トサカギンポ Omobranchus
fasciolatoceps
イソギンポ科ナベカ属
【生息場所】
河口付近のカキ殻がびっしりと付着しているような垂直護岸などに好んで生息し、貝殻の隙間などに潜んでいる。
【外観・生活】
全長8cm程度。側扁した細長い体に基底の長い背びれと尻びれをもつ。名前のとおり、頭頂にトサカの様な皮弁をもっていることが特徴だ。
頭部には黄色の横線があり、シマシマ模様はカキ殻の中で身を隠すためのカモフラージュになっているようだ。
体側にも薄っすらと横帯が見られる。体に鱗はなく触るとヌルヌルとしていて、カキ殻などの隙間にもぐりこみやすいようになっている。
普段はカキ殻などの間に身を隠し、頭だけを外に出していることが多いが、
餌をとるときや隠れ家を変えるときなどは、「カキ殻マンション」の間をフラフラ漂うように移動する。
繁殖期は初夏で、特に垂直護岸の岸際を特に活発に泳ぎ回る。産卵は貝殻の中で行われ雄が卵を守る。
肉食性でヨコエビの仲間やゴカイの仲間などを食べている。
【捕る】
コンクリート壁に張り付いたカキ殻に身を隠しているので丹念に探す。
取り上げたカキ殻の中からひょっこり顔を出すこともある。イダテギンポも同所で捕れることが多い。
【その他情報】
外洋に面した場所にはいないそうで、大阪湾などの内湾の奥部に生息するそうだ。かわいらしい顔をしているが、いわゆる犬歯(牙)がかなり発達しているの
で、かまれると確実に出血する。
【コメント】
「とさか」と言えばニワトリの頭上にある赤い突起。赤くはないがそんな「とさか」をもつ魚がいる。
「とさか」があるから正面から見るとショウリョウバッタみたいだし、横から見るとまるでウルトラマン、
口角が上がっているのでどこか笑っているようにも見える。そんな表情をもつ顔に、ヒラヒラがついた細長ペラペラのボディが合体している。
ギンポ類は海の魚との印象が強いが、汽水域にも生息している種類があり、本種はその中のひとつ。
はじめて出会ったところは大きく潮が引いた小河川の河口域で、コンクリートの護岸壁にはカキ殻がびっしり付着していた。
すくい上げたタモ網の中にクネッと横たわる本種を見て、「汽水でまた変なのが捕れた」と思ったが、ギンポの仲間だろうとすぐに想像はついた。
ただこのときは、トサカのない個体も数匹捕れて、それらが別種なのか、雄雌なのか、親子なのかよくわからなかったが、
帰宅後、前者が本種で後者がイダテンギンポという別種であることを知った。
イダテンギンポと比べるとタモ網に入る頻度は少ないね。
そのせいか、イダテンギンポが捕れるたびに、「次は」、「次は」、と本種を探す自分がどこかにいる。
夏に捕ったトップ写真と同じ個体。
全長8cmくらい。干潮時にカキ殻の間に隠れているところを捕った。
胸びれのあたりを境に前方部と後方部で大きく違う。神様が別々の魚の前方部と後方部を、間違えてくっつけたようだ。
夏に捕まえた全長4cm程度の個体。
カキ殻の塊をタモ網の中で揺すると出てきた。イダテンギンポの方が多かったが、本種は全体的に黒っぽく、特徴的なトサカがあるのですぐに別モノとわかる。
春に捕まえた個体。
全長4cmに満たない程度かな。タモ網に入ったカキ殻の間から、シマシマ模様の小さな顔がちょこっと見える感じがまたかわいいんだ。
春に潮が大きく引いた汽水域、
石組みについているカキ殻を崩して捕まえた。カキ殻は鋭いナイフのようなので、タモ網から出すときに気をつけないと流血の惨事になる。
気をつけてカキ殻をどんどんどけたとき、ひょっこり姿を見せてくれると、うれしいものだ。
干潟で捕まえた全長5cmほどの個体。
体をピーンとまっすぐに伸ばしてくれた。
真上から見ると
体の薄っぺらさがよくわかる。透明な観察ケースに入れるとクネクネして落ち着かない様子だった。
正面から。
細長い三角形で、ショウリョウバッタみたいな顔をしている。
特徴はなんといってもこのトサカ。
他にはない特徴だ。恐竜に見えるとか、ウルトラマンに見えるとか、笑っているようにも見える愛らしい顔についつい頬が緩む。
created:2015/8/16