ヤリタナゴ Tanakia lanceolata
コイ科タナゴ亜科アブラボテ属

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ヤリタナゴ

【生息場所】 河川の中下流域、支流、用水路などに生息し、流水を好む。他のタナゴ同様に生息域は年々減少している。
【外観・生活】 全長は大きい個体で12cm程度。タナゴの仲間ではカネヒラの次に大きくなる。 他のタナゴ類と比べて、長い口ひげがあること、背びれの基長が短くて条間膜には紡錘形の濃色斑紋が1個ずつあること、 体に目立った筋状の模様や点模様がないことが特徴。通常は褐色をベースにした銀白色をしているが、 春の産卵期を迎えると雄の体は前半部が赤っぽくなり、体全体が緑青色と薄い赤紫色を基調とした婚姻色を帯びる。 背びれ前縁、尻びれの先端の朱色が色鮮やかに濃くなり、腹部は黒く染まる。吻の先には白くブツブツした追い星が現れる。 その頃は川岸からでも濃い朱色のひれをなびかせた雄が用水路の中をウロウロする姿を見ることができ、のどかな春を感じる瞬間だ。 マツカサガイなどの二枚貝に産卵する。1年で2~4cm、2年で6~8cmになり多くは1年で成熟するそうだ。 雑食性で、付着藻類や底生動物を食べている。
【捕る】 タモ網や釣りで捕る。流れのある川の障害物や水草の周辺、岸辺近くの下草の陰などにいる。 桜の咲く頃からゴールデンウィーク過ぎにかけての春のタナゴ釣りは趣がある。
【飼う】 飼育は容易で、タナゴ類の仲間では丈夫で痩せにくく病気も少なく長生きする。長いと5年ほど生きたことがある。 産卵期に他の魚を追いかけることはタナゴ類に共通するが、性格は比較的大人しく、他種との混泳も十分可能だ。 10cmを越えてかなり大きくなる。
【その他情報】 本種はタナゴ類の中でもっと分布域が広くほぼ日本全国に生息する。地域によって婚姻色に差があるという。 京都、大阪、兵庫に生息している個体群は基本的に大きく変わらないように思うが、同時期、同場所であっても成長段階や個体による微妙な差は見られる。
【コメント】 春の用水路と言えば本種だ。先端を朱色に染めたひれをチラチラさせながら素早く泳いでいる本種を思い浮かべるだけで、 桜の花びらが川面を流れる春の景色が頭をよぎる。 近年、本種がたくさん確認できた地域で圃場整備が大規模に進み、かなりの水路が直線化され、三面コンクリートで固められてしまった。 圃場整備された場所では、本種はもちろん他の魚がアッという間に見られなくなってしまっている。 水路に土が溜まり草が生え出すとまた戻ってくるかも知れないが、果たしてその水路はそうなってくれるだろうかと心配している。 幸いにも近くには比較的大きな農業水路がつながっていて、そこではまだたくさんの本種に出会うことができる。 その農業水路も何年かに一度、川岸の整備と川の底ざらえが行われる。 その直後は生き物がいない、まるで砂漠のようになってしまうのだが、半年も経てば草も生え流れにも変化ができ、すっかり元通りの元気な川になる。 手はかかるが土による護岸、土(礫や砂)による川底がいかに生物にとって住みやすい環境を生むのか良くわかる。 今年もきっと、春の桜の用水路で元気に泳ぐ姿を見せてくれることだと思う。

繁殖期である春に捕った雄。 トップ写真と同個体。婚姻色もピークになると背びれや尻びれの赤みは絵の具でべた塗りしたように朱色に染まる。

春に釣った雄。全長8.5cmくらい。 薄紫色に輝く体色がきれいだった。

春の雄。 卵をもつ雌とともに鮮やかな体色をした個体がたくさん捕れた。なんとも美しい・・・。

春の雄。 婚姻色は今一歩だがえらぶた周辺の赤紫や体の青緑が鮮やかできれいだ。

春、タモ網に入った雄。 光の加減や見る角度により色合いが異なり、写真では色がうまく出ていないが、実際はもっと紫色が濃かった。 この個体はでかくて、測定すると13cm近くあった。大きくよく肥えていたことから、捕れたときはフナかと思った。

