ヨドゼゼラ Biwia
yodoensis
コイ科カマツカ亜科ゼゼラ属
【生息場所】
淀川水系河川の中流から下流域、ワンド、タマリ、水路などの砂泥底に生息している。
季節的な増水などの攪乱があって、水位差の大きい不安定なところを好むようだ。
【外観・生活】
琵琶湖・淀川水系固有種で全長は8cm程度。2010年にゼゼラ種群から独立種とされた。
ゼゼラと比べると全体的にはずんぐりしてる感じで、ひれの感じや暗色小斑点の分布など幾つかの相違点がある。
ただし、冬の個体はスリムでゼゼラと紛らわしい。
春から初夏の産卵期には雄の体が黒銀メタリックの婚姻色に染まり大変格好良くなる。
雨などの増水がきっかけとなって産卵するようで、ヨシなどの水草の根の間などに透明で粘液に包まれた卵を産み、雄が卵を保護するそうだ。
口は下向きに小さく、突くようにして泥の表面にある藻類や底の有機堆積物(デトリタス)などを食べている。
ゼゼラ同様に多くが1年で成熟し、産卵後一生を終える年魚である。
【捕る】
もっぱらタモ網採集である。口のサイズなどを考えると釣りではまず捕れることはないと思う。
夏の終わり頃にはその春に産まれ成長した3~4cmくらいの個体が捕れる。
【飼う】
飼育は難しい。ゼゼラほどではないが、同様にすぐに痩せてしまうし、たまに理由もわからず突然に死ぬことがある。
過去何度かの飼育では半年くらいで死なせてしまっていた。
しかし、本種のみの単種飼育とし、細かくした餌を横取りされることなくゆっくり採ることができる水槽環境にすると、痩せることなく数年間飼育できている。
本種の場合、採餌面で工夫が必要だ。ただ年魚なので、繁殖させるとその後死んでしまうと思う。
【その他情報】
本種は2010年にゼゼラ種群から個別種として記載され、琵琶湖・淀川水系ではアブラヒガイ以来となる28年ぶりの新種とされる。
ゼゼラと比較すると、全体的にずんぐりしていて、体高や尾柄高が高く、背びれや尾びれの暗色小斑点の分布帯が広く、尾びれの切れ込みが浅い。
繁殖期の雄であれば背びれが伸張し後端が円くなる、胸びれ前縁に現れる追星が大きくて数が少ない(15個未満)などの特徴がある。
さらに縦列側線鱗数などにも違いがあるという。ちなみに本種の側線鱗数は34~36枚であり、琵琶湖淀川水系産ゼゼラの37枚より少ない。
河川改修、河床低下による繁殖場所の消失、水位安定化による攪乱頻度の低下、圃場整備による水路改修、宅地化による水田や水路の消失などにより、
生息地が縮退し続けており、個体数が減少している。
【コメント】
過去の淀川には河川本流とは別のワンドやタマリといった場所が数多くあり、そこは現在よりもずっと水位変化が大きかった。
そしてそこには優先するほど多数の本種(当時はゼゼラとして扱われていた)が生息してたそうだ。
天然記念物のイタセンパラ同様に「氾濫原をもつ本来の淀川」に適応し特化してきた種なのだろう。
現在の淀川は淀川本来の姿を失ってしまったため、本種にとって好適な環境は少なくなっており、個体数の減少が進んでいる。
ヨドゼゼラのヨドは淀川を指す。淀川は京都・大阪という大都市圏を流れる大きな河川である。
人口が多いところを流れるため、地域の経済社会や、人の考えや生活に大きく影響を受け、人の都合により変えられやすい川だ。
自然のままに里山を流れる川とは全く異なる。
そんなところに生息し続けてきた本種はきっと、人が自らの都合のみで、暴力的にそして急激に変化させた河川環境に戸惑っているに違いない。
いかにも繊細そうな本種の個体数減少はその現れだろう。たまに捕れると妙に嬉しくて飼育したい気持ちに襲われる。
