ツチフキ Abbottina
rivularis
コイ科カマツカ亜科ツチフキ属
【生息場所】
ため池や流れの緩い用水路、河川の中下流域の浅い砂泥底に生息している。常に水底にいる。
【外観・生活】
全長は10cm程度。
コイ科底モノ三兄弟(カマツカ、ツチフキ、ゼゼラ種群)の中では最もずんぐりしていて、背が盛り上がっているので猫背に見える。
体色や体側の斑紋の様子はカマツカに似ている。口は下向きで口の両端には短い1対の口ひげがあり、成熟した個体では上あごの後ろの背面が一部くぼむ。
特徴的なのは口から目にかけて比較的太い暗色帯があることだ。
「カマツカのように砂には潜らない」とものの本にはあるが、飼育しているとたまに体の半分くらいを砂に沈めていることがある。
見た目はやや鈍くさそうだが、ツツーッと素早く泳ぐ。関西での繁殖期は早春から春にかけて。
雄は背びれを伸ばし、胸びれの前縁に尖った追星を出現させ、腹びれや尻びれをオレンジ色に染める。
雄はすり鉢状の巣をつくって雌を誘い、雌はそこに寒天質に被われた卵を産み、雄が孵化するまで卵を保護するそうだ。
コイ科の中では珍しい習性で、雄が雌より大きい理由はそんな性質が影響しているのだろう。
雑食性で、イトミミズや有機堆積物(デトリタス)、浮遊動物、付着藻類などを食べる。
【捕る】
泥っぽいところをタモ網で探る。経験はないがアカムシを底付けすれば釣りでも捕れるかも。
【飼う】
飼育はやや難しい。昨日まで異常はなかったのにになぜ・・・という突然死も発生する。
水槽内での突進力はすごくて、驚くと水槽の壁に吻をぶつけまくる。大きな個体になるほど注意が必要だ。
エサは良く食べるが素早く食べることができないので混泳魚の選択にも工夫が必要。
底砂に頭を突っ込んで体をやや浮かして懸命にエサを食べる姿はどこか一生懸命さが感じられ、愛らしい。
繁殖期には雄が円状の巣をつくりその周囲に陣取る。何度も作り直すところが健気で、水換えの度に崩してしまって毎度申し訳ない気持ちになる。
【その他情報】
ツチフキという名は、雄が巣をつくる際に口に含んだ土をえら孔から吹き出す動作に由来するそうだ。
近年の研究で、東アジアに広く分布するツチフキは遺伝的に4つの系統があり、日本にはそのうちの2系統が分布していること、
日本固有の系統は、濃尾平野・近畿地方・山陽地方と北部九州に分布し、両者はかなり遺伝的な距離があること、
そして、北部九州と関東には外来系統のツチフキも生息していることが示されている。
※北部九州で捕まえた個体は
こちら / 関東で捕まえた個体は
こちら
【コメント】
底モノ三兄弟の次男坊ツチフキである。おちょぼ口で
とぼけたような顔をしていて、普段はザ・地味であるが、よく見るとなかなかシブイ、魅力的な魚だ。
長男のカマツカ、三男のゼゼラやヨドゼゼラは捕れても、本種はなかなか出会うことがなかった。
そんな中、やっと数匹がタモ網に入ったのは、水田地帯にある早春の用水路。
流れは緩やかで水深は浅く、底には田んぼの泥が溜まり、田おこしの影響で水が薄褐色に濁っていた。
繁殖期の初期だったようで、成熟した雄は、背びれを扇のように大きく伸張させ、胸びれ前縁に尖った追い星を並べ、
腹びれ、尻びれ、尾びれを橙色に染め、その雄々しい姿が印象的だった。
関西にある在来の生息地は狭くて限られ、個体数も少ない印象を受ける。
この印象は今もあまり変わらないが、2022年以降、30年近く採捕例がなかった淀川水系での発見が続いている。
増加要因の詳細は不明とされているが、近年の淀川での大規模な増水による多様な生息環境や産卵環境の創出、
長年にわたる外来魚駆除の効果などが考えられるようだ。生息環境が好転している兆しであって欲しい。
一方、北部九州や在来分布ではない関東では、外来系統の存在が明らかにされている。
関東ではコンクリート水路を上からサーッとすくうだけで、外来系統と思われる形態の個体がわんさか捕れる場所がある。
局所的場所の良いニュースに期待をもつ一方で、大きなスケールでなんか変になってることを心配する・・・。