春に釣った雄。 水面から上がってきたとたん思わず「なんやこれ・・・」と口に出るほど、かなりどぎつく黒かった。この写真よりもっともっと黒かった。

やや小型の雄。 婚姻色はまだこれからといったところかだが、色鮮やかな本種が水面から上がる度にその体色に目が奪われる。

体は緑、頭部は紫、ひれは朱色。 典型的な婚姻色だね、とても美しいです、はい。

胸の朱色が目立つ個体。 全長は8cmを超える程度。ここで捕まえたいずれの雄も目を瞠る美しい婚姻色を出していたが、同所・同時であっても婚姻色は個体によって微妙に異なる。

コンクリ水路で捕まえた雌。 流れの合流地点で水が大きく淀み、水草が豊富なところででタモ網に入った。全長は9cmほどで、単色シルバーの体がきれい。 腹びれの後ろに見える産卵管は短いタイミングだね。砂泥が溜まった場所にはマツカサガイが多く見られた。

春にタモで捕まえた全長約6cmの個体。 光の加減で薄紫色に見える。

春の農業用水路で捕まえた 全長9cm程度の雄。 朱色の婚姻色に金属光沢に輝くボディだ。

タモ網に入った全長6.5cmほどの雄。 春の水路ではこれ位のサイズの個体がタモ網によく入る。小魚という表現にぴったり。

上とは別場所の雄。 上の個体より一回り大きいかな。体は青く、ひれが鮮やかな朱色で美しい。上とほぼ同じ時期だが、光の具合で体の色が異なって見える。

昼間でも 暗い陰になる石組の近くなどだと、この写真のように体色が黒い個体がたまに釣れる。 この個体の尾びれを見ると、中央部先端が三日月状に朱色に染まっている。尾びれ下の端も少し朱色っぽい。 個体によってはこんなところも染まるんだね。全長8cm程度の雄だ。

上と同じところで釣れた 体高のある立派な雄。 吻端には白いブツブツの追星。

春の雌。 お腹が大きく白黄色い産卵管が伸びている。本種の特徴のひとつである背びれ条間膜にある紡錘形の濃色斑紋がはっきり出ている。

春に釣り上げた個体。 光の加減では、こんな美しいスカイブルーの体色に見える。

春の農業用水路をタモ網でひとすくい。 小型の個体がまとめて入った。

体長約5cmほどの若魚の雄であるが、 取り上げた時の網の黒色と目が覚めるような鮮やかな婚姻色とのコントラストが美しかった。

春の終わりに捕まえた。 全長8cmほどの雄で、川岸の浅くえぐれたところでタモ網に入った。 水から引き上げて見たときの体色は薄い青色や朱色で変わらず美しかったが、繁殖期もぼちぼち終わりなのだろう、婚姻色は薄れてきたようだ。 全体的に白っぽい印象を受けた。

上と同じ個体を手のひらに乗せてみた。 薄く水を張るとひれをきれいに広げてくれる。 5月も中頃になり、婚姻色のピーク時は明らかに過ぎているが、体は青メタリックに輝き、尻びれの朱色はきれいだね。

上と同時にタモに入った雌。 産卵管が伸びているので、二枚貝への産卵はまだ続いているようだ。 この写真では少しわかりにくいが、背びれの上前縁を朱色に薄く染めていた。

夏、とある水路で捕まえた個体。 体高があり体は寸詰まりで眼が大きい。手にした瞬間、困惑して「このタナゴはどの種類?」だった。 ヤリタナゴなんだけどすごい違和感。このエリアで捕れるのはこんな体形の個体が多くて、地域変異なのかそれとも別要因なのか・・・。

上と同所で捕れた雌。 全長は6cmを超えるぐらい。この個体は普通の体形をしているように思うが・・・。

盛夏に捕った雄。 通常、尻びれの端はわずかに黒で縁取られる程度であるが、この個体は比較的太く縁取られている。 口ひげも長いように感じる。これも個体差のようだ。

薄黄色い産卵管が見える。 尻びれ先端が細くライン状に朱色で縁取られ、背びれ前縁もほんのり朱色を帯びている。捕ったときは雄かと思った。 こんな風にひれを染めている雌は珍しい?

