イサザ Gymnogobius
isaza
ハゼ科ウキゴリ属
【生息場所】
琵琶湖の北湖に生息している。繁殖期には湖岸、流入河川の河口付近に集まる。
【外観・生活】
琵琶湖固有種で全長5cm程度。大きい個体は8cm程度になる。
ウキゴリによく似ているが、小型で細長く透明感のある飴色の体色などから、かなり繊細な印象を受ける。
生活スタイルが独特で、産卵期以外の日中は30m以深の湖底に群れをなしていて、日没とともに表層に浮上してプランクトンを食し、
日の出時には再び湖底に戻るというもの。こんな著しい上下移動を毎日毎日繰り返している。
繁殖期は早春で、成熟した個体は産卵の準備のため3月に湖岸に集まり始め、
ヨシノボリ類が産卵に来る前の4月末から5月初旬の短期間に湖岸の石のある地帯で産卵する。
雄はひれを絶えず動かし新鮮な水を送って卵を守る。幼魚は7月頃まで浅場に群れをなし、徐々に深い方へ移動していく。
産卵前には特に雌の腹部が鮮やかな黄色に染まる。
【捕る】
産卵のために接岸する3月から5月初旬にかけて本種に出会うことができる。
琵琶湖湖岸の石がゴロゴロしているところ、かなり浅い水際近くでも捕ることができる。流入河川河口部の草の陰などでも捕ることができる。
【その他情報】
早朝に底引きで漁獲されイサザマメや佃煮などで食用にされる。
もともと漁獲量の変動が大きい種で、一説によるとアユの稚魚と本種が食べるプランクトンが一定で競合関係にあるため、
アユが豊漁の時は本種が少なく、アユが不漁の時は本種が多いそうだ。
温暖化は本種にも影響を及ぼす可能性があり、暖冬時には湖水循環と呼ばれる酸素が豊富な表層の水が冬季に琵琶湖の深みに沈み込む作用が鈍化し、
本種が酸欠により湖底で大量に死んでいることもあるようだ。
本種は早春にエリの中に入るため、琵琶湖産稚アユに混入、その放流に伴って各地に拡散しているはずであるが、
上記の独特の生活スタイルのためか定着しない(できない)。ちなみに、琵琶湖以外でイサザというとイサザアミやシロウオを指す。
【コメント】
ウキゴリの祖先が琵琶湖沖合の環境に適応進化し、ニッチなところにポジションを見出した種。
半透明でか弱い感じがするのに、自分の体長の1,000倍近くもの水深を毎日往復することや、
ヨシノボリ類などの他の捕食者が活動する前の寒い時期に集中して産卵・孵化することなど、興味がつきない。
繁殖期には大群で琵琶湖岸に押し寄せる。箱メガネで水底をのぞくと、石の隙間の良い巣穴には大きい雄がすでに陣取っていて、
近づく個体がいると、巣穴から頭だけを出して大きな口を開け、威嚇し追いやる姿が見られた。
追いやられた雄と思われる個体は全身を緊張させ各ひれをピーンと伸ばしていたが、すごすごと離れていった。
その時の雄の口は体の割にとても大きくて驚いたのだが、同時に効率よくプランクトンを食べるのに役立っているのだろう。
流入河川には入り込まないと思い込んでいたが、浅く流れる河川下流部でたくさん捕れたことがある。
そのときは河口から500m程度上流までいることが確認できたのだが、そのエリアは砂底で繁殖のための石が全くなく、
ハスが好んで産卵するような、かなり流れがあるところなので正直驚いた。
彼・彼女たちは産卵場所を探して石がゴロゴロするもっと上流まで遡上するのだろうか?