春の初めに捕まえた全長約8cmの雄。
流れがほとんどない泥底で捕まえた。頭部が大きくてずんぐりとした体形をしている。
これからの繁殖期本番に向けて、ひれが伸び、色付き、トゲトゲの追星が出てくる。
春分の頃に捕った全長
8.5cmの雄。背びれ後縁が丸い形をしており円弧上に広がるが、この感じだとまだもっと大きくなる。
胸びれ前縁にはトゲトゲの追い星があり、腹びれ、尻びれは黄色く色付いていた。
別の雄。
背が大きく盛り上がっていて、カマツカやゼゼラと比較するとずんぐりしている。丸く大きな背びれを畳むとこんな感じ。
8cm以上もあるとなかなかの迫力だ。
さらに別の雄。
捕れたときから体色が薄く、体側の斑模様が不明瞭な個体だった。こういうアングルから見るとカマツカに似ている。
若い雄と思われる。
全長は5.5cm程度。
全長約6cmの雄。
小ぶりであるが胸びれには追星が出ていた。
全長約6cmの雌。
雄と比べると一回り小さい。雄とは背びれの形が違う。後縁は直線的で形は三角形といった感じ。
春に捕った雌。
ひれを全開するとこんな感じでなかなかスタイリッシュ。全長は7cm程度あり、そのとき捕れた雌の中では比較的大きめだった。
小石が混ざる砂泥底で捕まえた雌。
背が大きく盛り上がり、猫背に見える。全長は約8cmだった。
桜の青葉が出始めた頃に捕まえた雌。
体の全体的な雰囲気で雌だとわかるが、大きく膨れたお腹を見れば一目瞭然。
別の雌。
ケースの中で体を反転させようと浮き上がったところをパチリ。雄のようにひれが色づくことはないようだ。
全長は7cm程度。
卵でお腹がぷっくり。
4月に捕ったトップ写真と同個体の雄。
繁殖期には、雄は気性が荒くなり、他の雄や他魚がなわばりに入ってくると激しく追いやるようになるようだ。全長約10.5cm。大きくてかっこいい!
狭い観察ケース内で
体を反転させようとした瞬間をパチリ。ひれを全開。背びれはまだもう少しのびる。
春に捕まえた全長9cm程度の雄。
ゆる~く流れる浅い泥底のたまりでタモ網に入った。薄オレンジに色づいた縞々模様のひれがとってもかっこいい。
春のコンクリ水路でタモ網に入った雌。
全長は約8cmで結構大きかった。お腹に卵をもっているようでぷっくり。
梅雨のはじめに捕まえた個体。
全長5cmに満たないくらい。全長3~5cmくらいの個体を捕ることができたが、その中で最も大きかった個体。
この個体も5cmくらいあった。
小さくても背が盛り上がって成魚と同じ体形をしているが、側面の斑模様がよく目立つ。小さいのがかわいいんだ、これが。
全長4cmほどの個体。
ゆーっくりと流れる泥底でタモ網に入った。このサイズだと網を構えて足で追い込むよりも、網を引きずった方が上手く捕れる。
上と同時に捕まえた。
開けたところよりも草が生えているようなところで多く捕れた。コロコロしていてかわいい~。
同時に捕まえた小さい類の個体。
全長3cmに満たないくらいだった。幼い感じがまだ残っている。
夏に池で捕まえた
全長4.5cmほどの幼魚。
雨で増水した浅場で1匹だけタモ網に入った。周囲には硬いヨシが茂り、足を踏み入れたり、タモ網ですくうこともできない。
幼魚にとってはいい隠れ家になっている。もっといろんな個体を見たいけど、それでいい。
夏の終わりの全長5.5cmほどの個体。
雨後の増水した河川で捕まえた。流されてきたのかな。
上と同所で捕まえた。
本流から外れた浅い砂泥の水草の中でタモ網に入った。やはり流れのある場所は好まないようだ。
秋に捕った全長4.5cmの若い個体。
雌雄の差なのか、生まれた時期の差なのか、個体差なのか、成長にはばらつきがある。
稲刈りが終わった秋の水田近くで
捕まえた。流れが非常に緩やかな水路の泥底にいた。全長5cmに満たないくらいだが、この個体、眼が大きい。
比較的スリムで外来系統っぽいところはあるが、体側の斑紋の明瞭度や尾びれの模様などはそこまで振り切れてない。
痩せた在来ツチフキでいいかな。もし外来だったら大変だけど!