でも飼育は難しいから、出会いに感謝しリリースすることにしている。1年限りの寿命、毎年絶えることなく命がつながっていくことを願う。
そしてその環境を人が大切にすることを願う。
初夏の陽気の中で捕った春の雄。
繁殖期を向かえ黒銀メタリックな婚姻色に体を染めている。周囲には産卵のために集まってきたと思われるコイやナマズがウロウロしていた。
全長約7cmの雄。
岸近くの草の下でタモ網に入った。小さな魚ですがカッコイイです。
別場所の雄。
ゼゼラと比べると随分コロコロしているが、見かけによらず動きは俊敏だ。水はあまり入れていないのに観察ケースの壁を何度も越されそうになった。
繁殖期の雄を捕まえた。
草の根元やツルヨシの根、転石の横などで捕まえることができたが、雄が多かった。なわばりをもっていたのかも知れない。
この婚姻色、いつ見ても素晴らしい!今年も出会いに感謝だねー。川に戻そうとしたら、自ら観察ケースから飛び出して川に戻っていった。
本種が確認できたのはいずれも砂泥底だ。
過去はもっと広く分布していたと思うが、本種にとって好適な生息地は限られている。人による環境改変が招いた結果だろう。
春の農業水路で捕まえた雄。
全長は6cmを超えるぐらい。体を美しい婚姻色に染めている。流れがぶつかり、周囲よりやや水深のある泥底でタモ網に入った。
水面からは何もいない水路のように見えるが、タモ網を入れるとちゃーんと捕れる。体色が周囲に上手く溶け込んでるんやろうな。
水が緩やかに流れる水路で捕まえた。
婚姻色はいまいちだったけど、背がぐっと盛り上がり、背びれが伸張している。ヨドゼゼラらしい体形だ。
春に捕った雄。全長は約6.5cm。
背が盛り上がり、ずんぐりした体形だ。婚姻色はあまり出ておらず、体側に並ぶ斑紋が確認できる。
冬に捕れる個体と同じような体色だが、体形はだいぶ違う。
背びれ全開。
後縁が膨らむように円くギザギザになっている。ゼゼラとの相違点のひとつだ。
真横を向いて真っすぐに静止してくれた。
コロッとした体形をしているが、泳ぎは想像以上に素早く、ツツツーッと真っすぐに移動する。
ひれの伸張具合、婚姻色ともにピークに近
い雄。
体高のある立派な体をしている。同時同所で捕れた雄であっても個体間に差がある。
この個体はその中で最も体色が黒かった。厳つくて、可愛くて、かっこええ。
小河川で春に捕った雌。
雄と比べると背びれは小さい。お腹が大きく膨らんでいた。
卵をもっていると思われる雌。
全長6cmに満たないぐらい。繁殖期に体色が黒っぽくなる雄に比べると、雌は繁殖期でも黄肌色のままだ。
お腹は大きく、尾柄は低くてメリハリのある体形だ。
上と同時に捕れた雌。
今にも卵を産みそうなくらいお腹がパンパン。次の雨による増水が刺激となるかな。個体数は減少しているし、ここでしっかり子孫を残し続けて欲しい。
卵をもっていると思われる雌。
全長は6cm程度。ひれの暗色小斑点も少なく、ボディもシルバーで色白美人だ。
背びれは再生し始めているが、何者かに噛み付かれたのかも。
春に捕まえた雌。
同じ場所で雌雄複数匹が確認できた。同じ川であっても、いるところには集まっているし、いないところにはいない。
きれいなところが好きという訳ではなさそうだけど、生息環境の好みは結構うるさいかも。
体形は丸っこくてずんぐり。
本種らしいやさしい感じを受ける。中層を泳ぐモロコを底モノにしたようだ。全長は5cm程度。
冬に捕まえた全長5cm程度の個体。
太陽の光を浴びてシルバーにキラッと輝くボディがいい感じ。冬の個体はどれもスラッと細長い体形だ。
冬の個体。
泥底をさらうとタモ網に入った。この個体は明るい体色で、背びれや尾びれの黒色斑点もあまり目立たない。
そのせいか、どこかひれが大きいように見える。
