ナガレホトケドジョウ Lefua torrentis
フクドジョウ科ホトケドジョウ属

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ナガレホトケドジョウ

【生息場所】 川面を木々が覆う鬱蒼とした山間部の細い谷川や沢に生息し、石や礫、流れに溜まった落ち葉や小枝の下に隠れている。
【外観・生活】 全長8cm程度になる日本固有種。体は一様に褐色で、円筒状で細長く、頭部は上から潰したようにやや平たい。口ひげは4対8本ある。 ホトケドジョウによく似ているが、よりスリムな体形をしていて、眼から吻端にかけて明瞭な暗色斜帯をもつこと、 背びれや尾びれの斑点があまり目立たないことから区別できるとされる。また眼の位置が異なっており、本種はより背側面についている。 胸びれから腹びれにかけて左右2本の白色線がある。これは個体ごとに形状が異なり、個体識別に使えるそうだ。 体はぬるぬるしていて、粗い礫の間をすり抜けるように移動する。繁殖期は5月から7月。流れの緩やかな岸近くの砂底に粘性の沈着卵を産む。 ホトケドジョウとは異なり、仔稚魚は浮遊・遊泳生活期をもたずに直ちに底性生活に入るそうだ。 夜行性で昼は礫の下などに身を潜めており夜に活動する。主に底生の水生昆虫などを中心とした雑食性だ。
【捕る】 タモ網で捕る。石や礫、落ち葉や溜まった小枝の下などに隠れている。 魚がいるとは思えないようなごく浅いところにいる場合もあるので、大きなタモ網が逆に邪魔になる場合も。
【その他情報】 本種は外観上よく似たホトケドジョウと同一水系に生息する場合があり、ホトケドジョウの型のひとつとされていたが、 1990年代にホトケドジョウとは別種の可能性が高いとして本和名が提唱され、2018年8月に学名が付けられ新種記載されている。 本種は遺伝的に山陽集団と紀伊・四国集団、日本海集団に三分される。紀伊・四国集団は体背面や背びれ、尾びれに斑点をもつ個体が多いとされている。 本種は自然度の高い場所に局所的に生息するため、山間部の道路建設や砂防堰堤の設置などに伴い、生息環境が悪化、現在急速に減少している。
【コメント】 本種をはじめて捕ったのは、背の高いヒノキ科の木々が茂る薄暗く細い川だった。 タモ網に入った2匹を見て、「うわ、こんなところでホトケが捕れた」と思った。でもすぐに違うと思った。 まずは見た目。細長くて一回り大きい。それから手にもった感じが違う。 ホトケドジョウは手でもってもホケーッとしてることが多いが、本種は筋肉質で力強い。 掴まれまいとして指の隙間をすり抜けたり、小さなプラケース内を素早く逃げ回ったり、地面に落ちたとき狂ったように跳ねまくる感じが全然違う。 これは最上流に生息することに適応した結果なのだと思う。ホトケドジョウも本種も自然度の高い環境に生息しているが、 里山のような人が生活している近くでも生息できるホトケドジョウと異なり、本種は人の生活が及ばない薄暗い山奥に生息している。 個体としてたくましい感じは受けるが、人が近くで生活しているとか、生息環境に人の手が少し加わるとか、 それだけで姿を消してしまう大変デリケートな魚なのだろう。

A地域:大阪湾流入河川域

杉の落枝が重なる淀みで タモ網に入った。同じ川でも山を登って行って民家が途絶えるポイントより上流に生息してる。この個体の全長は7cmに満たない程度。

全長6cm程度の個体。 川岸のあちこちから湧水があるようなところだった。ホトケドジョウとは異なりひれに斑点はあまり見られない。

上と同所で捕まえた個体。 同時にタカハヤの稚魚も捕れた。ぬるっとしている感じとか、一様に茶色っぽい上から見た目もよく似ている。 うっかりすると間違えそう。全長6cmだった。

春に捕まえた 全長約5cmの個体。眼から吻にかけて暗色斜帯がある。体は黄褐色でザラザラしたような細かい砂粒模様がある。 捕れた!と思ってもタカハヤの幼魚であることも多い。似てないように思うが、網に入った様子はすごく似ている。

