワムツはもたない雰囲気がある。
梅雨の終わりに捕まえた雄。
全長15cmほど。水田地帯を流れる細い水路でタモ網に入った。
鮮やかな婚姻色に目が奪われる。カワムツのそれに似ているが、全体的に赤っぽく、胸びれや腹びれが朱色であることが異なる。
初夏に捕まえた全長15cmの雄。
この個体は吻がやや丸くてシルエットはカワムツに似ている。眼はより小さいな。
全長13cmぐらいの雌。
お腹が大きく膨らんでいる。卵をもっているのだろう。
夏に捕まえた個体。
鱗が乱れていて銀鱗タナゴの”銀鱗”のようだ。ここでは銀鱗ヤリタナゴが捕れるので同じ寄生虫の仕業かも。
全長9cmぐらいの雌。
背は頭部からクッと盛り上がる。こう見ると結構体高があるな。
全長約13cmの雌。
この個体の体色はちょっと個性的。体側の太い縦帯はやや不明瞭で、鱗がきらきらして網目模様が目立って見える。
盛夏に捕った個体。
ワンド内でタモ網に入った。吻が尖る以外に、鱗が細かく、胸びれ、腹びれが赤いことがカワムツとの区別点だ。
夏の終わりに捕まえた個体。
幅が1mぐらいの農業水路の淀みでたくさんタモ網に入った。
本種はよく似たカワムツと比べると全体的に銀色が強く、体側の縦帯がより薄いね。
明るいバケツに入れておくと、
体色が薄れて白っぽくなってしまった。
卵をもっていると思われる盛夏の雌。
水流のある3面直線コンクリート水路でタモ網に入った。こんなところでヌマムツ?と首を傾げた。
夏に捕まえた全長約8cmの個体。
夏でも冷たい湧き水が流れる水路でタモ網に入った。
本種はカワムツよりも吻が尖っている特徴をもつが、この個体は違和感あるぐらいにピンピンに尖っていた。
これも個体差の範囲なのかな。
夏の終わりに捕まえた全長約8cmの個体。
オイカワやカワムツも同河川で捕まえたが、この個体は流れのあるところではなく、水が淀むワンドのボサでタモ網に入った。
カワムツに似てるけど、吻が尖がっているから顔が違うよね。
やや細身の個体。
婚姻色はほぼ消失している。
秋に捕った雄。婚姻色はもう随分薄れた。
稲穂をバックに夕焼けがかった光を浴びてシルバーに輝く。
秋に農業用水路で捕った個体。
雌と思われるが、やさしい、マイルドな雰囲気が漂う。
秋の河川で捕まえた個体。
カワムツに混じってタモ網に入った。
全長7.5cmほどで体は小さいが、吻は尖っているし、ひれの色も赤系が強いし、カワムツとは区別できるよー。
秋の終わりに捕まえた個体。
全長6cmぐらい。ワンドの草の陰でタモ網に入った。
流れのあるところではカワムツが、淀むところでヌマムツが。図鑑や解説書に書いてある通り。
真冬の浅いワンドで捕れた個体。
このワンドでは真冬になると、15cm程度の個体がまとまって見られるようになる。
真冬に同所で捕れた別個体。
各ひれは退色しており、胸びれ、腹びれ前縁に朱色がわずかに残っている程度だ。
冬に捕った全長11cmの若魚。
体色が金色がかっている。
冬に捕れた全長8cmの若魚。
体側の暗色縦縞がはっきり出ている個体。
冬、枯れ残った水草の中に隠れていた。
近くでカワムツもたくさん捕れた。
ちょっとした深みだが、イトモコロ、ムギツク、フナ類、チュウガタスジシマドジョウ、アブラボテなどなど、多くの魚種に出会えた。
いい環境だ。
冬の終わりに農業用水路で捕った個体。
これどっちやと思う?と、子供に聞くと「ヌマムツ」。カワムツとの違いは?と問うと、「鼻先が尖っているところ」と返ってきた。
他にもあるけど、傾向的にはその通りだ。
早春にタモに入った雄の成魚。
春のはじめであったが、体が色づいていて、すぐに雄だとわかった。何とか冬を越した老齢個体と思われる。
春に捕った
全長6cm程度の若魚。
ひれはまだ色付いておらず、ぱっと見ただけではカワムツと区別が難しいが、細かい鱗や吻の形などから傾向は判断できる。
尻鰭分枝軟条数(9本)など定量的に特徴が把握できれば完璧だ。
秋の若魚。
こんな風に、腹びれが朱色であると比較的わかりやすい。
冬に捕れた5cmの若魚。
明瞭な暗色縦帯や全体的なウロコの雰囲気はカワムツとは明らかに違う。
カワムツ(上)と並べてみた。よく似ている
が、ヌマムツ(下)の鱗がより細かく、胸びれ前縁が朱色で違う。
成魚を真上から。
夏の雌個体であるが胸びれ前縁の朱色がよく目立つ。背びれ前にある薄褐色の楕円形斑紋が特徴的。
カワムツにも同じような斑があるが、カワムツよりも丸っこくて、はっきりしている。
全長約7cmの個体を真上から。
オリーブグリーン色の背にある薄褐色の楕円形斑紋は、同所に生息することが多いオイカワとの区別点だ。
その形はカワムツとも違うので、これだけでだいたい本種だとわかる。
雄の成魚ではあるが、
背は褐色、特徴の背びれ前にある楕円形斑紋が不明瞭。不明瞭な個体もいるんだね。
カワムツ(上)とヌマムツ(下)。
よく似ているが、ヌマムツの方が厚みがあってがっしりした印象を受ける。
体をバリバリの婚姻色に染めた雄。
頭部は濃紫色で、白い追星が口の周りや眼の下、ほぼに出ている。
盛夏に捕れた雌の頭部拡大。
雌でも口の上部に追い星が現れている。カワムツと比べると吻が尖り、目は比較的小さい。顔色は黄金だ。
正面からはカワムツと区別しづらい。
背びれ前縁がそんなに赤くないことや、胸びれ前縁が朱色に染まっている違いはあるけど。
全長15cmを超える成魚。
観察ケースに移す際に飲んだ空気が出てきたんだと思うが、鼻先を見ながら、口をとがらせてわざと泡を出したように見えて面白い。
繁殖期の雄の顔。
白い追星は円錐状で硬く触ると痛い。それよりも、なんか・・・でかい口(くち)。
カワムツ(右)とヌマムツ(左)。
とてもよく似ているが、違いわかるかな?
尻鰭分枝軟条数はカワムツとは異なり9本。
繁殖期になるとカワムツ同様に黄色く色付く。
created:2012/1/7