トウヨシノボリ Rhinogobius
sp. OR
ハゼ科ヨシノボリ属
【生息場所】
河川の上流域から下流域、農業用水路や湖沼などに生息する。琵琶湖周辺では流入河川及び湖岸に生息している。
【外観・生活】
全長7cm程度。雄の尾びれの基底付近に橙色の斑紋があることが特徴だ。
眼から吻先にかけて左右2本の赤色線があり、ほほに赤色の小斑点をもつ個体もある。体側には比較的明瞭な暗色斑が並んでいる個体が多い。
胸びれは18~22条。他のヨシノボリ類同様に腹びれは吸盤状で、石や垂直な壁などにひっつくことができる。
雄の第1背びれが低い「小型」と高い「大型」があるとされる。例えば
琵琶湖周辺で見られる個体は大型とされるタイプで、雄の第1背びれは大きく烏帽子形に伸長し、前端が白や薄黄色に染まる。
繁殖期は春。雄は鱗が瑠璃色と橙色になり、全体的に青黒っぽい体色になる。
雄は浮き石などの下面に産卵床をつくり、雌を呼び込んで産卵させ、雄が卵を孵化するまで守る。
琵琶湖周辺では、琵琶湖内で浮遊生活をして成長した稚魚が、夏になると底棲生活をするようなり河川や水路を列をなして遡上してくる。
雑食性で水生生物を好んで食べる。
【捕る】
岸辺の草の下、水草の脇、石などの周りを探ってタモ網で捕る。
アカムシを餌にした底付けの仕掛けで釣れることもある。釣れた時はびっくりした。
【飼う】
飼育は難しくはない。
ただし、複数匹を水槽に入れると我先にと好きなところに陣取り、縄張り争いをするため、障害物や隠れ家を存分に入れた方がよい。
餌はアカムシなどが良く、人工飼料だと食べずに痩せてくる個体が出てくる。
お腹がすいていると混泳魚にかみつくので、混泳している魚が心配であれば餌を絶やさないことが重要だが、それはなかなか難しいかも。
【その他情報】
1989年「日本の淡水魚」でトウヨシノボリとされたグループには、湖沼型、房総型、宍道湖型、偽橙色型、縞鰭型と呼ばれていた集団など、
数多くの集団が含まれており、過去にはその中からビワヨシノボリ、トウカイヨシノボリ(ウシヨシノボリ)が、
2010年にはシマヒレヨシノボリが個別種として提唱された。
2013年「日本産魚類検索全種の同定第三版」では、トウヨシノボリという名称は姿を消し、
独立種とされた上記3種を除いた残りのトウヨシノボリのグループは、オウミヨシノボリ(琵琶湖流入河川他に分布)、クロダハゼ(関東平野に分布)、
カズサヨシノボリ(房総丘陵に分布)、未掲載(その他地域に分布)の種に分けられた。
その後、2018年「日本魚類館」にて、オウミヨシノボリとカズサヨシノボリは個体変異を考慮すると識別が困難な場合があるとして、
両者の名称は使用しないとし、それらを含める形で、2000年「日本産魚類検索全種の同定第二版」のトウヨシノボリのうち、
シマヒレヨシノボリ、トウカイヨシノボリ、クロダハゼ、ビワヨシノボリと区別された4種を除いたものを新たにトウヨシノボリとされた。
その「日本魚類館」では、トウヨシノボリを「小型で雄の第1背鰭が低い型」と「大型で雄の第1背鰭が高くて烏帽子形の型」の2つに分けている。
前者は本州、四国、九州に広く分布し、体長4cm程度で多くは内陸部の小水域で一生を送り、
後者は、北海道から九州北部の日本海側、九州北部から薩摩半島の東シナ海側、瀬戸内海沿岸地域、
房総半島から四国を経て大分県の太平洋側に分布し、体長5cm以上が多く、河川の中下流域に広く生息するとされている。
本頁で紹介している写真個体は全て「大型」とされるものだ。
【コメント】
国内に最も広く分布し、河川、小川、水路、湖沼、流れの速いところも緩やかなところも、幅広い水辺に生息していて個体数も多い。
最も目にする機会が多く、最もポピュラーなヨシノボリと言えよう。
地域差や個体差が大きく、いろんな型やグループを含み、どう整理、決着させるか議論され続けている?学者泣かせの混迷魚だ。
比較的簡単に捕れる、あるいはついでに捕れていることも多いので、子供達が川魚に親しむ入門魚でもある。
奈良に住んでいた頃、近所で捕れるのは比較的地味で小型のシマヒレヨシノボリばかりだった。