冬の水路で捕まえた。
春のずんぐりした体形も個性的でいいが、冬のスラッとした体形も美しくていい。白金色に輝き、鋭い顔つきをしている。
吻は丸くてとても可愛らしい印象だ。
背の色はオリーブグリーン。
体は前方がクッと盛り上がり、
後方にスッとスマートになる感じ。ただ、ゼゼラほど細くはないな。琵
琶湖・淀川水系に固有で淀川中下流域に生息するが、確認できる場所はどんどん少なくなっている。
背びれや尾びれには
暗色小斑点が全体的に散らばる。尾柄がスリム。
淀川から水を引く用水路で捕った個体。
全長6cm程度。ここは冬になるとたまに姿を現してくれる。
冬に捕った全長6cm程度の個体。
足で水底をかき混ぜると適度に泥が舞うような砂泥底でタモ網に入った。
水位差の大きなところが好きで、決してきれいとは言い切れない河川支流でも入りこんでくる。
胸びれを立てて反り返るような格好をたまにする。
春になると肉付きが良くなり、
背がグンと盛り上がる。冬の個体と比べるとなかなかの変身ぶりだ。体側には暗色斑が並ぶ。
桜散るころに捕った春の個体。
婚姻色や追星は見られず、繁殖にはまだ少し早いようだ。
初夏に捕った全長2cmほどの幼魚。
写真のような個体が岸近くの草むら根元で何匹か確認できた。親魚はすでに見られなかった。
同時に捕った更に小さな個体をもう一枚。
透明感のある体の斑模様が目立つ。
春の雄はメタリックな体色。
光のあたり具合にもよるがギンギラギン。
春に捕まえた成熟した雌雄。
手前が雄で、奥が雌だ。水が温み始めると体形や体色に雌雄の差が出始める。
春はもうすぐ。
いつまでもこんなかわいい魚たちと出会える水辺であって欲しい。
冬に捕まえた個体の頭部。
下向きに突き出た小さな口がわかる。底のデトリタスを突っつきながら食べている。
繁殖期の雄。
体全体に高さが出て銀黒色になる。胸びれもメタリックにキラキラ。
繁殖期の雄の胸びれ。
前縁には堅く尖った追い星が2列並んでいる。ギザギザでノコギリの刃のようだが、ツチフキのそれよりずいぶん細かい。
キラキラしていて薄っすらと金粉をまいたようだ。
春の雄。
鱗は構造色らしいメタリックな輝き。腹びれはゴールドパールに色付いて美しい。
春に捕ったペアを真上から。
画面上が雌、下が雄だ。ひれの端は独特のパール色に輝いてきれいだった。体の模様はカマツカそっくり。胸びれを広げ定位していることがわかる。
冬に捕った個体を真上から。
やはり冬はスマートだ。捕れる場所の環境で体色は少し違ってくる。この個体は背は緑がかった褐色グレーで暗色斑がある。
淀川につながる用水路でヨドゼゼラ発見。
こんな姿をいつまでも見たいものだ。流れの中をそろって遡上中?
雄を正面から。
吻はずいぶん丸い。もしかしてちょっと睨んでる?
黒っぽい婚姻色に体を染めた雄。
胸びれ前縁にギザギザの追星が見られ
る。
卵をもっていると思われる雌。
お腹が左右に大きく膨らむ。
雄を真正面から。
かわいい顔をしている。
幼魚の口は開くとこんな感じ。
とっても小さいのだ。
繁殖期の雌雄を正面から。
お腹が膨れた左の個体が雌で、黒っぽい体色をしている右の個体が雄。全長は雄の方が少し大きいけど、体の幅は雌の方が大きい。
捕った何匹かの個体を集めて
”おしくらまんじゅう”。かわいい顔がいっぱいだ。
繁殖期に捕まえた。
すぐ上の写真の個体もあと2、3カ月もすればこんな風になる。
右の3個体が雄、左の1個体が雌だが、雄の変貌ぶりはなかなか。どこか無表情だし、こう見るとちょっとグロいかも?
繁殖ピーク時に捕まえてすぐだと、
雄はこんな体色。婚姻色である黒銀メタリック色が強く出ている。明るい場所にいれると他魚同様に色が薄れる。
created:2012/1/7