いろんな水辺の環境

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水辺の環境には、河川、水路、ため池、水田などがあります。 それらは水深や水質、水の動きなどに少しずつ違いがあり、それぞれの環境に応じた生き物が生息しています。 川は場所によって大きく環境が異なるため、多くの魚種が生息しています。 また農耕のためにつくられた水田やため池は生き物の住みかとしても重要で、水辺環境の多様性は農耕によって保たれてきた側面もあると思います。 ここでは代表的な水辺環境の例と、そこで見られる代表的な魚などの生き物を紹介します。

河川・上流域

上流域 山々の湧き水を水源として細流が生まれ、それらが集まって川は太くなり山間を縫うように流れていきます。 周りは樹木で囲まれ夏でも薄暗く、冷たい湧き水が流れています。勾配が大きいため流れは速く、底は小石や礫底で大きな石や岩が転がっています。 波を立て浅く流れの速い「瀬」と深く流れの緩やかな「淵」が連続した環境が続きます。 あちこちで水が湧き出しており、水は澄んでいて水温は低く、酸素も豊富に溶け込んでいます。水草はあまり見られません。
このような環境には、タカハヤ、カワムツ、カワヨシノボリ、オオシマドジョウ、カジカ、アカザなどが見られます。 ゴロゴロした石には川虫がたくさん付いていて、石の隙間にはサワガニが、落ち葉の上にはヤマトヌマエビも見られます。 初夏にはカジカガエルが美しい声で迎えてくれます。川に張り出した枝には青緑色の羽をまとったカワセミがとまっていて、小魚を狙っていることも多いです。

河川・中流域

中流域 山岳地帯を抜けた川は、広く開けたところを流れるようになり、流れもゆるやかになります。 蛇行しながら瀬や淵が連続しますが、上流域と比べるとその間隔は大きくなります。川床は礫または砂礫が中心で、水草も見られるようになります。 日照により水温は上昇し、魚のエサとなる水生昆虫や藻類も豊富です。より多様な環境が存在するため、生息する魚種も多くなります。
オイカワ、カワムツ、カマツカ、カワヒガイ、ムギツク、タナゴの仲間、イトモロコ、ギギ、ドンコ、チュウガタスジシマドジョウなどが見られます。 ザリガニやヌマエビなどの甲殻類、ヤゴやミズカマキリなどの水生昆虫も多くイシガメなどもいます。 アオサギやダイサギが浅瀬に立って小魚を狙っている姿をよく見かけます。

河川・下流域

下流域 海に近づくにつれて勾配はほとんどなくなり、水がゆったりと流れるようになります。 川は広く深くなり、川底は一般的には砂と泥で構成されるようになり、濁りを伴うことが多いです。 さらに海に近づくと海水の影響を受ける汽水域になり、海の干満により絶えず塩濃度が変化する環境になります。 魚の種類は多いですが、止水に適した体形のものが主になります。
条件により生息している種が変わりますが、オイカワ、フナ、コイ、コウライモロコ、ナマズ、ウナギなどが下流域の代表的な魚です。 テナガエビやモクズガニなどの甲殻類も多く、冬には渡り鳥の越冬場所となっています。

河口域、干潟

干潟 川の水と海の水が混じり合う汽水域です。干潟は陸から海に向かって非常になだらかな傾斜が続き、周期的に現れたり消えたりします。 また海の干満に合わせて塩濃度がめまぐるしく変化します。底質は砂泥や石で、干潟特有の特殊な環境に適した生き物がたくさん生息しています。
代表的な魚はスズキやボラ、クサフグやハゼの仲間などです。 干潟で大人しくして観察していると、ハクセンシオマネキやアシハラガニ、ヤマトオサガニなどのたくさんのカニの仲間が穴から出てきます。 また、それらをついばむシギなどの鳥類も多く見られます。 砂泥底にはシジミやアサリなどの貝類、釣りのエサとしてよく用いるゴカイなどが多く生息しています。