なので琵琶湖に流れ込む川の河口付近で本種をはじめて手にしたとき、その大きさや体色に驚いた。
特に青黒い体をした繁殖期の雄は立派でかっこよかった。尾びれ基部の橙色も燃えるような色をしていた。
初夏になるとその年生まれの幼魚たちがかわいい列をなして琵琶湖から上がってくる。
大きな段差があっても、吸盤状になった腹びれを上手に使って、水流に逆らい垂直な壁をツツツーッ、ツツツーッと上っていく。
川遊びに来た子供達は、小さなヨシノボリがたくさん張り付いた壁を見つけると、サーッと手でなぞって、壁の下に落としてしまう。
幼魚からすると随分迷惑なことだろうが、それも子供が魚たちと触れ合うコミュニケーションのひとつなのだと思う。
春に琵琶湖流入河川中流部で捕った個体。
「大型」とされるタイプで、第1背びれが烏帽子形に伸長している。体全体が濃いブルーグレーで、体側はメタリックな青黒色だ。
春に琵琶湖流入河川下流部で捕った個体。
繁殖期を迎え雄が婚姻色を帯びている。尾びれ付け根の鮮やかな橙色斑がよく目立つ。
同所で捕れた別個体。
全長は7cm程度。尾びれの付け根以外に、尾びれの下部、尻びれも橙色に染まる。体側の斑紋もよく目立つ個体だ。
婚姻色を帯びた個体の中で最も大きかった個体。
雄々しく、青黒く、力強い。
繁殖期の雄。
水中から上げるとこんなにも鮮やかだ。
琵琶湖流入河川の下流部で捕まえた
全長7cmほどの雄。
第1背びれの水色斑が印象的だ。
農業水路で捕まえた春の雄。
見てこの青黒い体、燃えるような橙色。めちゃかっこええ。かっこよすぎるやろ。
春、
コンクリで固められた農業水路でタモ網に入った雌。
お腹が大きいのは卵をもっているからだね。少し深いところに多くの魚が集まっていた。
琵琶湖流入河川の
中流域で捕まえた雄。
よく見ると網目模様がある暗い体色、黄褐色をベースに微妙な色合いで構成される尾びれの色、
派手さはないが、渋い感じがいい。いや、素晴らしい。
繁殖期の別の雄。
この個体はほぼ黒だ。黒青色の鱗がシブイ。全長は7.5cmくらい。
前日の雨で増水した川で捕まえた雄。
岸の近くで淀んだ場所でホンモロコと一緒にタモ網に入った。全長6cmぐらい。尾びれ基部の橙色がきれいだね。
上と同じ川でタモ網に入った。
体側の青がきれいだ。
琵琶湖流入河川で捕った繁殖期の雌。
卵でお腹が膨れている個体がたくさん捕れた。大きな胸びれだ。
琵琶湖流入河川で捕った雌。
全長5.5cm。卵をもっているようで、お腹がパンパンだ。
初夏に琵琶湖流入河川下流域で捕った個体。
この個体は頭部が灰色だ。
梅雨のはじめに
琵琶湖に流れ込む河川河口部で捕まえた。黒っぽい体色に背びれが明色で縁取られ、尾びれ付け根には濃い橙色の斑紋がある。
同じく梅雨のはじめに
琵琶湖に流れ込む河川上流部で捕まえた。大きな角張った石がゴロゴロしていて、同時にカジカ大卵型やタカハヤが捕れた。
梅雨の合間、
すぐ目の前が琵琶湖という川で捕まえた。全長5.5cmくらいの雄だ。体色は黒っぽく上から見ると背びれの明色がよく目立った。
別河川で初夏に捕った個体。
春の繁殖期ほど鮮やかな体色をしていない。
雌は地味な印象を受ける。
やや小さめのきれいな雄と一緒に捕れたのだが、恋仲を邪魔してしまったのならごめんなさい。
夏のコンクリート水路で捕まえた。
全長は7cmほどある立派な雄だ。体は黒く、尾びれ基部の橙色がよく目立つ。まるで燃えているような色で、この雄も夏の装い。
夏の琵琶湖岸で捕まえた雄。
きれいにひれを広げてくれた。黒っぽい体に、ひれの橙色や薄青色が美しい。かっこええわ~。
箱メガネで水中をのぞくと、今年生まれと思われる稚魚もたくさん見られた。
この季節、琵琶湖岸も琵琶湖につながる河川も小さな水路も本種だらけ。
琵琶湖流入河川中流の瀬で捕まえた。
瀬で数多く捕れたので、流れの強い場所を好むようだ。体は黒っぽく、尾びれ基底付近の橙色がよく目立つ。
河川上流部で秋に捕まえた雄。
体は灰色で、尾びれ基部の橙色が美しいが、どこか不機嫌そうに見える。
石がゴツゴツしていて激しく流れる場所にも生息しているんだね。新たな発見だ。
琵琶湖に流れ込む河川の中流域で捕まえた雄。
かっこいいね!
