スナヤツメ(南方種 or 北方種) Lethenteron
sp. S or Lethenteron sp. N
ヤツメウナギ科カワヤツメ属
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【生息場所】
湧き水が豊富な河川の上流から中流、その細流の比較的流れの緩やかな砂地や泥地に生息している。幼生は泥底に多い。
【外観・生活】
全長は20cm程度。本種を含むヤツメウナギの仲間は円口類と呼ばれ、脊椎動物の中で最も原始的とされる。
口が吸盤状であごをもたず、成体の口は裏側から見るととってもグロテスクだ。体側には七つのえら穴があって目と合わせて「八つ目」と呼ばれる。
ちなみにウナギと名が付くが「ウナギ」とは全く関係がない。
あごの有無という観点からいうと、本種とウナギとの関係は、人間とウナギとの関係よりも遠いと言える。
成長途中で変態して成体となるが、幼生はアンモシーテスと呼ばれ、目が皮下に埋没し、口の吸盤もない、なんとも不思議な容姿をしている。
アンモシーテスは流れの緩やかな砂泥底や泥底に潜っていて夜間に遊泳し、盲目で泥中や砂泥中の有機質を餌として成長する。
4年目の秋から冬にかけて変態して眼が現れ成魚になる。
その後は餌を全く捕らず湧き水が流れる水路などで過ごし、春に上流の砂礫底で集団で産卵し死亡する。
【捕る】
釣りでは捕れないと思うので、タモ網で捕る。タモ網を構え、砂泥底をかき混ぜて追い込む。
【その他情報】
原始的な魚類とされ、魚類の仲間と見なさない研究者も多いという。その理由は体の骨格が軟骨質で口が吸盤状であごがないからだ。
今から4億年前は、あごのない円口類が世界中の海や川に繁殖していたそうだ。
脊椎動物の進化の中で、食物を噛むためのあごの獲得はとても重要な過程のひとつであり、あごのある魚類が出現するとともにそれらは衰退していったらしい。
ヤツメウナギの仲間は、そんなあごをもつ魚たちに囲まれながらも滅びることなく、現在まで生き続けてきた。
なお、スナヤツメには「北方種」と「南方種」という遺伝的に大きく分化した2種があり、
近畿地方に関しては、大阪周辺に生息するのは「南方種」、滋賀県には両種が同所的に生息している場所がある。
これら2種は生殖隔離が成立しているが、形態的特徴が酷似しており外観上区別することができない隠蔽種とされている。
隠蔽種は昆虫類では数多く発見されているが、脊椎動物では極めて珍しいそうで、両者がお互いをどのように見分けているのかは謎なんだそうだ。
琵琶湖では簗にかかることもあり、降湖型のスナヤツメがいると言われている。
ちなみにビタミンAが豊富で夜盲症の治療薬として珍重されるのはカワヤツメという同じ科の別種だ。
【コメント】
これは魚か?と問われれば、確かに答えに困る。この姿からして一般に皆が抱く魚のイメージを本種はもたない。
正直、成体のグロテスクな口は地球外生命体を想像させるほどだし、眼がなくてエラや口の形が特殊な幼生については、ますます魚類とは思えない。
おそらく生物学上の魚の定義はどこかで定められているのだろうが、私はこの道の専門家ではないので、
淡水魚図鑑に載っているから淡水魚として扱っているというのが正直なところだ。
本種は湧き水が豊富で落ち葉がたくさん堆積しているようところや、ズブズブと足が入り込んでしまうような良質の泥底の中に生息している。
良好な環境下では、数多くの小さなアンモシーテスがクネクネとタモ網の目に縫われたように絡んでしまい、
ひとつひとつを取るのに面倒な思いをするほどたくさん生息している。
しかし、本種は水の汚れに弱く、護岸工事がされて緩やかな流れがなくなり、落ち葉が溜まるような場所が消えると生息することができない。
今はずいぶんと数を減らしてしまったそうだ。逆に言えば本種の生息は、水質が良くて良好な自然環境が残されている証だ。それゆえに大切にしたい。
成体の頭部。
7対のえら穴と(本物の)目を合わせて「八つ目」の名がある。こう見るとかわいい?
透明度の高いきれいな水が湧き出る
小河川で。
全長15cm程度の成体。
比較的流れのあるところの石の陰で捕ることができた。
同じく冬に捕った個体。
成体になると背びれが伸びて薄褐色に色づく。 胸びれや腹びれはない。
春のはじめ、
雪解け水が流れる河川の砂泥底でタモ網に入った。全長15cmぐらい。体の円周方向にホースにあるようなスジが見られる。
春の用水路で捕った個体。
川を泳ぐ個体も見られた。
腹面は白い。
観察ケースに入れると落ち着きなく絶えず右に左に上に下にと動き回り、吸盤状の口を使って観察ケースを何度もよじ登ろうとする。
危うく逃げられそうになった。
成体の頭部を真上から。
成体の口はとってもグロテスク。
SF映画に出てきそうだ。吸盤状になっていてあごをもたず、エサをとらない。吸い付かれて歯のようなもので肉を削り取られそうに見えるけど・・・。
口を吸盤として使い、
産卵に適した礫底のある上流に向かって春の川を遡っていく。
冬の終わりに河川中流でタモ網に入った。
この季節になると成魚に出会う。
網の中でクネクネクネクネ落ち着きなく動きまくる。ドジョウやウナギと同じでヌルヌルしていて掴みにくく、観察ケースに入れるにも一苦労だ。
春のはじめに同所で捕まえた成魚とアンモ。
全長は同じぐらい。明るい観察ケースだと、落ち着かずにクネクネクネクネ・・・いつまでもよく動く。
春に捕まえた個体。
大きさから考えて、来春までには眼や口が出現するかな。この個体はやや太短い印象を受ける。
全長6cm程度のアンモシーテス。
湧き水が豊富な河川の落ち葉が溜まっているところで複数匹が捕れた。 実際はもう少し赤茶色をしていて、細いミミズのようだ。
田んぼの脇を流れる水路の泥底で捕った個体。
水は大変きれいなのだが、水底はズブズブの泥で、その泥をかき混ぜて追い込むとたくさん捕れた。この個体は糸の縫い目の様に自分でタモ網に絡まっていた。
トップ写真と同じアンモシーテス。
冬の河川中流の浅瀬で捕まえた。
真横から見たアンモシーテス。
この個体の全長は14cm程度ある。
上の個体の頭部。
目はまだ皮下に埋没しているが、名前の由来となった7つのえら穴がよくわかる。口には顎がなく円くあいている。
上から見たアンモシーテスの頭部。
正面から見ると、
なお一層のこと「これって魚?」と思ってしまう。不思議な形だ・・・。
created:2012/1/7