水辺の様子
生き物にはぞれぞれに好む場所があり、そこにはその時々の生活に必要な要件が満たされています。
しかし、いつも同じ場所にいる訳ではありません。
例えばオイカワは、昼間は浅瀬で活発に泳ぎながらエサを補食していますが、夜になると深みに移動したり石の陰に隠れたりしています。
フナは稚魚の間、水田やその近くの浅い用水路で成長し、大きくなると深み移動して生活するようになります。
このように水辺の生き物たちは一日あるいは一年、生涯の間に異なった水辺の環境を上手に使い分けながら生活しています。
水辺には異なった環境が必要であり、また、生き物のライフサイクルを通して移動できる程度に連続してあり続けることが重要です。
ここでは代表的な水辺の様子を紹介します。
川の構造:瀬と淵
【瀬】
川は一般に瀬と縁が連続します。浅く開けたところでは、水が速く波打ちながら流れます。
このようなところは太陽の光が川底にまで届き、底石にコケなどが生え、カゲロウの幼虫などが生息しています。
アユは泳ぎながら石に付いたコケを削り取り、オイカワは流れてくる水生昆虫などを待ちかまえます。遊泳力の強い魚たちが好む場所です。
近年のコンクリート化された河川は、広く浅く早く流れることからこのような平瀬と同じような環境であり、オイカワが増えていると聞きます。
【淵】
淵は水深があり、水が淀んでいるところです。大型の魚や泳ぎがあまり得意でない魚たちが集まります。
上流から流れてきた枯れ葉や流木などが溜まっている場合や大きな石や水草がある場合もあり、水はゆったりと流れています。
冬場は越冬の場となり、夏は瀬を泳ぎ回っている魚も淵を好む魚に混じって水底で春が来るのをじーっと待っています。
川の底質
【礫底】
礫底は河川の中流上部域に多く、大小の小石からなります。場所によっては、砂と混じっている砂礫底になっているところもあります。
水草はあまり見られません。隙間が大きいので水の通りが良く、シマドジョウやカワヨシノボリなどが見られます。
開けた場所ではオイカワやカワムツ、マス類の産卵の場となります。
【砂底】
砂底は河川中流、下流域の流れがやや緩やかな場所に形成されます。水草が根を張っていることも多いです。
スジシマドジョウやカマツカが砂ごと口に入れてエサをとっており、川岸の草の陰にはドンコがひそんでいます。
イトモロコやズナガニゴイなど、砂底を好む雑魚たちも多くいます。二枚貝では流水を好むマツカサガイやカタハガイ、イシガイが見られます。
写真は底質がよく見える浅瀬を撮影したものです。水の中をザバザバ歩くと、カマツカやカワヨシノボリの子供たちが驚いて逃げていく様子が見られました。
【砂泥底】
河川の中下流域に多く見られます。砂と泥が混じったもので、底をかき混ぜると泥が舞い上がります。
小さな口でデトリタスを採餌するゼゼラや、泥質を好むドジョウが見られます。フナやコイも濁りのある砂泥か泥底を好むようです。
二枚貝ではイシガイが見られ、止水域で泥質になるとドブガイが見られるようになります。
魚が身を寄せる環境
【水草】
水の通りがよい水草の縁や中は、泳いでいる魚がすぐに身を隠せる場所です。
川に入りザブザブと歩いたり、水面をのぞいたりすると、人影に驚いた魚たちが右往左往しながらもこのような水草の脇にスーッと隠れる様子が見られます。
タモロコ、オイカワ、カワムツ、カネヒラなどの流れを好む魚たちが代表的です。
【草陰】
川や池の岸から草や小木が覆い被さるように張り出しているところや、岸辺の木が垂れ下がっていて水面に沈んでいるようなところは、
天敵の鳥などから身を隠すことができるので、多くの魚たちが身を隠す場所となります。
また、草の茎や葉、小枝が複雑なジャングルを形成し、小魚が大型の肉食魚からの攻撃から身を守る場所となります。
岸の近くで水流も緩やかになるため、流れをあまり好まない魚種も多く見られます。
水に浸かった草や木には、ヌマエビやミズカマキリ、タイコウチなどの生息場所にもなっています。
【浮き草】
水底から生える茎や水中に広がった根によって、浮き草がある水中はさながらジャングルです。
適度な浮き草は鳥などの天敵から身を隠し、また産卵床としても使われ、多様な環境を構成します。
一方、右の写真は淀川ワンドのものですが、毎年外来種のホテイアオイやアゾラが水面を覆い尽くすくらいに異常繁殖してしまいます。
その結果、水中の酸欠やヘドロ堆積などを引き起こし、在来の水生生物の生息環境に大きな影響を与えています。
【アシ帯】
岸近くの水辺に生えたアシなどの植物帯はさながら外敵を寄せ付けない要塞です。
浅くて間隔が狭く茎がゴツゴツしています。メダカ、フナ、タナゴなどの稚魚や幼魚が成長する格好の場所です。
このような場所に逃げ込まれてしまうと、固いアシの茎が邪魔になって進入することもタモ網を入れることもできません。