秋の河川で捕まえた個体。
水が淀む砂泥底でタモ網に入った。円い眼で幼い顔をしていて、かわいいな。背びれが丸く大きいので雄だね。
秋の終わりに捕まえた雄。
全長は8cmほどあった。
田畑の脇を流れるコンクリート水路でタモ網に入った。浅い水路であったが、水が溜まり淀んでいる場所で数多くの個体が見られた。
同所で捕まえた雄。
全長は少し大きくて8cmを超えるぐらい。これくらいの大きさまで成長すると、雌雄ではっきりとした違いが表れる。
雄の背びれ後端は弧を描く。
溜まった落ち葉ごと底の泥をすくうと、
モツゴやブルーギルと一緒にタモ網に入った。夏に見られた幼魚の可愛らしさはなくなり、雄らしいかっこいい顔つきに変化している。
この個体の体の斑模様はかなり不明瞭。
秋の終わりに捕まえた雌。
全長は約8cmで、雌にしては大きな個体やったけど、背びれ後端は直線的で雄のそれとは異なる。体全体の雰囲気も何となくやさしいね。
上と同所でタモ網に入った雌。
水路を覗き込むと、泥底の上でじっとしている姿が確認できたので、タモ網をそーっと近付けると、サッと素早く姿を隠してしまった。
どうやら驚くと、泥底に潜るようだ。
2月末、農業水路で捕まえた雄。
全長は10.5cmあった。胸びれにはトゲトゲの追星が見られなかったが、背びれがやや伸長し、繁殖期が近づいている雰囲気がある。
光の当たり方によっては、
青紫メタリック色に見える。鱗の構造色によるものだが、水の中ではどんな風に見えるんだろう?
早春に捕った
雄雌のペア。手前の雌は全長7cm程度あり、お腹が大きかった。卵をもっていると思われる。
GWに捕まえた仔魚。
全長1cmを超えるぐらい。岸が草で覆われた流れのないところで、フナ類の稚魚たちと同時にタモ網に入った。
半透明で網の目からこぼれ落ちるサイズ。網に入っていることによく気付いた!
冬の雄。
体は褐色でカマツカをずんぐりしたような感じ。胸びれにトゲトゲの追星はまだみられない。背面には斑紋がある。
胸びれを広げ底モノらしく定位する。
この個体の背面は緑褐色。
繁殖期を迎えた雄。
腹びれがうっすらとオレンジ色に染まり、背の斑紋がはっきり。
繁殖期の雌。
お腹が膨れ、ころっとしている。無事に卵を産んで、子孫を増やして欲しい。
伸長した雄の背びれは存在感抜群。
尾びれが黄色っぽいこともあって、なんとなくトラ模様。
春の雄成魚の胸びれ。
前縁には堅く尖った追い星が出る。ギザギザでノコギリの刃のようだ。巣に侵入してくる他魚を追い払うのに役立っているのかな。
雄の成魚の頭部を拡大。
背にかけてグーッと体が盛り上がる。眼から口にかけて暗色の帯がある。つぶらな瞳をしていて、何か言いたそう・・・。
口から目にかけてある暗色帯がある。
口の大きさや口ひげの長さはいずれもカマツカとゼゼラ種群との間というところ。口ひげは見ようによっては牙が生えているようだ。
立派な雄の顔。
口はこんな風に三角形をしている。口の周囲には追星らしきブツブツも見られる。
若い個体がこちらの様子をうかがっている。
子豚っぽく見えるのは私だけ?
おチビちゃんを並べてみた。
ひとつひとつの個体はかわいいんだけど、集めるとこちらをうかがうまん丸お目目がちょっと怖いかも・・・。
雄の成魚を真正面から。
そばかす顔をしている。カマツカも真正面からみるとこんなシルエット。こちらはやや体高があるかな。
水路に戻したところ。
底に泥ががたまり砂や小石があるようなこんなところが好きみたい。
created:2013/3/17