上と同所で捕まえた。
流れがあるところの転石の陰や草の陰でポツポツ捕れた。
琵琶湖に近い秋の用水路で捕まえた雄。
水から上げたときは青黒かったが、しばらくして観察ケースに入れると、この写真のようにこげ茶色・・・。
アングルの影響だと思うが、妙に頭部が大きくてずんぐりして見える。全長は6cmくらいだった。
上と同時に捕まえた雄。
観察ケース内を右に左にウロウロした後、緊張しているのか、ひれをピンと張って静止したところをパチリ。
冬に捕った個体。
繁殖期の春はまだ遠く、派手さ加減はやっぱり低い。
冬の個体。
川の水が流れ込む深みでタモ網に入ってくれた。ピンと広げたひれ、尾びれ基部の橙色、かっこいいわ~。
冬は魚が琵琶湖に下るのかな、あまり魚が捕れなかった。
上と同所で捕まえた全長4cmほどの雄。
ボディは濃青。
冬に捕まえた全長4cmほどの雄。
春のはじめに捕まえた雄。
全長7cm程度。琵琶湖に流れ込む河川の中流域、白波が立つ瀬で大きな石をゴロゴロどかすと下流に構えたタモ網に入った。
かなり流れの激しいところでも捕れるので、適応する生息環境はかなり幅が広い印象を受ける。
上と同時同所で捕まえた個体。
尾びれ付け根の橙色も見られないし、第1背びれが伸長していないので、雌かな。
早春の琵琶湖流入河川中流域で捕った雄。
全長は7cm程度あった。体色やひれの色が比較的薄い。体側の斑紋は青っぽく、尾びれ付け根の橙色がとても鮮やかだ。
上と同時同所で捕った全長6cmの雌。
この個体は体側の暗色斑は目立たない。鱗のオレンジ色が網目模様をつくっているように見える。
春のはじめ、河川のボサで捕まえた雄。
雪解け水のせいか、かなり強い流れがあった。黒っぽい体色をしている。
浅く流れる用水路のボサで捕まえた雄。
全長は5cmを超える程度。水路は3面がコンクリートで固められているが、所々に砂泥が溜まり、草が生えていた。
ドジョウやニシシマドジョウ、アブラハヤなどと同時にタモ網に入った。
全長3.5cmの幼魚。
GWに捕まえた幼魚。全長2.5cmほど。この
季節に何でこんなにちっちゃいんだろう。あなたいつ産まれた?
本種はたまにこのように腹がぷっくりした個体が
捕れる。同じ場所で同じような個体が複数捕れるので、寄生虫か何らかの病気なんだろうな。見ていて可愛そうだ。
早春に捕った全長約7cmの雄。
大きく伸びた第1背びれが立派!
上の雄と同時にタモに入った雌。
全長6.5cmくらいで、体は濃褐色だ。
ひれを全開した雄。
全長約5.5cmとやや小ぶり。
ずいぶん黒っぽい個体が捕れた。
尾びれ基部の橙色がよく目立つ。琵琶湖近くの春の用水路で。
春の雄の腹側。
腹びれは壁や石などにくっつくために吸盤状になっている。全体的に青灰色の体色だが、尻びれの鮮やかな橙色がよく目立つ。
春の雄を上から。
繁殖期の雄は背びれや尾びれの先端が白から薄黄色に色付いていて、上から見てもよく目立つ。
初夏の雄を上から。
背びれの白線が明瞭だ。頭部はやや灰色がかり、大きく左右に張り出している。
秋に捕まえた雄。本種の頭部はやや大きめだな。
大きな雄はやっぱりカッコイイ。
秋の雄。
黒い体に背びれの黄色が目立つ。
繁殖期の雌を正面から。
胸びれの条数は21本ある。この数値が確認できれば、カワヨシノボリではないとわかる。この個体は胸びれ根元に放射状に並ぶウネウネ模様をもつ。
雄を正面から。
頭部が左右に張り出す。
雄の顔を側面から。
頬には暗赤色の斑点がある。 口には細かな歯が並んでいる。
ほほが張り出してぷっくり膨れる。
繁殖期の雄。
たらこ唇をしていて口は上を向く。左右に胸びれを広げる。たまに同所で捕れるカワヨシノボリと比べると胸びれの条数が多い。
別の雄。
顔はこげ茶色。下唇の青緑白色が目立つな。
早春に琵琶湖流入河川中流域で捕まえた個体。
背びれが鮮やかに色づいている一方で、頭部は興奮しているせいかかなり黒っぽい。
雄を正面から。
顔は黒っぽく、下唇やあごのあたりが青緑白色。
グレーの顔をもつ雄を正面から。
目と吻先をV字に結ぶ赤色の線、頬にある小斑点がよく目立つ。
夏になると、
琵琶湖から大量の稚魚が河川を遡上してくる。写真は水が流れる垂直の石の壁をはい上がっている稚魚。
この芸当は胸びれが吸盤状に進化したおかげでなせる技である。
※これまで「オウミヨシノボリ」として紹介していたが、日本魚類館にて「トウヨシノボリ」に含めるとされたためここに改める(2018/10/6)。
created:2022/10/30