細流

細流 山間部に行くと、写真のような細流がよく見られます。 細流では川底や水際部などの至る所から湧き水が流れ込んでおり、流れるにつれて徐々に流量が増えていきます。 角張った石の間を澄んだ冷たい水が流れ、石の表面にはコケが生えているところもあります。水がたまった所には、落ち葉や小枝が積もっています。 このような水辺では、魚はほとんど見られませんが、サワガニがたくさんいます。 石をめくり上げ、巻き上げられた薄泥が流れていくと、大小様々なサワガニが慌てて横走りします。 水しぶきがかかる石の上をゆっくりと歩いている個体を見ることもできます。近くには田んぼがあり、農家の方が石組みをして、水を引き入れていました。 その近くではとても大きなドジョウが確認できました。

水路(幹線水路)

幹線水路 水田地帯では網の目のように水路が走っています。幹線水路は、水路の分岐の元となったり、合流したりしてできる比較的大きな農業用水路を指します。 河川本流の環境と水路の環境との中間的な環境をもっているようです。米づくりに併せて水位は変動しますが、冬になっても水は枯れることはありません。 ある程度の川幅と水量があるので定着している魚種も多く、 河川本流を住みかとし、田んぼを産卵場や稚魚育成の場とする魚たちにとっては重要な通過点でもあります。
魚類では、フナ、コイ、タモロコ、ナマズ、モツゴ、メダカ、タナゴの仲間、ドジョウなどが見られます。 スッポンやクサガメ、ザリガニやスジエビなどの他、ミズカマキリ、タイコウチ、コオイムシなどの水生昆虫もたくさんいます。 春に入り、土起こしがされると、周囲の田んぼにはにぎやかに飛び回るケリやヒバリの鳴き声が聞こえます。

水路(コンクリート)

コンクリート水路 水路側面あるいは底が固められた水路です。 農業の近代化と効率化を目的とした圃場整備にあわせて実施され、両岸と底がコンクリートで固められた三面コンクリート水路が多いです。 このような水路は、導水や排水の能力が高くまた維持メンテナンスも必要ない一方で、生き物にとっては大変すみにくい環境です。 流れは直線的で速く、砂や泥はほとんどたまらないので水草はあまり見られません。 流量を確保するため深く掘り下げられ田んぼとの間に大きな段差が設けられるため、生き物は容易に移動することができません。 生き物が全くいない訳ではありませんが、種類や数は少なく、またいる場所は限られます。
時間の経過と共に少しづつ底に砂や土がたまるようになると、生き物たちも少しずつ見られるようになります。 川底に薄く砂泥が溜まっている写真の水路では、コイ、フナ、タモロコ、メダカ、ザリガニが確認できました。

水路(素掘り)

素堀り水路 田んぼにつながる細い水路で、農家の方が掘って維持されている水路です。 底も岸も土質なので、周囲に草が生え、流れに自然と変化が生じ、多様な環境が生まれます。 田んぼとは段差なく繋がっているので、水の中の生き物たちは自由に水路と田んぼの間を移動することができます。
細くて浅いため、体の大きな魚は常時いることができませんが、小魚の個体数は多いです。 メダカ、フナ、ドジョウが代表種であり、モロコの仲間やタナゴの仲間も多く見られます。田植えの頃になると、夜にナマズが遡上してきます。 タニシがゆっくりと水底を這い回り、タナゴの産卵母貝となる二枚貝も生息しています。国外移入種のザリガニやタウナギも見られます。
最近は宅地化や圃場整備のためこのような素堀りの水路が年々少なくなり、どんどんコンクリート化されています。 写真の水路は奈良盆地のもので、魚捕りが大変楽しい場所でしたが、残念ながら現在は三面コンクリート水路となってしまいました・・・。

都市の親水河川

都市を流れる親水河川 川の水辺を憩いの場として改修されたもので、都市部を流れる河川に見られます。 川岸はコンクリートや平らな石で固められ、川に容易に降りられるように所々に階段がつくられています。 生物への配慮という点では様々な種類のものがありますが、一般に多くの種類の生き物が生息している河川は少ないようです。 それは親水河川であるが故に、人が近づきやすい川岸にすることや、深みや急流などの危険をできるだけ排除した川づくりがされており、 環境の多様性が十分でないからだと考えられます。
写真は兵庫県南東部の河川です。川沿いに散歩やジョギングをしている周辺住民の方も多く、 夏場には網を持って生き物とりに夢中になっている子供や、釣りをしている親子などを見かけます。 砂底メインで所々に草地や石などが設けられ、生物の生息環境に配慮した河川となっているようです。 流れが比較的早く、アユ、カワヨシノボリ、オイカワ、カワムツなど流水を好む魚を確認することができました。