【捨て石】
河川やワンド、琵琶湖の沿岸など、いろんなところで見られます。捨て石の周りにも魚がよく集まります。
水深がなく光が良く届くところは石の表面に藻類が発生し、カネヒラなどの小魚がヒラを打ちながらそれを突っつく様子が見られます。
石同士が重なり合ってできる隙間は、魚たちが身を隠すのに好適な場所です。
石と石の間に水草が茂っていることも多く、より複雑な生息環境を形成しています。
【石組み】
川岸の石組みの隙間は小魚たちの逃げ場所をつくると同時に、ウナギなどが日中身を隠す絶好の場所となります。
大きな石やテトラポッドの間には大きな隙間ができ、複雑な水の流れをつくり出します。
川の流れが直接当たる石の周囲は大きく浸食され、大小さまざまな魚たちが集まります。
河口付近のテトラポッドにはテナガエビが隠れていることが多いです。
隙間にタモ網を直接入れることは難しいので、釣り糸を垂れて魚やエビを狙います。
【倒木】
山池や湖、大きな河川などにある倒木もまた水中にジャングルを構成するアイテムのひとつであり、魚が寄りつく場所です。
オオクチバスなどはこのような場所に身を寄せていることも多く、ルアーを投げ込む格好のポイントでしょう。
幹や枝先にカワウなどの水鳥が集団で体を休めていたり、カメが甲羅干しをしていたりすることもあります。
【木杭など】
木の杭も同様に魚たちの寄り場となります。
杭の表面には藻類が生え、動物プランクトンが着床し食事の場を提供します。
小魚は杭の構造を使って外敵から身を隠したり、攻撃をかわしたりすることができますが、
肉食魚もこのような場所に小魚やエビなどの小動物が集まってくることを知っているので、スキあらばと狙っています。
【マス】
三面コンクリートの用水路であっても、水の連続性が保たれているところは様々な魚が侵入してきます。
一般にコンクリート水路は浅く直線的で流れが早いため、生き物は多くありませんが、マスという水路の曲がり角で深く掘られているようなところは、
土砂が溜まり水草が生えている場合もあり、侵入してきた魚が身を隠すために集まっていたり、住みついたりしていることがあります。
一様な環境であるコンクリート水路の中で、比較的環境が多様で安全な場所として魚たちが利用しているようです。
水の連続性
【縦方向:固定堰】
治水や利水などのため、河川には様々な段差が設けられていることが多いです。
固定堰は、コンクリートや石による構造で水を堰き止めるもので、
写真のように垂直に切り立った構造のものは、生き物の能力によっては完全に流れ方向への移動(遡上)が分断されてしまうものです。
堰の高さや流量によっては堰を乗り越える種もいますが、多くの魚たちにとっては大きな障害となることでしょう。
左写真の河川は小学生の背丈ぐらいの段差があり、手前に魚道が設けられています。
【縦方向:可動堰】
可動堰は、必要なときに堰として機能し水の流れを変えるものです。
環境用水を流すためや、田植えのタイミングに合わせて農業用水路に水を行き渡らせるためなどに使われます。
堰が稼働して水を堰き止めると、そ上流では水位が上昇し、本流にいた魚たちが用水路に侵入するなど横方向の拡散のきっかけとなりますが、
逆に川の流れ方向には大きな段差ができるため、そこで生き物の移動は分断されてしまいます。
アユが飛び越えようと必死にジャンプしている姿や、堰の奥には川を上ってきて行き場を失ったモクズガニが潜んでいることがあります。
【縦方向:魚道】
堰や段差により水の流れが大きく分断されると、魚は川の流れ方向に移動することができません。
河川途中、用水路と田んぼの間などには、魚道と呼ばれる仕組みが設けてあるところがあり、魚たちの通り道になっています。
様々なタイプのものがありますが、階段状になっていて、魚たちは一段ずつ上へ下へと移動することができます。
しかし、上流側に移動できるのは魚道を発見できた個体のみで、魚道の下にはナマズやコイ、アユなどたくさんの生き物が集まっています。
右の写真では堰下周辺にタモ網で簡単にすくえるくらいアユがいました。
【横方向:水路と田んぼ】
田んぼは稚魚のゆりかごとなり、小魚の貴重な成長の場となります。
フナ、タモロコ、ナマズ、ドジョウなどは繁殖期に積極的に水田に入り込み、産卵の場として利用します。
そのためには、これらの魚が自由に移動できるような田んぼと水路の連続性が重要です。
しかし近年の田んぼは水路との間に大きな段差が設けられ、水辺のネットワークの連続性が失われているところが多くなっています。
写真は奈良県内の異なる素堀の用水路です。
現在は三面コンクリート化されてしまいましたが、水田と水路の間の段差はないため、初夏には水田内に多くの幼魚が観察できます。