薄暗い中を流れる上流域で タモ網に入った。本種が生息しているところは、大きな石や岩がゴロゴロしていて、タモ網を構えても隙間ができる。 なかなか捕れないのでたぶん捕り方が下手くそなんだろうなといつも思ってしまう。

砂泥が溜まった 上流域のちょっとしたタマリでタモ網に入った。全長は6cmに満たないくらい。

ケース内を反転しようと 体を浮かせたところ。ひれはやや透き通っている。明るいところは好きではないらしく、あっちへこっちへウロウロして落ち着かない。

捕ることができるのは、 背の高いスギやヒノキに囲まれた、うっそうとした山の中を流れる細い谷川。口ひげもひれもピンと広げて、背筋まっすぐでポーズ。美しい。

ややスリムな個体。 全長5.5cmぐらい。流心の石がゴロゴロしたところではなく、岸近くの浅いところで捕ることができた。 単にタモ網を構えやすかっただけかもしれないけど。

眼から吻端にかけて 暗色の斜帯があって、それはホトケドジョウより目立つ。頭は上からつぶしたように平たい。

背がポコッと盛り上がる。 口ひげは血管が透けて見える。大きな胸びれも印象的だ。

真上から。 ホトケドジョウに比べるとより細長く、胸びれもより大きい。

上よりこちらの方が実物の 色。

正面からの感じは なおさらホトケドジョウと違う。口ひげはより長く、中上流域の石の間に住むアカザにどこか共通するものを感じるのは私だけ?

真正面からは ひげで目が隠れる。つまりひげが邪魔で真正面は見えていないということだ。おもしれ~。

上流域での魚捕りは タモ網が構えられなくて大変。細い谷川となるとなおさらだ。随分捕り損ねたと思うが、捕れた個体をまとめて入れてみた。 ごつごつした石や礫の隙間に身を潜めて、こんな風に顔を出しているんだろうなぁ。

体は少し透けているように も見え、大変繊細な印象を受ける。人が住むところから離れた山の中、森の妖精というか、神秘的にすら見える。

B地域:近畿日本海流入河川域

たまたま 立ち寄ったところで捕まえた。 鬱蒼とした山間の春の川だった。冷たい水に我慢しながら、落ち葉や小枝が溜まっているちょっとした淀みでタモ網に入った。全長は8cmくらいだった。

同じ川で捕まえた個体。 よく似たホトケドジョウと比べると、体はより細長い。観察ケースの中を動き回る感じも全然違うし、手にしたときの力強い感じもぜんぜん違う。

背びれや尾びれに 小さな斑点が見られる。

水が大石にあたる 少し淀んだところで捕まえた。タモ網の中から追い込んだ際に入り込んだ杉の落ち枝をどけていると姿を見せてくれた。 顔がちょっとキツネ顔。腹部はやや黄色い。

全長約8cmの個体。 流れてきた杉の枝が重なり、流れを止めているところでタモ網に入った。捕れたっ!と思ったらタカハヤだったということが何度もあった。 横から見ると全然違うけど、上からぱっと見た感じは似てる。

上と同時に取れた幼魚。 全長は4cmに満たないぐらいだった。

同所で取れた 2匹を並べてみた。こうしてみると手にした以上に大きさに差がある。

同時に捕れた 3匹を入れてみた。赤っぽい体色をしている。

わかるだろうか、 胸びれから腹びれにかけてウネウネした白線がある。個体ごとに異なって個体識別に使うことができる。

上から見たところ。 酷似するホトケドジョウと比べて、頭部の感じが違う。眼の位置もより背面側についている。

眼から吻端にかけて 暗色の帯がある。

正面から。 頭は上から潰したようにやや平たい。口ひげは4対8本でホトケドジョウよりも長い。

体を浮かせて こちらを向いたところ。口はやや四角に開く。餌が乏しい最上流域で、水生昆虫などを探して貪欲に食べているだろうな。

last modified:2022/1/24
created:2016/3/25

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