シマヒレヨシノボリ Rhinogobius
tyoni
ハゼ科ヨシノボリ属
【生息場所】
水の流れのほとんどない池沼や緩やかな流れの用水路などに生息し、底が泥っぽいところを好む。
カワヨシノボリがいるような流れのある水路でも岸近くで泥が溜まるような場所で見られる。
【外観・生活】
全長は5cm程度でヨシノボリの中では小型の部類。
雄であっても第1背びれが伸長せず丸い形をしている。第2背びれや尾びれに縞模様が現れることが名前の由来だ。
比較的地味な体色をしているが、のど部は橙色で、尻びれと尾びれ下部は薄い朱色や橙色をしている。胸鰭軟条数は20~22本。
鼻先は短く口がやや上を向いていて、カワヨシノボリなんかと比べると寸詰まりな印象を受ける。
近縁種のビワヨシノボリによく似ているが、成魚になっても第2背びれや尾びれには縞模様が残るなどの違いがある。
他のヨシノボリ同様に腹びれは吸盤状になっていて垂直な壁でもひっつくことができる。
池などで上からのぞくと、コンクリート壁に貼り付いて、水中から逆にこちらの様子をうかがっているようなしぐさを見せることがある。可愛いものだ。
【捕る】
池のコンクリート護岸にひっついていることがあるので、タモ網をあてがい、擦るようにして捕る。
用水路や小川であれば、水草の脇、木杭などにひっついているので、タモ網に追い込むようにして捕る。
【飼う】
飼育は難しくないが、なわばり意識が強く、他魚にすぐちょっかいを出すので、複数飼育の場合は障害物や隠れ家などを存分に入れた方がよい。
【その他情報】
ヨシノボリ類は、二枚貝の幼生であるグロキディウムの宿生魚のひとつである。
本種は大阪府内ではカワヨシノボリと並んで最も多く見かけるヨシノボリであり、タナゴ類やヒガイ類の産卵母貝であるイシガイ類の生息に一役かっている。
小さな体であるが多様な水辺の生態系を支える重要種のひとつなのだ。
本種は過去にトウヨシノボリと呼ばれていたグループに属していて、トウヨシノボリ縞鰭型と呼ばれていたが、
2010年に個別種として提唱され、「シマヒレヨシノボリ」の新標準和名が与えられた。
その後学名未決定のままであったが、2019年2月に新種記載された。なお、本種はビワヨシノボリによく似ているが琵琶湖水系に生息しないとされる。
【コメント】
私にとってヨシノボリといえば本種だ。ずんぐりとしていて地味~。
奈良盆地ど真ん中の水田地帯を走り回っていた子供の頃、
図鑑で見るような大型で格好良く、鮮やかに色付いた第1背びれがピン!と伸長した個体は一体どこにいるのかといつも思っていた。
子供の行動範囲は大人からすると随分と狭いもので、田舎故にそれなりに広いんだけど、校区よりより外に出るというのは冒険に等しかった。
地理的には海から遠く高低差はほぼなくて、水辺環境は盆地を流れる河川と、ため池や水田を中心に網の目のように張り巡らされた水路のみという単調なもの。
そんな環境で捕れるヨシノボリは本種だけだった。
よく行ったため池の桟橋やコンクリート壁に引っ付いていて、水中からのぞくようにこちらを見ていた、可愛い小魚である。
そんな姿を見付ければ、壁にタモ網をあてがい、壁をこするようにすくい上げて捕ろうとしていたことを思い出す。
ユーモラスで懐かしい、そんなヨシノボリだ。
早春に捕れた全長5cm程度の個体。
第1背びれは伸長せず、鼻先は短く口が上を向く。胸びれを除くひれは朱色で、背びれ上端はうっすら黄色く縁取られている。
カワヨシノボリの雌かとも思ったが、胸びれは20条あり、カワヨシのそれより多い。
早春の個体。
本種の特徴である第2背びれと尾びれの縞模様が良くわかる。
春に捕まえた個体。
頭でっかちで尾びれにかけてスーッと細くなる体形。体側に暗色斑が並ぶ。
かっこいい雄が捕れた!
全長は5cmほど。4月下旬、泥砂底の河川のたまりでタモ網に入った。
地味な体色だけど、それゆえにのどの橙色、尾びれ下部と尻びれの朱色が美しいね。鱗も朱色に色づく。男前やわ~!
上の個体と同時に捕まえた雌。
写真ではわかりにくいが、お腹が大きくて卵をもっているようだった。体全体が砂泥底模様。全長は4cmほどだった。
夏の農業用水路の個体。
多くのカワヨシノボリに混じって捕れた。体色は灰褐色で体側に斑紋をもつ。背びれは薄黄白色に、尻びれは薄青白色に縁取られる。
夏に捕った全長4.5cm程度の個体。
体側の斑紋ははっきりしない。のど下部は橙色。美しい魚体だ。
夏に奈良の用水路で捕った個体。
第二背びれにうっすらと縞模様が見られるが、尾びれには見られない。変異なのかな?