タモに入った全長5cmほどの個体。 いわゆる「銀鱗ヤリタナゴ」と呼ばれるもので、鱗が乱反射する。 このエリアは銀鱗以外の個体を探すのが難しいぐらい、どの個体も銀鱗だ。

夏の終わりに捕まえた「銀鱗」。 全長約6cm。この地域で捕れる個体は体高がやや高い傾向にある。地域差なのか個体差なのか・・・?。

秋に捕まえた「銀鱗」。 逆に鱗が乱れない普通のヤリタナゴはここにはいない・・・。

秋の雄。 婚姻色はすっかり薄れて、背びれや尻びれにわずかに色が残る程度。

秋の雌。 背びれに本種の特徴である暗色斑紋模様があるくらいで、体は一様に銀色だ。

秋に捕った雄。 美しいシルバーの体は結構好きなんだけど、この時期、婚姻色がすこぶる美しいカネヒラ君と一緒に捕れると地味さが目立つ。春になると逆になるんだけどね。

秋の終わりに捕った個体。 全長は6cmを超える程度。銀色にキラキラした感じはやっぱりヤリタナゴだな。

冬に捕った雄。 流れのある用水路の深みにオイカワ達と群れていた。尻びれ、背びれはうすく赤く、繁殖期はもうちょっと先だ。

冬に捕った全長10cm程度の雄。 オイカワやニゴイ達とともに、用水路のマスに集まっていた。冬はあっさりとタモ網ですくえる。

冬の別個体。 全長は8cm程度でかなり褐色が強かった個体。冷たい水の中で春の訪れを待っている。

冬に捕った小ぶりの雌。 背びれや尻びれに雄のような朱色はない。周囲の環境によっては、この写真のように体が黒っぽい場合もある。 光の加減かも知れないが、この個体はツートンカラーだ。

冬の終わりに捕った全長6.5cmの雄。 前日の雨で川の水量が多かったせいだろう、少し流れが淀んでいるところにいた。もうすぐ春、少しずつ色づき始める。

早春に捕った個体。 ひれが色づき始めている。えらぶた後ろに斑模様があることがわかる。

いわゆる「銀鱗」と呼ばれる個体。 そこで捕れた全ての個体が多かれ少なかれこのように乱反射する鱗をもっている。 鱗は黒点病と呼ばれる高橋吸虫のメタセルカリアによって組織が破壊されたことが原因とされ、系統的なものではない。

晩秋に捕った「銀鱗」の雌。

夏に捕った個体。 全長は4cmに満たない程度。タナゴ類の体形をしていて特に目立った色や模様がない、この特徴のなさが幼魚時代の特徴。

初秋に捕った4cm程度の個体。 一様に銀白色!これはこれで妙に美しい。背鰭分枝軟条数(8本)や形状などからも本種とわかる。

真冬に捕った個体。 引き続きカネヒラやタビラとの区別が難しい時期。背鰭分枝軟条数以外に、口の形状、口ひげの長さ、肩部の暗色斑が無いことなどから本種と同定できる。

冬に捕った個体。全長は4.5cm程度。 体はどこかパンパンではちきれそうに見えるが、銀色に輝くきれいな鱗模様だ。

冬の終わりに捕まえた。 全長約4cm。流れが淀む草の陰で何匹かまとまってタモ網に入った。太陽光の加減で、うろこの一部が青色に光っている。

上と同一個体。 そうそう、この色!青紫に金属のように輝くこの色が本種の色だ。同時に捕れるこれくらいのサイズの小さな魚から見分けることができる。

体は平べったく、上から見ると細長い。

春に釣った雄を正面から。 婚姻色が良く出ていた。追星(白くて硬い粒々突起)はこんな感じ。吻に加え、眼の上前にもある。

秋に釣った雄を正面から。 上の春の個体と比べると、成熟しきってないというか、幼い感じがする。 口ひげは欠損している場合があって、この個体は口ひげの左右の長さが異なっていた。

冬の雄。 背びれや尻びれが朱色に染まっている。鼻先にあるブツブツは追星の跡だ。体を斜め横に向けてこちらをうかがう姿がかわいらしい。

春の河川で釣った個体。 バッカンに入れている間に随分退色してしまったが、雄のギラギラした感じがわかる。

稲刈りを終えた晩秋の用水路で。 体色は一様に褐色で地味。いるところにはまだたくさんいる。

早春に発見した雌の死骸。 何かにガブリとやられたような跡があり、卵と思われるものが確認できる。これも自然の摂理だよねって納得のいく、「在来」肉食魚の仕業であることを願う。

last modified:2023/2/26
created:2012/1/7

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