タモロコ Gnathopogon
elongatus elongatus
コイ科バルブス亜科タモロコ属
【生息場所】
生息域は広く、河川の中流域、用水路、細流、ため池などにいる。水田にも入り込む。河川改修された浅い用水路でも群れで泳ぐ姿が見られる。
【外観・生活】
日本固有種で全長8cm程度になる。体は側扁した紡錘形で、ずんぐりした印象がある。
背部は緑褐色で腹部は白く、体側には暗色の太い縦帯があってそれに沿うように数本の縦筋模様が腹側にある。 吻は丸くて、やや長い口ひげをもつ。
尾びれの付け根中央部には小さな黒点があり、他のよく似た魚との区別に使うことができる。
中層から底付近を遊泳し、水草や石の陰などにすっと身を隠す。
繁殖期は春から初夏にかけてで、卵は水草などに産み付けられ、雌雄ともに通常1年で成熟する。
動物食の強い雑食性で、ユスリカの幼虫やイトミミズなどの底生動物などを食べている。
【捕る】
サシやアカムシをエサにした釣り、タモ網などで捕れる。タモ網で捕る場合は、川をざぶざぶ歩き、水通しの良い水草などに隠れているところを狙う。
【飼う】
人工飼料にもよく慣れ、水質にも比較的強く、飼育は容易。
ガラス水槽内でも容易に産卵する。産卵に気付かず水換え時に底のゴミと一緒に吸い込んだバケツ内に稚魚を見つけたことがあった。
【その他情報】
本種の体形は地理的な変異が大きい。鈴鹿山脈付近を境に遺伝的に異なる2つの集団が存在することが明らかにされている。
さらに天竜川水系には特異な集団が見つかっていて、亜種のスワモロコとの関連性が示唆されている。
琵琶湖固有のホンモロコは、琵琶湖という特殊な環境下で本種が独自に進化した種とされている。
そのホンモロコには味で劣るが、本種も美味しいそうで、大阪ではため池で養殖が行われている。
「モロコ」という名の由来は、子が多いという意味で「諸子」、群れるという意味で「群魚」という説があるそうだ。
【コメント】
本種はフナやメダカと同じく田んぼの周辺で見られる代表的な魚のひとつ。
奈良の実家近くの用水路を群れで泳ぎ、私の影に慌ててあちらへこちらへ逃げ惑う姿は今も昔も変わらない見慣れた光景だ。
銀色スマートでかっこいいホンモロコと比較すると、総じて褐色でずんぐりコロッとしているどんくさい体形が、妙に親近感を感じさせる。
緩やかな流水環境で見られることが多いが、池などの止水でも見られ、
逆にタモ網を固定するのがかなり難しい流れの速いコンクリ水路でも群れになって泳ぐ姿を見ることがある。
下に紹介するさまざまな個体の写真を見てもらうとわかると思うが、体形や体色にいろんな変異がある。
より太短い個体や細長い個体、まるでホンモロコみたいなスタイルをした個体、金色の個体や銀色の個体、黒っぽい個体など。
生息環境は広くて、いろんな姿を見せてくれる、タモロコはそんな魚だ。
早春に捕まえた全長6.5cm程度の個体。
褐色の体に暗色の縦帯がある。さらさら流れる川で出会うお馴染みの魚だ。
春に捕れた個体。
流れになびく水草の脇に隠れいていた。緩やかな流れのある用水路などで見られる。
春に捕れた若魚。
光の加減によっては、このように銀白色に見える。ホンモロコの輝きに似ている。
卵を有している思われる個体。
体はコロコロだ。流れのある水草の脇でタモ網に入ってくれた。
ホンモロコの味を知ってしまってから、よく似たタモロコを手にすると美味そうだと思うようになってしまった(まだ食べたことないけど)。
春に捕れた若魚。
全長6cm程度のやや小型の成魚であるが、卵をもっているようだった。
日に日に強くなる
太陽の光を浴びてメタリックにキラキラ。
面で光っているというより、極小の点々で光る感じ。春が来たね。
4月のわんどで捕まえた個体。まさに砲弾形の
体。胸のあたりが肉厚に見え
てマグロみたい。全然違うけど。
GWに捕まえた全長約8cmの個体。体側中央に
は太い暗色の縦帯がある。やや丸っこくて、長い口ひげをもっている。
農業用水路で捕まえた個体。
体側には暗色縦帯があり、腹側には平行に走る2本程度の暗色線がある。水通しがよく、ゆらゆらなびく水草の陰に隠れていた。
春に捕ったよく太った個体。
卵をもっているのかな。
春に滋賀県の用水路で捕まえた個体。
滋賀県では太っちょの個体がよく捕れる。琵琶湖に住むホンモロコとはぜんぜん違う。
この個体も春の滋賀県で捕まえた。
全長は8cmくらい。太っちょでコロコロした体形だ。
春の滋賀県内で捕まえた若い個体。
春の終わりに捕まえた個体。
滋賀県北西部で捕まえたが、手にした時はホンモロコかと思うほどスーッとした体形をしていた。
明るい場所に置いていたせいか、体側の暗色縦帯は不明瞭になり、体は太陽の光をあびて黄金色に輝く。
夏の用水路で。この個体は銀色。
初夏の琵琶湖流入河川で捕まえた。
流れの横にある淀みの草の陰でタモ網に入った。太短い体で本種らしいね。かわいい。
夏の用水路の個体。
たなびく水草の間を群れで泳ぐ。体は光の加減でギラギラしているように見える。胴体は前のめりに丸くてずんぐり。
夏の農業水路に群れていた。
きれいなスタイルの個体だ。強い日差しの中、川の水が冷たくて気持ちよい。