秋に捕った全長5cm程度の個体。
体側の斑紋はあまりはっきりしない。
秋に捕まえた雄。
尻びれの橙色が地味な体色とコントラストが効いてきれいだ。
本種同様にかつてトウヨシノボリと呼ばれていたグループに含まれていたビワヨシノボリに似ている。
ややピンボケだけど、
雄がひれを広げるとこんな感じ。第1背びれは伸長せず丸い形、第二背びれには本種の和名の由来である縞模様がある。
ピントがばっちりだったらトップ写真だったんだけどな。
秋に奈良の水田地帯で捕った個体。
全長は4.5cm程度。背びれ上端は薄黄色に縁取られ、尻びれおよび尾びれ下1/3は橙色に、のど下部も橙色に美しく染まっている。
成熟した雄の中には第二背びれや尾びれの縞模様が不明瞭になる個体もいるようだ。
秋に捕まえた若い個体。
本種は流れのない水路や池を好むが、そこそこ流れのある川で捕まえた。
秋の京都で捕った個体。
全長4cmでずんぐりしている。農業用水路でカワヨシノボリと混棲していた。目がキラリ。
秋の終わりの兵庫で捕った個体。
カワヨシノボリと一緒にタモに入った。
冬の大阪、泥底の水路でタモ網に入った。
背びれがボロボロだけど、背びれや尾びれに名前の由来である縞模様が見られる。のどの橙色が美しいね。
大阪で捕まえた。
透明感のあるひれで、尻びれの基部が橙色。体側には暗色の斑紋が並ぶ。
冬に捕まえた個体。う~ん、雌かな。
少しお腹が膨れていたが、餌でいっぱいなのか、病気なのか・・・。
冬の終わりに農業用水路で捕った雄。
全長は約5.5cmあって本種の中では比較的大きい。ひれの縞模様がはっきりと出ている。
これも冬の終わりに捕った個体。
全長は約5cmだ。冬は特に体色が褐色で、地味な感じが強調される。
冬の三面コンクリ水路でタモ網に入った。
池につながっているが、本種とエビ類しかいなかった。
幼魚の間は胸びれ基底上端に青色斑点がある。
夏の終わりに捕った雌。
バケツの中をピョンピョン動いて壁面にくっつき、こっちをのぞき込むような仕草が可愛らしかった。
全長3cm程度の個体。
胸びれ基底上部の青色斑点は全ての幼魚個体に出るものではないようだ。
春の用水路で捕まえた。
全長2cm程度の幼魚。吻が短くてかわいいね。体側の斑紋がよく目立つ。
全長2.5cm程度の個体。
体は小さくても第二背びれや尾びれに縞模様をちゃんともっている。
雄を真上から。
背面は黒っぽい色をしている。
夏の雄。
背びれは薄黄白色に縁取られる。
別個体の雄を上から。
上の個体と比べると背の明暗の割合がずいぶん違う。頭部には暗色の筋模様がある。
上と同じ個体を腹部から。
尻びれは基部が橙色で薄青白く縁取られていた。
別の雄を腹面から。
のど部は中央が薄青紫色でその外側、えらの下部になるところが橙色をしている。深青色の目がなんとも・・・。
上の個体の頭部を横から拡大。
胸びれ基部の上端にキラキラした青色斑点をもつ場合がある。雄であっても鼻先は短くて寸詰まりな印象なのはビワヨシノボリと共通。眼から吻先にかけてある
赤色線は比較的細い。
春、婚姻色が出た雄の頭部。
のどの橙色が鮮やかだ。この個体のほほにはぼんやり小さな朱色点が見られる。吻は短く口は上を向く。
冬に捕った雄。
この個体はえらぶたの上に小さな赤色点がある。本種は複数の都道府県で捕っているが、微妙に違う感じがする。
口は上を向く。どこかガラの悪い表情だ。
別の個体を真正面から。
胸鰭軟条数は20本ある。
雌を真正面から。
繁殖期の雄を正面から。
唇はぶ厚い。体色は灰緑褐色をしていて、捕れた場所の泥砂底の色に似ている。
やや黒っぽい体色の雄。
胸びれの付け根上部に黒色斑が見られるが、たまにこんな個体が捕れる。
胸びれの付け根上部の黒色斑はオオヨシノボリの特徴だが、オオヨシノボリと比較するとぼやけていて薄い。
繁殖期の雌雄ペア。
同じ場所でタモ網に入った。雌はお腹が大きくて雄は婚姻色を帯びている。地味だけど・・・この地味さが良い。
created:2012/1/7