農業用ため池

農業用ため池 農地の水を得るために人工的につくられたもので、兵庫県を筆頭に近畿地区にも数多くあります。 場所や周囲の環境、大きさ、深さ、水質、作られてからの年月にそれぞれ違いがあります。 これらの様々な環境のため池が水路や河川と繋がることで、水域全体の多様性が高まっています。 人の手が加わっているため、定期的に草が刈り取られたり、冬場には池干し(かいぼり)が行われたりします。 周囲に農地があり現在も使われているため池では、良好な環境が保たれていますが、 周囲が住宅地になってしまった(過去の)ため池は、ただ水を溜めているだけの大きな水溜まりとなっていて、 水質も悪く生き物にとっても良い環境とは言えません。
コイ、フナ、モツゴ、メダカ、タナゴの仲間など身近で親しみのある小魚たちが見られます。 止水域を好む外来種のブルーギルやオオクチバス(ブラックバス)、カムルチーが生息していることも多いです。 底泥の中には大きなドブガイがたくさん見られます。

山上池

山上池 山の谷間にある小さな池です。比較的浅く岸辺がなだらかな傾斜をもつ池には、水生植物が多く生えていることがあります。 水生植物の仲間には、体全体が水没する沈水植物、葉だけが水面に浮かんでいる浮葉植物、水際に生え、 体が水面から出てきて成長する抽水植物がありますが、これらをエサ場や隠れ家などの拠り所として動物が集まり、豊かな生態系が形成されます。
ギンヤンマやチョウトンボ、アカネなどのトンボの仲間、ガムシやゲンゴロウの仲間などの生活場所として適しています。 イモリやカエルの仲間も多く、早春には付近の林からサンショウウオの仲間が産卵に訪れることもあります。

田んぼ(水田)

田んぼ(水田) 田んぼは人が作り出した環境ですが、一部の水辺の生き物にとっては重要な環境になっています。 水が入ると日当たりがよいため水温が高くなり、ミジンコなどの小動物がいっせいに湧き出します。 浅く一時的な水域なので、大型の肉食魚類は進入することができません。このような環境は小魚や孵化したばかりの稚魚にとって好適な環境です。 メダカ、フナ、ナマズ、ドジョウなどは積極的に水田に入り込みそこで産卵をします。 そこで孵化した稚魚は、ミジンコなどの豊富なエサに囲まれてどんどん育っていき、やがて水路へと移動していきます。 土用干しがされると本能なのか、ほとんどの魚たちは水路へと出ていきますが、 中には田んぼや水路のわずかな水溜まりに大量に取り残されていることもあります。 しかし、最近の田んぼは水路との間に段差が設けられ、水辺のネットワークの連続性が失われているところが多く、 田んぼと水路を自由に行き来できる環境が残されている水辺はどんどん少なくなっています。

自然の湿地

湿地地 面から水が湧きだしじゅくじゅくになっている土地を指します。水が土の栄養分を流してしまうため、貧栄養で酸性になっていることが多いようです。 大変厳しい環境で、限られた種類の植物や昆虫しか見ることができません。
トウカイモウセンゴケなどはこのような環境でしか見ることができません。また日本一小さなトンボであるハッチョウトンボもこのような環境を好みます。 これらの種は競争力が弱いため、他の生き物が好まないこのようなニッチな環境に適応しています。 写真の場所は背後の山からの湧き水が年中浸み出しており、早春の水溜まりにはカスミサンショウウオの卵塊も見られました。

半人工的な湿地(放棄田、休耕田)