夏に捕った全長は8cmの個体。
水草が適度に繁茂している用水路では、水草の周囲に多い。 体はのっぺり銀色だ。
夏の用水路で捕った全長5.5cmの若魚。
一年でこれくらいになる。
体側の横帯がとてもくっきりした個体。
夏の若魚。
光の加減で頭部後方などがグリーンメタリックに輝く。全長4.5cm程度。
秋に捕った全長5cmの若魚。
体側を走る暗色縦帯の上にグリーンのライン。きれいなボディだ。
三面コンクリート用水路であったが、数十匹の群れで泳いでいた。人影に驚き右に左に逃げ回っていた。
秋に捕まえた若い個体。
ラバーダムでせき止められた河川から水を引く水路に群れて泳いでいた。太陽の光を浴びてややシルバーに輝く。
秋に捕った個体。
秋晴れの日、田んぼの脇をサラサラ流れる用水路をのぞくと群れになってたくさんの魚たちが驚いて逃げていった。
秋の農業水路で捕まえた。
体高がある立派な体形をしている。オイカワ、カネヒラ、ニゴイなどに混じって捕れた。
全長8cmに満たないくらいの個体。
やや長い口ひげがあり、ずんぐりした体形をしている。暗色の縦帯もよくわかる。流れのある水草の脇に隠れていた。
秋の青空を写して、
ボディはブルーメタリックに輝く。
秋の淀川支流で捕まえた個体。
この場所で手にしたのは久しぶりだ。
晩秋の個体。
多くのタモロコが捕れた中で、本個体のみ体色が全く異なる印象を受けた。やや大げさにと言うと金色に輝いていた。
秋の終わりに捕まえた個体。
太短い感じはいかにも琵琶湖周辺の河川産といった感じ。住宅の前を流れる水路の小さな落ち込みに集まっていた。
上と同じ日に琵琶湖周辺の別場所で
捕まえた個体。こちらの個体はスラッとしている。美しいシルエットだ。
全長8cmの冬の個体。
中小さまざまなサイズの個体と共に、水底に沈んでいた長靴の中に隠れていた。
全長約7cmの冬の個体。
捕ってバケツに入れておくとどうしても体色が薄くなるが、捕った直後はこんな体色をしている。体側下部には側線に平行して数本の縦筋が走る。
秋の河川中流、
水草が繁茂するところでタモ網に入った。
本種は水草の脇、流れが当たる部分でよく捕れる。兵庫県で捕れる個体は、吻が尖っていて、少し突き出たような感じ。
頭から背にかけてのラインがより直線的だ。淀川水系でよく見る個体と違う顔、体形をしている。
冬の兵庫県産の個体。
全長は5cmを超える程度でやや小型。吻がやや尖っていて、頭部から背にかけて直線的な形状だ。
冬の河川で捕った個体。
この個体も兵庫県産で、頭から背にかけて直線的で、吻が尖っていて、淀川水系で捕れる全体的に丸い体形の個体と雰囲気が違う。
同じく冬の個体。
上と同じエリアで捕ったもの。この個体は背がぐっと盛り上がっている。手にしたとき、この個体もちょっと雰囲気が違うように感じた。
冬に捕まえた個体。
全長5.5cmぐらい。中州の草の陰でタモ網に入った。体側にある暗色縦帯がはっきり。
冬に捕れたやや褐色が強い若魚。
流れのある水草の脇に隠れいていた。
冬に捕った全長4.5cmの個体。
かわいらしさがまだ残っている。
いや、かわいいね~、この姿。冬に捕まえた
全長5cmに満たない個体。なんて言ったらいいんやろ、かわい過ぎるっ!
冬に捕った個体。
かなり黒い体色をしている。透明できれいな水が流れる水路であったが捕れた個体は全てこんな色だった。 体色は環境によるのだろうか、それとも遺伝?
秋に捕った全長3cmの幼魚。
体側の縦帯、尾びれ起点の黒点がよく目立つ。
初夏に捕った個体。
全長は3cmに満たないくらい。よく似ている同じサイズのモツゴも捕れたが、尾びれ基部の黒点で容易に区別できる。
夏の川に群れていた個体。
薄い墨で書いたような暗色の縦帯、同定のポイントとなる尾びれ基部中央の黒点がよくわかる。
夏に淀川から水を引く用水路で捕まえた。
全長約8cm。タモロコにしてはスーッと細長い体形で、ホンモロコっぽい。
口ひげがそこそこ長いので、”スマートな”タモロコで良いと思う。
背は一様に褐色だ。
全体的なシルエットはホンモロコに似るが、やはりずんぐりしている。
冬の終わりに捕まえた5cmほどの個体。
雰囲気が少し違うとして上で説明している個体だ。 個体差かもしれないがスマートなシルエットをしていて、タモロコっぽくない。
タモロコ頭部の拡大。吻は丸く、
長い口ひげがわかる。口ひげはホンモロコのそれよりずっと長い。
農業用水路で捕まえた個体。
淀川水系のものと違う顔をもつ兵庫県の個体。
正面から。
横から見た感じはホンモロコをずんぐりしたようで近縁種であることを感じるが、正面の顔つきはホンモロコと全然違う。口ひげも長いし。
琵琶湖に流入する水路などで捕れる個体は、
関西の他府県の個体より、口びげがやや短い傾向にある。体色がこげ茶色なのは周囲の環境のせい。
口を空けてこちらを向く。
餌を採る瞬間なんかはこんな感じなんだろうな。
この個体は兵庫県産で、淀川水系の個体と違う雰囲気をもつ。正面からは違いがちょっとわかりにくいかな・・・。
三面コンクリートの用水路に群れていた幼魚。
隅に追い込めば、タモ網で容易に捕ることができた。
created:2012/1/7