石がごろごろする琵琶湖岸で、3月中旬に捕った。
個体数はまだ多くないようだったが、それなりに捕ることができた。
石の下に陣取っていた。
繁殖を邪魔してしまったならごめんなさい。
この個体はきれいな体、明るい体色をしている。
どこか若さを感じる違う印象を受けた。
まだ個体数は少なかったが、
大きな石をゴロゴロすると、陰に隠れている個体がたまに姿を現してくれる。雌はお腹がまっ黄っ黄。
雄は頭部が大きく、さらに大きな口をもつ。
見るアングルによっては口のお化けみたい。個性満載だわ。
あと数日で桜が咲くという頃に捕まえた雌。
全長は5.5cm程度。湖岸で見られた個体はまだ少ないが、すでに腹部が黄色く染まっている個体が見られた。
上と同時に捕まえた雄。
箱メガネで湖底をのぞくと、たまに動く黒っぽい個体がいた。ヌマチチブだろうなと思いつつ構えたタモ網に追い込むと、この個体だった。
4月上旬に捕った個体。
多くの個体が見られるのは4月から5月上旬にかけてだ。体は全体的に透明感があり濃褐色に薄色斑模様がある。
ウキゴリによく似ているが、より小型で第一背びれの模様が違う。
雄と思われる個体。
こう見ると漫画で描いたように口もでかい。斜めに写っているせいもあるけど、頭が大きくて面白れ~。
桜咲く春の琵琶湖流入河川河口部でもたくさん捕れた。
そこはこれまで捕ったことがある場所の環境と大きく異なり、全く石がなくサラサラと水が流れるところだったので、捕れたときは目を疑った。
捕れたときはどの個体もかなり黒っぽかった。
腹の黄色が余計に目立つ。ウキゴリも同時に捕れたが迷うことはなかった。
繁殖期には特に雌が腹を鮮やかな黄色に染める。
雄はこの黄色に強く惹かれるのだろうか。
腹が黄色くないと地味。
体には透明感がある。
だから余計に繊細に思える。
この個体はスリムな体をしている。
お腹が大きく膨れるのはまだこれからなのかな。
4月中旬の雄。
今年は春が早かったせいか、この場所では個体の密度が低く、このタイミングでは遅かったのかも。
真横を向いてきれいにポーズ。背びれ後端の黒色斑がよく目立った。
上と同時に捕った雌。
腹の黄色がとても鮮やか。もう繁殖期も終わりなのか、見つけても雄ばかりで雌は少なかったな。
4月中旬ごろに捕まえた全長6.5cm程度の個体。
琵琶湖流入河川の河口から500m程度上流で捕まえた。全長は6.5cmくらい。
4月末に捕った雌と思われる個体。
腹部が膨らみ黄色く染まっていた。
雄だろうか。トップ写真と同個体。
ウキゴリに似ているが半透明でとても繊細なイメージを受ける。
腹がぺしゃんこで痩せていた個体。
産卵が終わり、間もなく最期を迎えるのかもしれない。
5月初旬の湖岸、石の下で卵を
守っていた雄。
卵には眼が見えていて、もうすぐ孵化すると思われた。雄は何日も餌を食べずにいるのだろう、お腹は凹んで体はほっそりしている。
イサザが占めていた湖岸に、
トウヨシノボリが散見されるようになってきた。ぼちぼち湖岸をトウヨシノボリに渡す時期だ。
繁殖期の個体を手にとるとこんな感じ。
ウキゴリの仲間らしく黄色のお腹がよく目立つ。
観察ケースに入れると落ち着かずに良く泳ぐ。
5cmほどの小さな体で時には80mもの深度を毎日往復するとは思えない。
雄、雌のペアと思われる個体。
ともに体長は5cm程度だった。
湖岸の石をめくると本種のものと思われる卵があった。
他の補食魚が活動を開始する前に産卵・孵化し、それらが活動を始める頃には親子ともどもとっとと沖に移動する戦略だ。
卵を守っていたと思われる雄さん、ごめんなさい・・・。
上から見るとこんな感じだ。
ウキゴリの幼魚によく似ている。
透明感があるのがわかるだろうか。
雄は頭がより大きくて縦扁している。そんな頭部はどこかミミズハゼに共通する雰囲気も感じる。
正面から。
大きな胸びれをもち、ハゼの仲間らしい顔をしている。深青色の目がとってもステキ。琵琶湖の深層水はこんな色をしているのだろうか。
早春に湖岸にやってきた雌を正面から。
口は大きく開く。
こちらは雄。
頭部はやや縦扁しており、横に広がった大きな口をしている。
プランクトンを食べるには大きな口が必要。
口を開くと赤いエラが見える。
3月中旬に捕まえた個体を正面から。
箱メガネで湖底をのぞきながらポツリポツリと捕まえた。ウキゴリ類の顔をしているね。
おしくらまんじゅう。
頭の形で雄と雌がわかる。雄の吻は太く平べったい感じで、雌それは細い。
から揚げのころもがあったので揚げてみた。
少し癖のある独特の風味が感じられ、まあまあといったところ。佃煮とかの方が個人的にはいいかな。
created:2013/4/30