休耕田 最近放棄田や休耕田が増えてきています。もともとは水田でしたが耕作が放棄されており、富栄養な土に雨水や湧き水がたまっている環境です。 半人工的な環境ですが、このような環境にも生き物がたくさんいます。 アマガエル、ツチガエル、トノサマガエルなどのカエル、ヤゴ、タイコウチ、コオイムシ、ハイイロゲンゴロウ、ガムシの仲間などの水生昆虫が豊富です。 水中にはミジンコが泳ぎ回っていて、ドジョウやメダカなどの小魚やザリガニもいます。 長いクチバシを水面に向けているサギが歩いており、あぜにはカエルを狙うシマヘビが隠れています。 水田は冬季になると乾田化されることが多く、生き物はあまり見られなくなりますが、 このような湿地には年中浅い水溜まりがあり、初春に繁殖活動をするカエルの貴重な産卵場所となります。

ワンド

城北ワンド群 ワンドとは本流に沿って岸近くにできた入り江や池状の地形を指し、淀川には城北地区をはじめ現在50個程度が残されています。 ワンドは船の安全な航行のために明治から昭和にかけて作られた「水制工」に土砂が堆積してできたものです。 本流とつながるとともに、大きさや深さや形がバリエーションに富み、砂底、泥底、石積み、水草などの多種多様な環境があるため、 魚や貝の種類が多く、また産卵や稚魚のゆりかごとして機能してきました。
しかし、淀川では河川改修のため多くのワンドは埋め立てられ、従来の1/10以下の個数になってしまいました。 また、淀川大堰の稼働により以前の様に冠水が起こらなくなり、ワンドはまるで独立した沼か池のようになってしまいました。 淡水魚の生息種の多さを誇る淀川ですが、現在のワンドの魚類相は、外来種であるブルーギルやブラックバスが9割以上を占め、 水面をボタンウキクサ(ホテイアオイ)やウォーターレタスが覆い尽くすといった、最悪の状況になっています。 写真は天然記念物イタセンパラが生息していた城北ワンド群です。 手前がワンドで、向こう側に淀川の本流が見えます。もう昔のような環境は戻ってこないのでしょうか・・・

タマリ

タマリ 河川の本流の近くにできる水溜まりをいいます。本来のワンドが河川本流とつながり水の入れ替えが頻繁に起こることに対し、 タマリは大雨が降り河川がかなり増水したときに本流と繋がる程度で、水の入れ替えが少ない閉鎖的な氾濫原環境です。 本来淀川には氾濫原環境として様々なタマリがあり、 そこにはニッチな環境に適応して進化したイタセンパラ(天然記念物)やスジシマドジョウ種群などがたくさん生息していたようです。 現在、これらの種が淀川でほとんど見られなくなっていることは、淀川の環境が大きく変化してしまったことの証でしょう。 タマリのような氾濫原は多様な生息環境のひとつであり、現在も水生生物をはじめ様々な生き物にとって重要です。 特に初夏から夏にかけては、取り残された稚魚がたくさん観察できます。 冬の減水期には干上がってしまうものもあり、取り残された魚たちは水鳥のエサになってしまうようです(写真も中央にサギがいます)。

湖(琵琶湖)

琵琶湖 湖沼のうち大きなものを湖といい、近畿には日本最大の湖である琵琶湖があります。 琵琶湖から流れ出る河川は瀬田川のみで、宇治川と名を変え淀川に流れ込みます。 琵琶湖は500万年程度前にできた古代湖で、世界で三番目に古いとされており、独自に進化した数多くの固有種を有しています。 魚類ではビワコオオナマズ、ワタカ、ホンモロコ、イサザ、ビワマスなど10種類の固有種がいます。
琵琶湖は、ヨシ原、砂浜や岩礁などの変化に富む海岸、広い沖合、通年低温の水を維持できる深水域など多様な環境をもちます。 その結果、約50種もの淡水魚が生息していますが、 ブルーギルやオオクチバスなどの外来種の侵入、内湖の埋め立てなどは、生態系に大きな影響を与えました。 現在は、外来魚駆除、水田とのネットワークづくり、水位操作など、 以前の琵琶湖に戻す様々な取り組みが行われていますが成果は出るでしょうか。豊かな湖であって欲しいものです。

<参考・引用ソース>
●村本他、川のなんでも小事典、講談社、1998年
●大阪の自然ガイドブック、大阪みどりのトラスト協会、2001年
●桜井、淡水魚ガイドブック、永岡書店、2005年
●西野、とりもどせ!琵琶湖・淀川の原風景、サンライズ出版、2009年
大阪府立環境農林水産総合研究所・水生生物センター

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